誰かの小さな武勇伝
沖田 遊魂留
ノベルフェスタ・ダービー





夕暮れ。子供が居なくなった公園。ベンチに二つの影。

「私はね・・・」

背中を丸め、まるで年老いた猫のように・・・

「別に、娘にカッコいい所を見せたい・・・なんてことは・・・」

そのYシャツとスラックス姿の初老の男性はゆっくりと口を開いた。

「思ってなかったんだ」

それを隣で聞いていた若者は、鼻を啜りながらぶっきらぼうに言い放つ。

「ホントによかったのかぁ?今ならまだ少し時間があるぜ?」

若者はレザージャケットにデニムズボン。
ツンツンに立ててモヒカンのように中央に寄せた髪形。
鋭い目つきに、無精ひげのようで手入れがされている顎鬚。
どう見ても隣で背中を丸めている初老の男とは繋がりが無さそうだ。
家族や親族と言う風にも見えない。

「時間か・・・あと私にはどれぐらい時間が残ってるんだい?」

若者は怪訝そうな顔をした後、両膝に両肘をつけ、組んだ手に顎を乗せたまま、
誰も居ない公園をじっと見つめていた。

「1時間って所だな・・・いや、正確には52分だ」

その言葉を聞いて、初老の男性はため息交じりに言葉を吐いた。

「仕事をしていれば、気付いたら過ぎ去ってしまう時間だな」
「だが、なんにもしてないと長い時間のはずだ・・・本当に・・・」

初老の男性は首を横振る。

「いいんだ。後悔なんて、最初からなかった。早く・・・女房に会いたい」

若者はもう何もいえなかった。




    デンデンデンデデンデデンデンデン♪ 
    デンデンデンデデンデデンデンデン♪ 
         _,    _| ̄| 
       \(゚∀゚ ) \(ロ∀ロ) 
         ( V)    ( V) 
         < \   < \ 

        デン♪デン♪デン♪ 
              | ̄|_ 
       \( ∀ )/ (ロ∀ロ)/ 
         (  )   (V ) 
        /   \ <  > 

    貴方の最後を看取ります! 
          _,   _| ̄| 
       \( ゚Д゚ )/ (ロДロ;)/ 
         (  )   (V ) 
        /  \ <  > 

            デビチャンカッコイー!! 
          _,    _| ̄| 
       \( ゚∀゚ )/ (ロ∀ロ*) 
         (  )  -o-o ) 
        /  \   < < 


             デン! 


                エンジェルデス! 
     デビルデス!
       _,         _| ̄| 
      ( ゚∀゚ )       (ロ∀ロ) 
       ( ∞ )        ( >) 
      <  >         | | 


              エレガントメシアデス! 
     オネガイシマス! 
       _,         _| ̄| 
      ( ゚∀゚ )       (ロ∀ロ) 
       ( ∞ )        ( >) 
      <  >         | | 

             デビチャンイツモノヤッタゲテ! 
      _,          _| ̄| 
     ( ゚∀゚ )        (ロ∀ロ) 
      ( ∞ )        Σm9 )> 
      < \         << 

Oh!キキタイカヤツノブユウデン!! 
      _,          _| ̄| 
     ( ゚∀゚ )        (ロ∀ロ) 
     ( ∞ )         <(  )> 
    / >           < \ 

            ソノスゴイブユウデンヲユッタゲテ! 
      _,          _| ̄| 
     ( ゚∀゚ )        (ロ∀ロ) 
      ( ∞ )       Σm9 )> 
      < \        << 

  ヤツノブユウデンナンバワン!!! 
      _,          _| ̄| 
    \(゚∀゚ )         (ロ∀ロ) 
     ヾ ( V)         <(  )> 
       < \         < \ 

       _,        _| ̄| 
      ( ゚∀゚)/     ヽ(ロ∀ロ) 
      (V ) 〃      ヾ( ノ)〃 
     / >          < \ 

       _,          _| ̄| 
    \( ゚∀゚ )        ヽ(ロ∀ロ)ノ 
     ヾ ( V)        ヾ( へ)〃 
      < \         < 

                 レツゴー♪ 
       _,         _| ̄| 
    \( ゚∀゚ )        (ロ∀ロ) 
      ( V)         Σm9 )> 
      < \          << 




朝六時に起床し、洗濯機を動かす。
その間に昨日の残り物をかき集め、軽い朝食を取る。
朝食の間にテレビで今日の天気を確認し、洗濯物を干すか干さないかを決める。
毎日これを繰り返してきた。彼是4年になるだろうか。

一人分の洗濯物など対した量ではない。
干してる間にお湯が沸き、お湯が沸いた事を知らせるように
鳴り響くヤカンの音で時間を知る。

一杯分のお茶を淹れ、ゆっくりと啜る。

「さて・・・やる事が無くなってしまったな」

たった四年と言えども毎日の習慣と言うモノは身に染み付いていて、、
いつもならこの後スーツに着替えて出社する時間だと言うのに、
私はこの後やる事も無い。

「あっけないものだな。サラリーマン生活が終わると言う事は・・・」

18の頃から勤め上げ、勤続45年までがんばった。
三年間嘱託で雇ってもらった愛着ある会社を昨日、辞めた。
正確には辞めさせられたのである。
不景気も回復し始めているとは言え、まだまだどの会社も情勢は厳しく、
年寄りを一人置いとく事はそれだけ無駄になると判断されたのだ。
嘱託の身でそれに不平不満などは無い。
長い勤続年数に義理なのか、3年も嘱託の身で置いてくれたのだ。
逆に感謝すらしている。
高度成長期時代を駆け抜け、バブルの波の中をさまよいつつも、
バブル崩壊後にも安定出来る職場を造ってきたつもりだ。
最初はたった60人の小さな会社も、私と、私の同僚たちと共に、
今では2800人の社員を抱える企業へと発展していった。
私はその中で営業職のエキスパートとしてやってきたつもりだ。
最後には総括部長の役職を貰い、6課ある会社の営業課の
営業スタイルを確立させてきた。
信頼出来る部下や将来有望な部下たち後続に後は任せてきた。
会社に対して、私が思い残す事は何も無い。
しかし・・・

「勤めているときは・・・あれもこれもやってみたいと思っていたのだがな」

目の前に積まれているカルチャースクールの資料を横目に、私はため息をついた。
定年を通り越して働いたこの体は、仕事以外の事を何一つ出来ない。
四年前に他界した妻があれこれ世話を焼いてくれる女だったので、
妻が死んだ事を機に自分の身の回りの家事ぐらいは出来るようになった。
しかし如何せん私は仕事人間だったようで、趣味もなく、
今日から始まる隠居生活になんら希望も見出せない。
かと言ってこれから流れる時間をただ無気力に過ごす事が出来るほど、
枯れているわけでもないと思いたい。
そう思って何か習い事でもしてみようかと集めたカルチャースクールの資料なのだが
どれを見てもいまいち乗り気がしない。

「お前がいれば・・・また少しは違ったのかな・・・」

白黒の写真になってしまった妻の写真は見るに忍びなく、申し訳無い。
家事の一切を任せ、娘の教育のほとんどを妻に任せてしまった。
金の面で不自由をさせたつもりは無いが、結婚して20年。
私はなにか夫らしいことをしてやれたのだろうか?
男親らしいことをしてやれたのだろうか?・・・

寂しい気持ち、妻に申し訳ない気持ち、思い出・・・
それらが私の体を駆け巡ると、私はいつのまにか打ち震える体にあがなえず、
小さな嗚咽を漏らしていた。

「情け無いものだな・・・こうして独り言を言って、やることもなく、
 涙を流し、ただ時間の流れに身を任せると言う事は・・・・」

ふと時計を目にやるとお茶を飲み始めてからまだ五分と経過してない。
今日一日の予定すらない。この膨大に与えられた時間を潰す術を知らない。
なにかしてみようと考えているだけで、なにかをしてみる気にもなれない。

どうにもこうにも居た堪れない気持ちが体を支配し、私は外に出てみる事にする。
着慣れているせいか、手が勝手にスラックスとワイシャツを選んだ。
後輩たちが私の退社祝いにくれたポロシャツやズボンもあるのだが、
私にはワイシャツとスラックスの方が良い。
ただ、ネクタイを締める事はしなかった。
それは私にとって仕事場での勝負服のようなもので、
一線を退いた私がするものでもなかった。
だから私は、タンスの一番上の引き出しから、小さな箱を一つ取り出し、
丁寧に中身を取り出した。
銀婚式の時に妻が贈ってくれたロープタイだ。
機会が無く一度も使う事はなかったが、シンプルなデザインで私は好きだ。
これから外に出るときはこいつをつけていくことにしよう。
妻が私に送ってくれた物として残るものでは最後のプレゼントなのだから。
慣れない手つきでロープタイを締めた後、鏡の前に立ったときに、急に涙があふれてきた。
止める事が出来ない涙だった。

妻が、「よく似合うわよ」 そう言ってくれたような気がした。





行くあてなどない。
私はこの街に住んで長いが、近くのスーパーとコンビニ、そして駅までの道のりしか知らない。
住んで15年になろうとしているのに、これから散策と言うのもおかしな話だが、
あてが無いなら無いでそれぐらいしかする事がない。
散歩と割り切って歩くだけでもいい。とにかく家で一人で過ごすのが嫌だった。
そして私は一人で随分と歩き回った。

「この街はこんなに緑が多かったのか・・・」

普段なら見えない世界が目の前に広がっていた。
いや、普段から目に入っているはずのものだったはずなのに、
今日、再認識を・・・いや、認識をした。
会社から近く親子三人で住めて予算的に条件があう。それだけで決めた我が家。
その街は公園や道路にこれでもかと緑が映え渡っている。
道沿いのツツジなど誰が手入れしているのか知らないが綺麗なものだ。
イチョウの樹が続く通りも、秋には綺麗な紅葉を見せてくれるだろう。
いつもより視線を20度上にあげながら、私は街中を徘徊していた。
公園を抜け、駅への道を進もうと曲がり角を曲がったときだった。
死角で見えなかった事もあるが、
角を曲がった瞬間に一人の若者が目の前に立っているのに気付いた。
私は別に気にするでも無しに、その若者の脇を通り通り過ぎよう足を進めた。

「あんた・・・死ぬよ」

すれ違おうかと言う瞬間に、若者が私にそう言った。

「はぁ?」

当然の反応だと思う。見ず知らずの若者が私の前に現れたと思ったら、
私が死ぬと言うのだ。

「すまないな。本当なら48時間前に言わなくてはいけないのだが、
 残り12時間を切っている」

私は呆然としたままそこに立ち尽くした。
若者の言っている意味が理解できなかった。
最近はこういう風に言う事が流行ってでもいるんだろうか。そう考えてしまう。

「どうした?信じられないか?」

若者の言葉に私は正気を取り戻した。

「なにを信じられないと言うのだね?私が死ぬことかい?
 そもそも君は何者だ?出会い頭に人に”死ぬよ”等と言うのは失礼じゃないか?」

穏やかに言ったつもりだ。人生経験上、若者はあまり刺激しない方が良い。
ただ、正論はきちんと述べてつもりだ。自分よりも40は下の若者に、
”死ぬよ”などと言い捨てられて良い気分がする人間など居ないだろう。

「あぁ、これはすまなかった。俺も焦っていてね。
 この世界の言葉で”天国”からの使いの者だ。
 この地域の言葉では”死神”と言うらしいから、それに習い呼称は”死神”で良い」

「しにがみ?」

「あぁ、天国での呼び名はデビル・アルクシェイドだ。呼びやすい方でいいぞ」

「デビル?」

「なんだじいさん。デビルを知らないのか?
 聖書読んだ事無い?・・・あぁそうか。
 この地域はキリさんのお節介を信仰してないんだっけか?」

「聖書?キリさん?」

若者の口からぽんぽんと出てくる単語にまったく反応が出来なかった。
聖書にキリさんといえば、イエス・キリストでもさしているのだろうか?

「毎回毎回、説明がめんどういなぁ・・・ったくぅ・・・」

私が中々理解しないせいなのか、若者は不機嫌な顔をしてタバコを取り出し火をつけた。

「まぁあれだ。とにかくあんたはあと半日で死ぬ。
 いまのうちにやりたい事やっとけ」

ぼりぼりと後頭部を掻き毟りながら若者が放った言葉に、私はどこか安堵感のようなもの感じた。
これから始まる一人の時間と死ぬ事を考えると死ぬのも案外悪くない。そう思ってしまう。

「そうか・・・死ぬのか」

私がその言葉を吐いて押し黙ると若者は私の顔みて押し黙った。
ふと、顔をあげて若者の方を見ると通りの向こうから
一人の女性が自転車に乗ってこちらに向かってきた。
なんの気無しにその自転車の行方を見ると、
目の前の若者に向かって一直線に突っ込んでくるではないか。

「あっ・・・」

小さく声が漏れた時には遅かった。
若者の背中に女性が乗る自転車が直撃・・・しなかった。

「ん?あぁ・・・」

私と若者は一緒に今通り過ぎていった自転車へと視線を送った。

「俺の姿は今はあんたにしか見えてない。あんたしか触る事が出来ない。
 まぁ、偶然だがちょっとは信じてみる気になったか?」

私は静かにうなずいた。
もちろん、それで私が死ぬと言う事まで信じろと言うのは無理な話だ。
だが、ここでこの若者の話に乗ってみると言うのも悪くは無い。
明日死ぬとわかっているのなら、なにかやりたい事も出てくるだろう。
今日を過ごす暇つぶしが見つかった。その程度の事だと私は考え始めていた。

「あぁ、あの猫・・・後34秒だ。動物担当の死神の野郎、来て無いじゃねぇか」

若者が後ろを向きながらそう言った。私も釣られてそちら側を見る。
その途端、激しいブレーキ音が街中に谺し、乗用車がガードレールに衝突した。

「あぁ!!!」

年甲斐も無く私は大きな声を張り上げた。
周りの家からなんだなんだと人があふれ出てくる。

「大丈夫だ。運転手は死にはしない。軽い鞭打ちぐらいにはなるかもしれんがな」

若者がそう言った途端、乗用車の運転席の扉が開き、
中から一人の男性がよろよろと出てきた。

どうして良いのかわからずにオロオロしている私を尻目に、野次馬が集まってきた。
皆、ある程度距離を置いて状況を見守っている。
そんな野次馬の中から30代ぐらいの男性二人が飛び出して行き、
事故車から出てきた男性を抱えあげて路肩に寝かせた。


「ちっ・・・じゃぁ俺がやるか・・・」

目の前にいた件の若者が舌打ちをした後、ゆっくりとした歩調で
野次馬に向かって歩き出した。その時私は一つ理解した。
彼は確かに誰にも見えてなく、誰にも触れないようで、
彼はまっすぐに野次馬の垣根に向かっていき、
そのまま誰にも触れる事無くスイスイと進んでいったのだ。

私は状況を見守るために小走りに事故があった反対側へ車線に渡った。

事故の様子が良く分かる。
車は飛び出してきた猫を避けようとしたが引いてしまい、そのまま
ガードレールに突っ込んだようだ。
可愛そうに、猫の方は見るも無残な状態だ。
誰もが近寄ってみるのも嫌がるような遺体となってしまっている。

そこへ、さっきの若者が歩み寄ってきた。
誰の目にも彼が見えていないだろう。誰も気にしていない。
野次馬の視線は猫や車の方へと飛んでいる。

若者は屈み込み、両手で猫の遺体を掬うような仕草をした。



ウナァー



私は確かに聞いた。そして見た。
猫の鳴き声がしたかと思うと、いつのまにか若者の手に猫が抱かれていた。
どこも怪我などしてない。元気な姿の猫だ。
視線を若者の足元にやると、確かにそこにはまだ猫の遺体がある。

「おつかれさん。最後は痛かったな。次は希望の転生先だと良いな」

そう言うと若者は両手を高く空へと上げた。

「迷うなよ。大丈夫、まっすぐ上に行けば
 案内人の死神が近くまで来てるはずだから見つけてくれるよ」


ニャァー


若者の声に、猫が嬉しそうに返事をしたのを確かに聞いた。
若者の手の中にいた猫が上へ上へと空へ向かって上がっていく。

私はそれをただ眺めている事しか出来なかった。


「どうだい?これでもうちょっと信用してくれたかい?
 人間の時とはちょっと違うけど、
 こんな感じで俺たちは魂を天国に送っている」

いつの間にか目の前にいた若者がそう言うと、私は思わず反射的に

「あぁ・・・信じる」

そう呟いてしまった。


誰かがが救急車や警察を呼んだのだろう。
遠くの方からサイレンの音が響きわたってきた。

ただ、私としては今はそれどころでなく、
目の前で唐突に起きた様々な出来事を理解する事で精一杯だった。





私たちはどちらからともなく歩き出し、近くの公園へとやってきていた。

「それでよぉ、通達が遅れたっていうこっちの落ち度もあるんだけどさぁ」

若者−−彼は天国からの使いでデビルだと言う−−は
近くのベンチに腰かけながら私を見上げて言う

「死ぬまでの時間、幸せになれるように手伝ってやるぜ?」
「手伝う?」
「あぁ、”願いを叶える”とは言えないが、俺で可能な事なら手伝ってやるよ
 あるだろ?やり残した事とか、やりたい事とかさぁ」

そう言われて私は困惑した。
彼がなにか得体の知れない存在だと言う事は
先ほどの猫の事故の件で納得する事は出来た。
では、私が死ぬと言う事も信じなくてはいけない。
その状況下で”やり残した事”と言われれば、これもあれもと困惑してしまう。

「こういう時は自分の一番やりたい事で良いと思うぜ。
 死ぬ間際に、後悔しなければそれで良いと思うけどな」

そう言われて私は気付いた。
死ぬ間際に後悔しないように・・・つまり私はもうすぐ死ぬと言う事だ。
しかしおかしな話だ・・・そう思うと思わず口に出た。

「おかしな話だな。君はその・・・死神なんだろ?
 死神の仕事は今際の際にやってきて魂を連れて行く事じゃないのかい?」

「まぁ、大体それであってるな。ただ、俺たちは誰かが死ぬ前に、
 もうすぐ死ぬと伝える義務がある。あんたの場合、48時間前に通達。
 そいつが人生でどういった生き方をしているかで、
 通達の時間は変わってくるんだ。最高で五年前から通達する事もある」

「ほぉ、それはわかったが・・・その、”手伝う”ってのが、わからんな。
 確かに人間、死ぬ事がわかったら遣り残した事をやろうと言う気持ちにはなるだろう。
 それを手伝う義務も、君たちにはあるのかい?」

「まぁな。神様が言うには遣り残した事がある奴は天国いってからも駄々こねて
 また人間に生まれ変わりたいとか言うし、面倒な奴は天国に行くのも嫌がる。
 この世に居たって肉体の無い魂はほとんどの奴に見えないのにな」

「つまり、自分たちの仕事を潤滑に行う為に死ぬ間際の人間がやりたい事を
 手伝うと言うわけだな」

「まぁな。何から何まで手伝うわけじゃないけど。本当にちょっとだけならな。
 あんたの場合、こっちの都合で通達が遅れたから、少しぐらい多めに見るようにと
 上から言われてるんだ。さぁ、なにかあるかい?」

「あるかい?・・・と、いわれてもなぁ・・・」

調子の良い男だと思った。死神だと言うのに嫌な感じはしない。
しかし、以前私は困惑をしていた。これからの人生どう生きようかと悩んでいた私が、
じゃぁ死ぬからやりたい事は何?と言われても、出てきやしない。
だから、逆に聞いてみる事にした。

「具体的に、どんな事なら手伝ってくれるんだい?」

「そうだなぁ・・・たとえばさぁ、
 美味いもの腹いっぱい食ってみたい。とかさぁ
 良い女を抱きたい。とか、ギャンブルで大勝したい。とか、
 まぁ、その日のうちに叶うものぐらいだな」

「そうか・・・死ぬ日は決まっているから・・・」

「あぁ。でもさぁ どっか遠くの国を見てきたい。とか、
 俺たちの能力でばびょーんっと飛んでいけて距離を問題にしないなら、
 その日のうちに叶うぜ」

「なるほど。距離は問わないってわけか。たとえばここから北海道や沖縄。
 いや、アメリカやイギリスに行きたいと言えば、それぐらいは叶うということか」

「そそ」

「例えば、君が天国に導いた他の人間たちは、どんな願いを言った?」

「そうだなぁ、大抵の奴は私利私欲だったな。
 一回で良いから抱きたい女がいる。とか、恨みをある奴を殴りたい。とか、
 まぁ、勇気だせば叶うような事を願う奴も多かったな。
 あと、金持ちに限って自分が死んだ後の事を頼む奴がいたな。
 資産を全部誰それに渡るようにして、それを他の奴が狙う事が無いようにしてくれ。
 みたいなのは、何件かあった。まぁ死んでからの事なんでそうそう手伝うわけにはいかず、
 遺書を改ざんされないようにチョチョイとやってやるぐらいだな」

「そうか・・・人間死ぬ間際はそんなものか・・・」

「だなぁ〜・・・まぁ感動的な奴ってのは少ないな。
 結婚したばかりだったり子供生まれたばかりだったりすると、
 遺族が人生で苦労しないように。とか頼む奴いたけど、
 残念ながら死んだ後の事は手伝ってやれんから・・・
 遺産を少し増やしてやる程度かなぁ・・・」

「そうか・・・遺族か・・・」

「お?なんか思いついた?遺族は・・・」

そういうと彼はズボンのポケットから手帳を取り出してぺらぺらとめくって見せた。

「奥さんと娘さんか。あぁ、奥さんの方は先にいっとるねぇ、
 あぁでもまだ転生しとらんよ。いけば会える」

「ほんとか?!」

私は驚いた。

「そうだな。奥さんが死ぬときの願いが”主人と一緒に生まれ変わりたい”だったからな
 あんたが天国に行けば、こっちの時間で1年ぐらい一緒に居れるわ。
 その後は二人そろって転生ってなるな。まぁ、転生先別々かもしれんけど」

「そうか・・・そうなのか・・・」

私は嬉しかった。
妻に迷惑をかけていたんじゃないか、嫌われてはいないだろうか。
そんな事を考えた事もある。だから、妻が私と一緒に生まれ変わりたい。
そう願ってくれた事がなによりも嬉しかった。

「そうな。あぁ奥さんは急死かぁ・・・脳溢血やったんだね・・・」

「あぁ・・・最後の別れは一言もなかったよ・・・しかし今思えば、
 数日前からとても優しくしてくれたような気もする。いや、いつも優しい奴だったが
 あれは、君たちが妻に死期を教えていたからだったんだな」

「だろうね。誰かが伝えんでしょ。
 まぁ珍しいね。自分の為かもしれないけど、現世でのことじゃなくて、
 天国であんたを待ちたいって言うのは・・・あぁ、そうか・・・」

彼はペラペラと喋っていたと思ったら急に黙り込んだ。

「ん?どうかしたか?」

「いやね・・・んー・・・まぁ当人なんだからいいか。
 奥さん、この世に未練なかったみたいだな。
 あんた、奥さんの生前、結構ぞんざいに扱ってたんじゃない?」

「うっ・・・」

それを言われて、私は呻き声一つ残して黙り込んだ。
確かに、私は妻を空気のような存在だと思っていた時期があったかもしれん。
あいつも分かってくれているとは思っていたが・・・確かに・・・

「でも、貴方のこと、相当信用されてたみたいですね。
 奥さん、貴方がいるから、家のことも娘のことも心配せずに逝ける。
 そう言ってましたから」

「え?」

急に私のすぐ後ろで声がした。驚いて振り返ると、
悪魔の彼と同じぐらいの年齢の若者がそこにいた。

「なんだエンジェル。奇遇だな」

悪魔の彼がそう言うとエンジェルと呼ばれた彼はばつの悪そう顔で言う。

「いやごめん。さっきの猫の担当、僕だったんだ。前の人が駄々捏ねて遅れてさぁ」
「んだよ。そういう事か」
「でも、奇遇。この人の奥さん。僕が天国に送ったんだよ」
「へー・・・だってよ。おっさん」

私は二人の彼を交互に見つめながら、先ほどエンジェルと言う彼が言った言葉を
頭の中で何度も何度も繰り返していた。

「娘だ・・・」

「ん?」

「会いたい、いや、一目見たい!娘に・・・娘を見たい!!!」

私は街中にも無く、年甲斐もな大声で叫んだ。





      オモイダシタオトコノネガイ、タッタヒトツノココロノコリ!
       _,          _| ̄| 
     ( ゚Д゚)/        (ロ∀ロ) 
    <(  )          <(  )> 
     / >           < \ 

     スゴイ!ヨソウガイノシリアステンカイ、ドクシャオイテケボリィ!
    _,        _| ̄| 
   \(゚∀゚ ) ==   (ロ∀ロ) ==
    (  )\ ==   <(  )> ==
    < \  ==  < \   ==

        ブユウデンブユウデン♪ 
       _,          | ̄|_ 
      ( ゚∀゚ )        (ロ∀ロ) 
     〃 (O )o         o( O) ヾ 
       < >          < > 

       ブユウデンデンデデンデン♪ 
       _,          | ̄|_ 
     ┐(゚∀゚ )        (ロ∀ロ)┌ 
       (  )└      ┘(  ) 
       < \       / > 

           レツゴーッ♪ 
       _,          _| ̄| 
      ( ゚∀゚ )       Σm9(ロ∀ロ) 
      <(  )>         (  )> 
       < \         / > 




「娘は遅くに出来た子でね。子煩悩と言うのか可愛がって育てたつもりだ・・・」

電車の中で私は独り言を繰り返した。
正確には隣に座っているデビル君に話しているのだが、
周りの乗客は彼が見えていないし、傍から見れば老人の独り言だと思われるだろう。
だが、平日の昼間と言うのがわずかな救いだ。
それほど周りから好奇の目に晒されはしない。

「ただ、それがいけなかったんだろうなぁ・・・いや、甘やかしたのもそうだが、
 家庭を省みずに仕事に生きる私、妻に頼りっぱなしの教育。
 わがままに育ったよ。妻が死ぬ二年ほど前に家を飛び出したよ・・・」

ガタンゴトンと定期的にゆれる車内。
暖かい椅子。昔話。私は急激に眠気に襲われる。

「娘を探したんだが、見つからずでね・・・時折妻に便りがくるみたいで、
 生きているとわかればそれでいいかと、諦めていた所だ。
 どうやら結婚してね。子供もいるみたいなんだ。いや・・・
 はっきりとは分からないんだけど、良い男に見初められたみたいで、
 幸せだと手紙には書いてあった。一度顔を見せろとは何度書いて手紙を出したんだが・・・」

この呟きも私には子守唄のようになったようだ。
それとも昼間から街中を歩き回ったせいだろうか。
気づいたら私は眠りに落ちていた。





「ついたぞ・・・どうする?」

その声で私は目覚めた。

「え、えぇ?」

いつのまにか、私は閑静な住宅街の中に立っていた。
隣にはデビル君の姿もある。

「おっさん、途中で寝ちまったからな。こっちで勝手に場所を調べてつれてきた。
 ほら、この通りの右手側、四軒目の一軒家だ。けっこう良い所に住んでるな」

「こ、ここが・・・しかしここは・・・」

「千葉だ。お前さんが居た所よりはだいぶ南だな」

「それでは、あの子が寄越していた手紙の住所と会わん」

「それは知らん。最近引っ越したんじゃないのか?暫く連絡とってなかったんだろう?」

「それはそうだが・・・」

しかし、少し安心した。
どんな生活をしているかと何度も何度も思い悩んだ日もあった・・・
一軒家に住んでいるとなれば、それなりの生活なのだろう。
稼ぎの良い男と家族を作り、幸せにやってるのならそれで・・・

「で、どうするんだ?会いにはいくんだろ?」
「え?」
「だから、会いにきたんだろ?ほら、娘さん出てきたぞ?」

デビル君が指指す方を見ると、家から子供を釣れた女性が出てきた。
まだよちよち歩きの子供の手を引き、幸せそうな笑顔の女性・・・

「娘だ・・・」
「そりゃな。娘さんだ」

ここから見てもわかる。想い出の中の娘とはずいぶんと顔つきが優しくなり、
心なしか少しふくよかになったような気もするが、あの子は確かに私の・・・
私たちの娘だ。

「隣の子は・・・孫か?」
「あぁ、孫だ。正真正銘。あんたの孫だ」
「かわいいな」
「まぁ、大概孫はかわいいもんだよ」

あの子は幸せそうだった。だいぶ昔に見て、それっきり忘れていたあの子の笑顔を
もう一度見る事が出来た。あの子は子供の手を引いてどこかへと歩いていく。

「どうした?」

私は足を動かせなかった。

「声、かけないのか?」

声を出せなかった。

「いっちまうぞ?」

私は首を振った。

「いや、いいんだ・・・なぁデビル君」 「ん?」
「私の住んでた街に今すぐ戻れないかな。実は小腹が空いてね。
 なじみの店で食事を取りたいんだ」
「あ・・・あぁ良いとも。あんたがそういうなら」

私は目を閉じた。
なんだかそうするのが一番良いような気がした。
身体がふっと軽くなるような感覚と、強く肩を押される感覚が同時にした。

「ついたぜ。店はここでいいのか?」

目を開けると、目の前に馴染みの食堂があった。

「あぁ、ありがとう。よかったら君も一緒に・・・あぁ・・・
 君の姿は他の人間には・・・」

ここで一人で食事も忍びない、そう思って誘ったのが、彼は他の人に姿が見えない。
と、言う事はここで食事を取る事は・・・そもそも悪魔は食事を・・・

「見えるように出来るぜ」

そういう言うとデビル君は指をパチンと弾いてみせた。

「俺も腹が空いたな。この店は何が美味い?」

そういうと、彼はスタスタと店の中へ入っていってしまった。
私もあわてて後を追う。

「いらっしゃい。二名様?」

無愛想な30年前なら看板娘であろう女性がそう言った。
私とデビル君は進められるまま、席についた。
私はいつものように鯖の味噌煮定食を、彼は唐揚げ定食を頼んだ。

「なぁ、おっさん」

「なんだい?」

「ほんとによかったのか?俺としても、通達が遅れた負い目もあるし、
 出来る事なら、あんたにはなんの悔いも残さずに天国に上がって欲しいんだ」

ぶっきらぼうだが、優しく言う彼に、私は思わず微笑んだ。

「良いんだよ。向こうには妻も居る。娘も幸せそうだ。
 それで・・・いいんだ・・・」

「でもさぁ・・・普通、父親なら娘にかっこよい所の一つでも見せたくない?
 失礼ながら勝手に人生の中見させてもらったけど、あんた、
 娘にかっこよい所どころか、父親らしいところもほとんど・・・」

「はは・・・いいんだ。ほら、定食が来たよ。
 ここは安くて美味いんだ。娘が生まれたばかりの頃、
 休日にはよく家族で来たよ。もう唐揚げなんてものは胃が受け付けないが、
 若い頃は私もよく食べたんだ。味が変わってなければ、絶品だよ」

私は、まるで彼の言葉を遮るように、饒舌に言葉を流した。
彼は私の気持ちを察するように、定食を貪り始めた。
それを合図にするように、私も美味い美味いと自分の目の前にきた定食を
味をかみ締めながら食し始めた。




            スゴイヨー、デビチャンスゴスギルヨ!!! 
       _,         _| ̄| 
    \( ゚∀゚ )        \(ロ∀ロ*)/ 
       ( V)         (  ) 
      < \          < \ 

              ドウカンガエテモコンカイシゴトシテナイヨ
     ナヌゥ!!! 
       _,        _| ̄| 
    \(;゚∀゚)       (ロ∀ロ)/ 
      (  )\       <(  ) 
      < \         < \ 


        シャラクセェェェーッ!!! 
                    イギャァァァァァァァァッッッ!!!? 
                   ロ-ロ  \/\  
                 (゚^゚  )\/ 
              _, Σ。/(/ ) 
             (#゚Д゚)ノ// 
           <(  ) 〃〃 
            / > 
          〃〃 


       _,         ナニスンダヨォ!? 
      (#゚Д゚)        _| ̄| 
     <(  )>        (ロДロ;)、 
      |  |         ノノ Z乙 

  男にはなぁ!
  男の生き様に
  口出しちゃいけない時もあるんだよ!
                     
       _,          _| ̄| 
     ( ゚Д゚ )/       (ロ∀ロ;)そ 
     <(  )          (| | ) 
     / >           < < 

                デビチャンカッコイー!! 
     カッキーン!!! 
       _,          _| ̄| 
    \( ゚∀゚ )       ヽ(ロ∀ロ*)ノ 
      ( V)         ( へ) 
      < \         < 





夕暮れ。子供が居なくなった公園。
私たちは遅めの昼食を取った後、なんとなく近くの公園に来て、
ベンチに腰を下ろした。

「さっきの話しだけどね・・・」

定食屋の会話を思い出し、私はゆっくりと口を開いた。

「私はね・・・別に、娘にカッコいい所を見せたい・・・
 なんてことは・・・思ってなかったんだ」

それを聞いて、デビル君は不機嫌そうな顔をする。 鼻を啜るそぶりをしながら、彼はぶっきらぼうに言い放った。

「ホントによかったのかぁ?今ならまだ少し時間があるぜ?」

「時間か・・・あと私にはどれぐらい時間が残ってるんだい?」

彼は怪訝そうな顔をした後、暫く押し黙っていた。
少しの間が空き、彼はゆっくりと口を開く

「1時間って所だな・・・いや、正確には52分だ」

その言葉に、私は思わずため息をついた。
絶望したからではない。やっと、この人生もここで終わりか。そう思ったからだ。
「仕事をしていれば、気付いたら過ぎ去ってしまう時間だな」
「だが、なんにもしてないと長い時間のはずだ・・・本当に・・・」

私は首を横に振って無言で彼の次の言葉を遮った。

「いいんだ。後悔なんて、最初からなかった。早く・・・女房に会いたい」

彼はもう何も言わなかった。

暫く、私は饒舌に語った。

私が生まれ生きた時代の事、
私が遊びまわった山や川の事、
私が働き出した頃の事、
私が妻と出会った時の事、
私が始めて子供を抱いた日の事、

楽しい想い出ばかりを話していた気がする。
それを、彼は嫌味一つ、苦言一つ言わずに、笑顔で聞いていてくれた。
私は、最後の最後で、私が生きた理由を残したいと思ったのだろう。
私は、この人生で何も残さなかった。残せなかった。
だから、彼に聞いて欲しかったんだ。だから、誰かに聞いて欲しかったんだ。
私と言う人間がこの世界で生きていたと言う事を。

私はそれを、彼に告げた。

「そうじゃないぜ」

彼はそれを簡単に否定した。

「おっさんは、がんばって仕事したよな。何年も何年も。
 同僚の為、先輩の為、後輩の為、そして家族の為。
 そして誰かを愛したよな?妻を、子を。
 その結果、なんも残らなかったか?会社は少なくとも大きくなったよな?
 妻は死んでもおっさんを待ってるよな?
 娘はあぁして笑顔で生活してるよな?
 それが、お前さんが残した事だ。この世界で残した事だ。
 胸を張っていい。誇りに思っていい。
 確かに、おっさんさんが思うような事は残してないかもしれんが、
 おっさんは、確かにこの世界に生きた証を残した。そうだろう?」

涙が出た。
年甲斐も無くその涙を止める事が出来なかった。
妻が死んだ日から、涙を流してなかった。
その涙の時よりも強烈な感情に揺さぶられて、私は涙を止められなかった。

暫く時間が経ち、しばしの放心から立ち直った私は、
涙を拭きながら、彼に尋ねた。

「なぁ、デビル君。私はどうやって死ぬんだい?
 心臓発作かな?脳溢血かな?確かに血圧は少し高いが、
 そうそう今すぐ死ぬような病気はもってなかったと思うが」

彼は首を横に振った。

「わりぃな。それはいえないんだ。言うと人間は無意識にその死を回避しちまうからな」

「そうか・・・だが君はここにいて、私に死を告げた。
 私がその気になれば、死を回避しようとどうにか出来ると思うが?」

「それができねぇんだ。世の中そういう風に出来ている」

「そうか・・・」

私は大きくため息をついて、時計を見た。

「あと、10分ぐらいかな?」

「いや、後5分30秒だ」

彼の声はとても冷たかった。

「そうか・・・カップラーメンを作っても食べ切れんな・・・」

私が人生で最初で最後に言った冗談を、彼は無表情で交わした。
だが、私はやはり死が怖かった。
別に後悔は無い。それは本音だ。だがやはり死は怖い。
だから最後まで誰かと話していたかった。
きっと、誰もがそういう気持ちになる。最後の最後はやはり怖い。
だから、神は彼らを、死神を死を迎える人に遣わすのだろう。

「なぁ、デビル君。私はこうしてればいいのかな?
 ここに座ってれば逝けるのかな?」

彼はこちらを見ない。返事もなければ反応も無い。

「なぁ、デビル君。最後は痛いのかなぁ?苦しいのかなぁ?」

彼の肩を揺さぶってみたが反応は無い。

「なぁ、デビル君。私は・・・私は・・・娘に・・・妻に・・・」


恐怖が溢れ出してきた。そして本音が出た。やはり娘に・・・いや、いや!
さっき止めたと思った涙がまたあふれてきた。

「なぁ、おっさん」

彼が急に口を開いた。

「な、なんだ!」

「唐揚げ定食美味かったよ」

「うん・・・うん!」

些細な事で良い。最後に誰かと話していたかった。

「娘さん幸せそうだったな。子供も可愛かった」

「うん、うん。幸せそうだった。可愛かった!!!」

「向こうに行けば、奥さんも待ってる。心配ないよな」

「うん、うん、うん!」

私はまるで子供のように顔を何度も上下して頷いた。

彼が一瞬口を強く一文字に結んだ。

「時間だよ。おっさん」

その言葉を聴いた時に、私は心の底から叫んだ。

「死にたくない!まだ、まだ死にたくない!
 なにもしてない!なにもしてないんだ!!
 娘に、娘にさぁ!わかってもらいたいんだ!私の気持ちを!
 もう一度、笑顔を向けてほしいんだ!あの笑顔を!
 一度でいい、孫を抱き上げてみたいんだ!なぁ、なぁ!!!」

自分でも滑稽だと思った。私自身から娘と最後に会える機会を断ったじゃないか。
それで良いとさっきまで思った。いや、そうだ。思っていただけだ。
一目見れた、それで納得した素振りをしたかったのだ。
本当は、会う勇気がなかった。私のせいで家を飛び出した娘に、
いまさらどんな顔で会えばいいのかわからなかったんだ。

私は娘に何もしてやれなかった。
だからこそ、最後に父親らしい所を・・・

「かっこいい所見せたいんだ。お前の父親は誇れるぞって、
 胸をはって自慢できるぞって!そう言ってやりたいんだ。
 私を父親だと思って欲しいんだ!私を尊敬して欲しいんだ!
 私は、娘に、なにも、のこして、やれなかったからぁ!だからぁ!
 最後に・・・」


泣きじゃくる私の両手は、いつのまにか彼の両襟を掴んでいた。
彼はそれを振り払うと、小さな声で言った。


「死神は非情だ。仕事だからな」

その言葉を聴いた時、私の全身から力が抜けていった。

そうか・・・死ぬのか・・・

悔しい、口惜しい・・・何も、何も・・・

彼は自分の腕時計を見て、時間を確認した。あぁ・・・もう・・・

「おっさん。わりぃ俺の時計壊れてたみたいだ。あと1分ある」

「え?」

「それと、素直になったんだ。最後ぐらい正直に行動しろよ」

そう言って彼は顎を動かし、で私の後ろを指し示した。
私は振り向く。

「お父さん!!」

その声は、その姿は、その笑顔は、私が確かに今求めたものだった。

「早く行け。間に合わなくなるぞ」

そういって彼は私の背中を押した。

公園から通り一本挟んだ向こう側。娘が手を振っている。

「昨日定年だったんでしょぉ〜。会いにきてあげたよぉ〜」

そう言って、照れくさそうな顔で手を振る娘。
足元の子供に娘が合図すると、その子はヨチヨチ歩きで私の方へと向かってきた。

「あ、あぁ・・・」


私は年甲斐もなく走り出した。
あの子と、その子を、私の孫を抱きしめてあげたい。
そして誤りたい。そして伝えたい。この気持ちを。

もう十歩もいけば孫を抱き上げられる。そんな距離に差し掛かったときだった。

「きゃぁー!」

娘の声が谺する。
脇道を曲がり、軽トラックが猛スピードで突っ込んできた。

娘が我が子を助けようと道へ飛び出す。
私は感じた。そうか・・・そうかぁ!!

もう後は無我夢中だった。



孫と娘の身体を抱きしめ、私は道端へと横たわっていた。
痛みも無い。苦しくもない。
ただ、孫が泣き、娘が泣いている。
泣くな、お前たち。笑っていてくれ。頼むから笑っていてくれ。

「ごめんな・・・」

それは私が口から出した言葉か、心の中で思った言葉か、分からない。
ただ、娘たちには伝わっていたと信じたい。


『デビル・アルクシェイドの名において、貴方の最後を看取ります』


どこからデビル君の声が聞こえた気がした。
それを最後に、私の意識は消え去った。







   意味は無いけれど♪ 
            笑えそうだからぁ♪ 
       _,         | ̄|_ 
      ( ゚∀゚ )シヾ     (ロ∀ロ)シヾ 
      <(  )       <(  ) 
      / >       / > 

     某漫才師をパクりますぅ♪ 
       _,       _| ̄| 
    〃ヾ( ゚∀゚ )    〃ヾ(ロ∀ロ) 
      (  )>      (  )> 
       < \      < \ 

          デンデデンデン♪ 
       _,         _| ̄| 
      ( ゚∀゚ )         (ロ∀ロ) 
       (VV)          (VV) 
       < >          < > 

     カッキーン!!! 
              デビチャンカッコイー!! 
        _,       _ | ̄| 
     \( ゚∀゚ )      (ロ∀ロ) 
       ( V)      -o-o ) 
       < \       < < 


      デンデンデデンデンデンデデン♪ 
      _,          _| ̄| 
    c-(゚Д゚ )      \(ロ∀ロ) 
       ( >)         (  )> 
       < \        < \ 

      デンデンデデンデンデンデデン♪ 
       _,         _| ̄| 
      (゚∀゚ )     \(ロ∀ロ)/ 
       ノノ )      (  ) 
       < <        < \ 

    カンカカンカンカカン!! 
       _,         _| ̄| 
     ミ( ゚∀゚ )彡     ヽ(ロ∀ロ) 
       (  )        ( ノ) 
       < >        < \ 

     カッキーン!!! 
       _,         _| ̄| 
    \( ゚∀゚ )       ヽ(ロ∀ロ)ノ 
      ( V)         ( へ) 
      < \         < 


       ハイ! 
色々反省してるから今回は大目にみてね!
         _,         | ̄|_ 
      (   ゚)        (   ロ) 
       ( \)         ( \) 
       / >        / > 

                  ツヅク!!! 
       _,         _| ̄| 
      ( ゚∀゚ )/       (ロ∀ロ)/ 
       /(  )       /(  ) 
       / >        / > 

       エ、オワロウヨ? 
        _,        _| ̄| 
      (;゚∀゚)/      (ロ∀ロ)/ 
      /(  )       /(  ) 
      / >        / > 

                  ツヅクノォ!
       イイキッタ?! 
        _,        _| ̄| 
     Σ(;゚∀゚)/      (ロ∀ロ)/ 
      /(  )       /(  ) 
      / >        / > 






「おつかれさん・・・」

「ちっ・・・なんだよこの紙」

「誰がどうみたって始末書でしょ。最後に死に方教えたんだからね」
「教えてねぇって!!!」
「似たようなもんでしょ。それと死待ち人に嘘の死の時間を教えた」

「一分ずれてただけだろうぉ!!!」

「あと、本当なら彼は自分の孫とは知らずに子供を助けて死ぬはずなんだけど、
 なぜか知ってた。状況が神さまの予定とはずれてるんだけど、なんで?」

「うっ・・・」

「もう、またそうやって勝手に人の人生ずらすぅ〜・・・
 おかげで本当はその時子供も一緒に死んじゃうはずの子供も、
 生きてるじゃないか。本当なら僕たちが無理やり連れてくるのに、
 君はそれをしなかった。なんで?」

「面倒臭かった」

「うわっ、言いきったよこの男」

「だってよぉ、ガキってのは分別ねぇから母親と分かれると
 泣き喚いてしょうがねぇ。面倒臭いから生きててもらった」

「ひどいなぁ。その子はこれから”運命の無い人生”を歩む事になるだよ?
 もしかしたら最悪の人生を・・・」

「うるさいなぁ、だいたいラプラスのダイスが決めたからって、
 あんな多面体サイコロ二つで子供殺しましょうって決め付ける奴がわりぃ!
 どんな奴だって生きる権利あんの!子供ならなおさら!
 死ぬより生きる方がずっといい!」

「ったく・・・子供の方は僕がもみ消しといたから、
 ほかのは自分で始末書かいてよ?」

「へいへい、書きますよ・・・」

「そんなだから、いつまで経ってもデビルの名のままなんですよ、アルク?」

「うるさいなぁ、シロンは。いいんだよ。俺はデビルのままで」

「はいはい。誰よりも天使な癖にねぇ・・・」

「いってろぉ!」






たくぅ・・・神さまに紙出せとは駄洒落かっての・・・
人間、生きてる方がいいに決まってる。

なぁ、あんたもそう思うだろ?





END

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