チェス
† cion †
時代は、人々と共に発展し続け。
人々の好奇心と欲望は、止まる事を知らずに膨らみ続けていった。
そして、運命の天秤は人々の驕りによって勢い良く傾くのであった。
時は、現在より遥か未来の世界、居住空間が地球と言う惑星ではなく宇宙と言う広大な世界に住まう事がアタリマエとなった世界。
宇宙空間には、道路を走る車を思わせるような小型のシャトルが行き来をしている。
太陽や光星から光を集めるソーラーパネルが万華鏡のように輝く世界。
異常とも言える宇宙開発の切欠は。
単純で。
明確で。
漠然としていて。
残酷であった。
それは、地球を護るオゾン層の急速消滅、オーストラリアを中心に大穴は一気に拡大し地球は丸裸となる事を誰もが知る真実となり。
母なる星を捨て移住しなければ「死」と言う道しかないと悟り、焦った人類の決断からなる過ちだったのだ。
多少の知能は、危険に対して拒否反応、又は、回避行動を取ろうと思考する。
無知な体細胞生物であれば、過ちなど起きなかったに違いない。
そして、人々が恐れた漆黒の闇は。
未来と言う空間へと姿を変えた。
だが、人々は踏み入れるべきでは無かったのだと想う。
この漆黒の世界などに。
そう地球と共に死を受け入れれば良かったのだ、摂理と理解して。
太陽系に散らばるように移住した人類。
だが、移住と言う言葉は難しく、宇宙に浮かぶ人工物に移り住む事は可能であっても、星々の温度や環境に対して順応するまでの技術を会得はしていなかった。
火星に移り住むと言う話もあったのだが、開発は難航し火星移住の兆しが一向に見えてこない現状では。
個々の人工物、つまり大型なモノで「コロニー」、小規模なモノで「ステーション」などが「国」と同等の意味を持ち。
人類の愚かな知恵の所為からなる陣地争い。
例えるのであれば。
宇宙をボード。
その中に存在する人々をコマとする。
とてもタチの良いとは言えない「チェスゲーム」が再び行われようとしていた。
そして、このゲームのタチの悪い所は、地球に居た頃と違い、国と国とは隣接していない。
つまり、なんらかの方法で「敵」の人工物を破壊すれば勝利と言う、残酷で身勝手なゲームだと言う事だ。
この物語は、その「チェスゲーム」の中で「コマ」として存在しゲームに参加していた者と、「コマ」ではなかった者の「コネクトエピソード」である。
「チェスゲーム」が、又も始まったとホールのモニターが報道しいてる。
この放送を聴いて、溜め息をついている女性が、この物語のヒロイン「ルナリス・エージン」。
「はぁー、もう嫌になるな、なんで戦争なんて」
時が進もうとも、科学が発展しようとも奇形として生まれてくる能力を持った人類。
この少女も奇形に属する力を持つ。
また、戦争かと肩を落としガックリと椅子に持たれる彼女の足元には大きな鞄が置かれている。
そう、彼女の門出の時なのだ。
戦争などしない中立の小さな「ステーション」に一人で移住するのが彼女の目的。
大きな鞄を肩に架け直し半重力のシャトルカウンター内を移動する。
不安は、あるが何より平和を主張する場所に興味があったのだ、何よりも好奇心が勝ったのだろう。
一月前に、彼女は「チェス」と言う馬鹿げたゲームの所為で大事な家族を失った。
家族が移動に使っていたシャトルではなく、用事があり二便遅れた彼女だけが助かったと言う居心地の悪い存在感と家族への悲しみを振り切る為にも、彼女は場所を変える事を選んだ。
そして、新天地へと向かうシャトルに乗り込み、シートとへ腰を下ろす。
ほんの少しGを感じながら発進したシャトルは、此処から二時間の移動をする。
この、二時間の睡眠が最後の安堵だったのかも知れない。
電子音が到着を知らせ、ルナも気付きシートを立つ。
不安と期待の天秤を胸に、中立衛星「ムーン・トライアングル」のシャトルカウンターへと降り立つ。
開放感に溢れた、全面ガラス張りのテラスのような雰囲気のロビーを抜けながら都市へと続く道を行く。
道案内のタッチパネルに触れようとした瞬間、周囲から光が消えた。
衛星の様な電子制御の空間での停電や故障は、「死」に直結する感覚。
各所で響く悲鳴から数秒、紅く滲んだような非常灯が発光し最低限の視界は確保できた。
息も苦しくないと言う事は、生命維持装置も正常に機能しているようだ。
ホッ、と安堵で胸を撫で下ろすルナ。
だが、一瞬で非常灯が消え、再び漆黒へと逆戻り。
とても事故とは思えない、人為的な何かを感じる。
その時、一瞬の頭痛と共に、ルナの脳裏に黒いタイツを身に纏った集団の姿が見えた。
そう、彼女の能力は「予知」。
と言っても何かを探れる程のモノではない、ただハッキリとしている事は、ルナの脳裏に過ぎる映像は、数秒後に対面する現実と言う事を彼女は身をもって知っていた。
彼女は身構え、脳裏に過ぎった画像を元に瞬間的に建物の位置と天井の角度から飛来する的の方向へと少し大きめのハンドバックを思い切りなげる。
「ぐっ」
青年の声だった。
声の方向から大体の位置は解る、先手を考えた彼女は次に端末の横に置いてあるポール状の灰皿を思い切り振り下ろす。
キンッ、響く音。
ソコに青年はいなかったようだ。
場所を間違ったか、移動したか。
後者なのであれば、青年は暗闇で視界を確保する装備をつけている事になる。
明らかに不利だと解った瞬間、咄嗟に壁へとバックステップを行ったが、背に触れた感覚は平面の金属質のモノではなく。
熱を持った人の体だと一瞬で解った。
だが、解ったと同時に首筋に冷たい感覚を覚える。
背筋が凍ると言う言葉の意味を始めて知ったと感じながも抵抗する体、脳は何も考えてはいなかった。
腹筋目掛けて打ち込んだ肘打ち。
一瞬のスキに振り返ろうとしたが髪の毛を思い切り掴まれ状態は再び逆転した。
またも、頭痛。
不意に過ぎった画像は、腰の銃。
丁度、左腰から右手で銃を抜くようにしてあるようで私から、とても抜き易い位置に存在していた。
何も見えていないはずの人間が、おこなった予想以上の行動に驚いたのか髪を掴む手がゆるんだ。
儲けと言わんばかりに大きく一歩ステップし、憶測で位置を決め、脇を締めトリガーを引く。
タンッ、乾いた音。
またも、外れたようだ。
漆黒のホールに響く銃声にドヨメク場。
そして、ルナに勝機が訪れた。
唐突に復帰したホールの非常灯、薄暗い中でも、この距離ならばハッキリと相手の場所と距離が掴める。
再び銃を構えると男は、軽く舌打ちをして逃亡を試みる。
だが、ルナにはハッキリと見えていた、消えた方向と彼の服装が。
正義感が強いのか、好奇心なのか、ただの馬鹿なのかは定かではないが、何故かルナは銃をベルトに挟み後を追う。
そして、彼が逃げたルートは、ハズレだったようだ。
何処の工作員かは知らないが、アノ軽装に鋼鉄のステーションの壁を壊せるようなモノを所持出来る事は考えにくい。
そして、なにより此処は小さなステーション、壁を爆発などさせた衝撃で外壁に亀裂でも入れば、彼を含めた全員の生命を護ってくれるかどうか解らない。
なので、爆破の可能性は、ほぼ零。
勝ったと確信しながら銃を向ける。
この時、もう一丁あると考えなかったのがルナの迂闊な所であった。
不意に、彼が手にした銃は一直線に私を狙っている。
彼の計算は、目立たぬ所で私を消す為だったようだ。
逃げ切れたら、それはそれでOKだったのであろう。
状勢は二転三転し、再び不利に傾いた。
やはり、追うべきではなかったと後悔しても後の祭りだったのであろうか。
しかし、彼女の意思とは別に体が動いた。
銃を置いて降参のポーズを取る事が解るかのように、相手の顔を見ながら銃を地面に置く。
その瞬間に左手が携帯電話を彼の顔に目掛けて投げつけた。
当然交わされたが、彼の目線は一瞬では有るがルナから外れた。
そして、携帯電話と同じ起道を追うかのようにルナの跳躍、一気に間合いを詰め彼の小型リボルバーを私の御借りした大型のオートマチックで叩き落とした。
流れるように動いた彼女の体は、そのまま、姿勢を屈伸のようにしゃがみ、左足を軸にした回し蹴りのような姿勢で地に落ちたリボルバーを後方に蹴り飛ばした。
間髪いれずに距離をとり銃を再び彼に向け直す。
ルナがとった戦法を彼が再び、先手を打った者に対してするとは考えられない。
降参したかのように彼がマスクをとった。
青年と言うには幼い顔には、とても冷たい青い目と恐怖を覚えるのではないかと言う紅い瞳が埋め込まれていた。
「終わりか」
彼の発した言葉は、命乞いでも遺言でも懺悔でもない。
無感情な降参。
もしかした、端末前で首にナイフをあてられた時よりも銃を向けられた時よりもビックリしたかもしれない。
「とりあえず、ナイフを此方に頂戴、いいえ、全ての武器を」
自分でも驚くような発言が口から零れる。
彼は、コマンドナイフ一本、スローイングナイフ二本、デリンジャーを地面置き、此方に滑らせてくる。
まだ銃を持っていたのかと思うと寒気が走る。
全ての武器をジャケットとベルトに挟むと同時に彼の第二の発言が訪れた。
「何故、殺さない?」
殺すのが普通と言う口ぶりからなる疑問、ルナは驚きを隠せない。
「別に殺したい訳ではないからよ」
単にルナの本音をぶつけただけだが、彼は意味が解らないと言うような顔をしている。
なんだか、何も解っていない子供に銃を向けているようで少し嫌になる。
その時、意外な訪問者が訪れる。
「先程の銃声はお前か、女だとはおもっていなかったな」
恐らくは制服から見て此処の警備であろう。
ルナに向けられた銃は完全に背をマークしている。
たしかに、銃声を鳴らしたのはルナなのだが停電を含めたテロ集団の一名と想われているこの状況は笑えなかった。
「へっ、いえ、私は」
そんな応答は、銃を片手に言うには説得力がなく、ジリジリと距離を詰められた瞬間。
彼が壁を蹴るように跳躍し、同時に伏せろと命じた。
咄嗟に伏せた私の上を通り抜け彼のブーツの底が警備員の顔面に直撃した。
彼は腰から警棒と落ちた銃を拾い上げ再び、ルナの方を振り返る。
今度こそ完全に殺されると悟った瞬間。
彼の発言は、又も彼女を驚かせる。
「逃げよう」
「へっ」
強引に二の腕を掴まれ、不恰好な姿で走りながら無理矢理に思考を回転させるが答えが出ない。
答えは、彼がくれた。
「お互いテロリストとして思われている、逃げなければ殺されるだけだ」
予想もしていなかったコメントにただ疑問符を浮かべ慌てる事しか出来ないルナ。
何処かに隠れられる所は無いかとキョロキョロとしているのが手に取るように解る彼の行動。
彼が見つけた扉は、このステーションの何層にも分かれているブロックとブロックを繋ぐ非常通路であった。
だが、電子ロックが掛かっていて扉が開く事はないようだ。
ルナの予知も万能ではなく、必要な時に容易に反応はしてくれないのでアクセスキーも解らない、背を追われている立場としては此処で時間を取られるのは得策ではない。
他の場所を探そうと提案する為、端末から身を逸らし彼の方を振り返ると、彼は防弾チョッキの下に着込んだ服のポケットから一枚の何も書かれていない白いカードを取り出す。
リーダーに通された何も記されていない異物の鍵を、あたかも主人と認識したかのように重い扉はユックリと開く。
無言でゲートを越え、扉が再度しまると同時に彼は座り込む。
「何よ、あのカード、明らかに偽造じゃない、そんなものを持っているうえに、その武装、アンタはいったい何なのよ」
巻き込まれた事に対して不機嫌そうに疑問を問いかけるルナに対して彼の応答は、とても正確なモノを返した。
「オレは、此処に少女を拉致しに来た。 組織の命令で、道具は全て用意されたモノだ」
何の躊躇も無しに目的を話す彼、普通であれば何も答えられないはずだ。
もしくは、再度、ルナを殺そうとするか、そのくらいしかパターンは無いと考えていたからだ。
「なんか、随分と素直に話すわね、なんかのワナ?」
皮肉混じりのコメントは、意味不明な行動に対する当て付けに等しかった。
何処の世界に、さっきまで銃を向けあった人間の言葉を易々と信じ、警戒を解ける人間がいるものか。
まだ、何処かに武器を隠し持っていてもおかしくない気がするので、この男は怖い。
「もう隠してもしょうがないんだ、君ともめている間にタイムリミットを過ぎてしまった。 もうチームには戻れない」
初めて見せた表情は少し寂しげなモノだった。
「やろうとしている事からして、いかにも悪の組織に戻れなんていわないけど、戻れない理由がわからないわ」
その疑問は、当然で必然。
この疑問は、誰もが感じるようなもので。
とてもアタリマエで。
そして、二人の運命を変える。
「さっき言ったが、俺達には、タイムリミットがある」
淡々と説明は続く。
尋問などとは違う、知人に何かを話すようなペースで。
「メンバーはオレを入れて4人、誰か一人でもラチに成功すれば任務は遂行。 元々、偶然にも二人が同時に
ゴールは有り得ないので結局一人しか帰る事は許されない」
ありえない考え方の組織があると認知したルナは声も出なかった。
「このステーションの最下層の発進カタパルトに民間船に偽装された船がある、それで一名のみが脱出。 そして発進と同時に背中の起爆装置が爆発して脳分析をされないように俺を含む三人はコッパミジンと言う話だ」
呆気にとれらたとしか表現のしようのないルナは固まっていた。
「ちょっ、えっ、アナタ、それでいいの?」
何の疑問も、死に対して足掻きもせずに座り込む少年にただ疑問しか浮かばない。
「予定だと、どれかのルートがOKなら後、8分って所か、君にはカードをあげるから逃げるといい」
無表情な顔からなる細身の体が、真っ白なカードを差し出す。
だが、ルナは受け取りはしなかった、イキナリ、彼の腕を掴み地面に捻じ伏せた。
「何をする」
さすがに感情が見えにくい彼も解りやすい「驚く」と言う反応を見せた。
「アンタの爆弾を取るの、黙ってなさい」
先程、奪ったナイフの先端で四方のネジを外し、数本の試験管のようなモノと大量のコードとご対面。
またも、ルナの脳は何も考えていないにもかかわらず中枢すら伸びるコードを一本づつ目で追っていく。
「おい、ミスったらキミも一緒にバラバラだぞ、一般人に出来る訳がない」
初めて優しさに似た感情を垣間見た気がした、テロリストでも部外者は巻き込みたくないようだ。
そのようなマトモな感情を持っているなら尚更、此処で死なせたくない。
「黙ってて、出来る気がするの」
何処から沸いたかは一切不明な自信は、威圧的で彼を黙らせる。
5分が経過し、何本ものコードが「ブチッ」と言う音で千切れるのが聞こえるのみの静かな空間。
それは、予想もしていない一言で会話と言う活気を生む。
「ねぇねぇ死人さん、アナタの命きれないかしら」
「はぁ?」
訳の解らない言葉を投げかけられ、間髪入れずに疑問符が飛ぶ。
そして、「ブチッ」と言う音と同時に胸元を十字に拘束していた爆弾と一体となっている装置が取れた。
驚きを通り越したような目線で彼は、ルナを見つめた。
ルナが差し出した手を握りながらユックリと起きる。
そして、起き上がると同時に、押収された武器のうち小型のリボルバー以外が彼の元に投げ返された。
「早く持って」
言われるままに元の位置に装備し直した瞬間、今度は彼女が彼の腕を無理矢理に扉の方へと引く。
偽造カードで重い扉を開け、彼の手を引いたまま走り出した。
「私はルナ、アナタは?」
またも、二人の関係は逆転した、戸惑いながら彼が答える。
「名は無い。 No.47と、しか呼ばれた事がないから‥」
名か無いことが少し寂しかったのか俯いてボソリと喋る。
「じゃあ、シナね、ヨロシクねシナ」
「シナ?」
突如付けられた名に同様と言うには不自然な、少し照れがあるような表情を見せる。
そして、シナは当然の質問をする。
これから、どうしたいのか?
シナを救って何をさせる気だったのか?
そして、ルナの異常な戦闘能力と知識について。
エレベータで最下層に向かう中、ルナが答えを渡す。
「まずは、私と死人さんで、その子を助けて逃がすの、協力してね。 で三つ目の答えは良く解らないけど‥このバーコードの意味が解るなら理解できるよね。」
ルナはブラウスのボタンを上から四つはずし、右胸の下着を下にずらした。
そこには、シナにとって見慣れたモノがある。
同じ大きさ、文字の配置位置など一致点は複数、明らかに同種だと言う事が解る。
そして、バーコードの下に書かれた文字は「プロト」。
初期段階の実験で集められ、体をいじられたモノが持つ痛々しい傷跡。
「シナは、首にあるんだね、さっき見えた。 No.47か、私がNo.7だから随分と犠牲がいたんだね」
近くに居た、同種の存在に親近感などは感じなかったが、何故だか救われた気になれたシナ。
エレベータのドアが開くと同時に、シナが先導する形で進んでいく。
調べ尽くされた警備設計の穴を抜けて二人は、カタパルトの一階上の渡り廊下を移動していた。
その時、シナがイキナリ足を止め。
再度、物凄い勢いで走り始めた、腰から銃を抜き構えながら一番近い壁へと身を隠す、続いてルナも身を隠した。
シナは、銃のカートリッジを一端抜き、差し直し戦闘準備にはいる。
「ちょっと、どうした?」
イキナリの行動の変化についていけなくなり問いかける。
「まだ、偽装船がとまっている、まだ間に合ったんだ、アレから12分のオーバー。 皆、何処かで煮詰まっているのかもしれない」
その言葉は、これから交戦となるかもしれない事を意味している。
少しだけだが、同様が見えた。
数十分前までの無表情な彼ではなく。
優しいシナにとっては、Noしか知らない仲間でも殺したくはないのだろう。
やはり、優しい。
だからこそ協力したい。
不意に有った目は、不安と希望を手にしていた。
まだ、少女を救えるかもしれないと言う希望。
同時に、銃の引き金を引き走り出す。
少女の匿われている部屋は、カタパルトの一階層上に位置するコノ階、渡り廊下を挟んで、吹き抜けとなっている向かい側の空間の窓も何も無い研究施設の中と言う情報でシナ達は此処に来たようだ。
カタパルトに近い所に匿っている理由は、恐らく確実に早く少女を組織から逃がす為。
だが、その考えは研究所側も甘かった、まさか偽装船が同じカタパルトに配備されたとは思ってはいないだろう。
しかし、この詰めの甘さと偶然が、二人の作戦を可能にした。
作戦は、研究所に突入後、半拉致に近い形で少女を連れ出すと同時に、カタパルトから研究施設の全ての重力制御をOFFにし。
一階層上からカタパルトに直に侵入し、偽装船を強奪し脱出と言う流れだ。
カタパルトの警備のスキを狙って一気に渡り廊下を進み、研究所の外壁に辿り着く。
非常通路のゲートを開いた時と同様にカードで扉を開け、警備員との交戦に入る。
はずだったのたが、警備は誰もいなかった。
「えっ、どういう事」
匿うのだから警備は当然必要不可欠な存在。
だが、その存在が現状は確認出来ない。
考えられる理由は一つ。
既に最低でも一名以上が進入し、交戦していると言う事、意外に考えられない。
だが、チャンスでもある、ドサクサに紛れる事が出来れば拉致は逆に容易に近い。
意を決しての突入。
裏口からの進入と共に見たのは、No.35と56の無残な死体であった。
そして、奥の方で響く銃声。
残る者は、No.19。
最も戦闘に長けていた事のみ覚えていたようだ。
敵が悪いと、冷や汗が流れる。
慎重な進行は、スピード的には効率的ではないが正確に感実に少女の部屋へと近づいていた。
そして、廊下一本挟んでの銃撃戦に遭遇した。
顔を半分だけ出し確認する少し広めなホールの情景は、悲惨としか言えないモノだった。
地面にグッタリと倒れ込む多量の研究員達の中、数名の警備兵がNo.19と激しく撃ち合っている。
この交戦状態の向こうに少女のいる部屋がある。
この現状を打破出来ない事には、少女を救う事は出来ない。
そんな、攻略策を練っている中、ルナが口を開いた。
「私、このバーコードの記憶ないの、何も覚えて無くて、自分から忘れたのか消されたのかも解らない」
ルナの声は明らかに震えていた。
「いきなり、お父さんもお母さんも皆、殺された。 これって私が関係者だからだよね、大人のゲームの大切なコマだから、みんな強いコマを欲しがるから」
シナは、応答に困り呆気にとられている。
「もう、コマとなって泣く子は見たくないんだ‥‥アノ子を助けてね」
リボルバーをシナに投げ返し、ホールに飛び込むルナ。
地面に散乱している、シナが扱っているモノと同系列のオートマチック銃を二丁拾い上げ、No.19の元へと飛び込む。
体格的にも不利な戦闘と言うのは承知している。
だが、護りたかっただけである、己の事は何も考えていなかった。
戸惑いながらも、シナも銃を片手に警備兵の前に飛来する。
一人の手首を打ち抜き、もう一人を裏拳で落とす。
不意を付かれた警備兵の反応は、ボロボロで倒すのは容易かった。
全力で少女の檻へと進む、勿論、ルナと睨み合っている状態であってもNo.19は、シナの行動に気付きシナの元へと跳躍を試みる。
が、この行動はルナのハイキックによって阻止された。
小回りと言う点では、ルナに分があり。
回り込むのは難しくはなかった。
地面に着地したNo.19の表情は必死だと言う事がジワジワと伝わってくる。
コンテナを盾にしての銃撃戦も考えてはいたが時間がない、一瞬でもルナがスキを見せればシナが危ない事を確信しているからである。
懐に飛び込み、数発もらって頂くしか勝機は無いと見える。
一気にコンナテなら飛び出し敵陣に回り込んだ未知の領域にNo.19の姿はない。
またも、ルナの詰めが甘かったのだ。
正面ばかりに気をとられ背に殺気を感じ取れて居なかった。
己の力を見誤り、護りたいと言う自己満足の為に命を危険に晒し。
その結果が、「ドン」と言う鈍い音と共に両足に走る痛みが敗北を記す。
No.19に両手の銃を蹴れ飛ばされ、何も出来ないと思った、瞬間。
脳裏に頭痛ではない違和感と共に声が聞こえてくる。
「この人の、足に銃が入っています」
不意に聞こえた声は幼く、怯えている様だった。
No.19は、体を切り返しシノと少女のいる部屋へと走り出そうとしている、足の痛みなど考えずに血の海を作り上げる両足でコンテナを力一杯蹴り、No.19の足へと飛び掛る。
声の主の言うとおり、しがみ付いた右足にはシナと同じデリンジャーが入っていた。
弾数は二発。
寝転がった体制から、股間を裂くように零距離発射で一発。
倒れ、身悶える首筋に一発。
一瞬にして血の海となった空間を目に、まだ見ぬ少女を護った事に対する喜びを噛み締めつつ意識は、遠のく。
もう何も考えられない。
頭が、ボーっとする。
幼い少女の声が聞こえる
私を呼んでいるようだ。
何を言っているのか理解は出来ないが少女を救えたようだ。
そして、「チェス」と言うゲームは、別のボードも用意していたらしい。
人類の作り出したゲーム上の「コマ」は、「コマ」以外にはなれないと憎き傷跡を見ながら思った日々もあったが現在は、後悔などしていない。
「コマ」の力で一人の少女を「コマ」と、言う最低の称号から救えたのだから。
手に感じる暖かい感触。
恐る恐る目を開くと、ソコには右腕に傷跡のある白いワンピースを来た少女と。
操縦席に座る、うなじに傷跡を持つ、見知った彼が座っている。
この生存が奇跡なのであろうか。
それとも、全ては幻想で死に行くまで淡い現実逃避の夢であろうか。
今の私では、判断が付かない。
ならば、傷跡を持つ者たちが「コマ」ではない「人」でやり直せる。
奇跡の生存を信じて再び眠りにつこう。
おやすみ。