春を待つ雨
HOTEL銀



「映画でも見に行かない?」
別れてから半年・・・突然の連絡だった。

嫌いになったり喧嘩して別れた訳じゃない。
ただお互いに進むべき道が少しだけ違って、何となく離れていった。
本当は自分だけ見て欲しいって想いに応えられなかった自分に愛想をつかしたとも。
別にまた付き合いたいと思った訳じゃないのに『いいよ』と答えてた。

待ち合わせの場所には予定より早く着いてしまった。
冬だと言うのに今日で3日連続の雨は、春を感じさせるように緩んだ空気を漂わせていた。
駅の売店で湿った新聞を買って喫茶店でホットを注文した。
傘とコートを向かいの席へ強引に掛けて新聞を開いてみた。
パラとページを捲りながら流れるような文字の羅列を辿っていくが読もうという気がおきない。
新聞を折畳んでコーヒーを啜る。
美味いと思った瞬間に一気に飲み干してしまった。
待ち合わせまでには、まだ時間が有る。
何だろう、この雰囲気と焦燥感。

(デジャビュ)
中途半端な天気、中途半端な行動、中途半端な気持ち。
こんな感じは前にも確か有った気がするが思い出せない。
携帯を取り出してメールを確認するが返事をする気もおきない。
隣の席の会話が急に大きく聞こえてくるが大した話では無さそうだ。
窓の外は雨が降り続き、ビジネスマンはホットドックをほうばっている。
平日の朝早くから会社はズル休みしてた。

(今、何処?)
待ち切れなくなってメールした。
もしまだだったらドタキャンして帰ろうか・・・とにかくここを出たかった。
思いも掛けず返事は直ぐにきた。
(あと5分!)
慌ててコートを持つと外に飛び出た。

半年振りに見る彼女は変わる事無く笑顔で迎えてくれた。
上映までの1時間お茶を飲みながら半年間の出来事をお互いに語った。
「変わったね!」
俺は多分何も変わって無い、ただこんな気持ちで再会しなくても良かったのにと後悔してた。
もちろん平静を装い笑い飛ばしてはいたが。

映画はアクションサスペンスものだった。
手に汗を握り心臓がバクバクするような緊張シーンの連続!
何だろう?この胸の変な鼓動は。
息が詰まりそうな衝動の中で彼女の手を握ってみた。
彼女はその手を両手で握り返してきた。
映画を見て出た後も胸は震えていた。

ランチでも食べようか!と歩き回ったが食べたいものが見付からない。
喉は乾いているがガブ飲みしたいほどでも無い。
程なく見かけたお好み焼き屋の看板、入り口には明石焼きの写真が有った。
それはお出汁の中にタコ焼きが浸かっている物だったが中途半端な小腹を満足させそうだった。
春にはまだ遠い1月の雨は冷たくも無く、明石焼きは体を暖めるのに十分だった。
また二人で寄り添いながら歩き始めた。

これが・・・『恋』のはじまり?
家に帰りながら思い付いたのは「好きだった」の一言なのに。
雨上がりの噴水からは地面を這う様に霧が立っていた。
心の染みを一瞬だけ曇らすかのような。




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