放送協会
武石大介
「こんばんは。NHKの集金です」
「あ、すみません、うちNHK見ないんで」
「ええと、NHKの受信料支払いは放送法第32条に定められた国民の義務で…」
「ちょっと今お金が無いもんですから」
「コンバンワー!!ピザキャットでーす!チープアメリカンLサイズとポテトセットお持ちしましたー!」
「ああどうも…はい」
「あの。お金あるじゃないですか」
「…タイミング悪いなあ」
「御願いします。二ヶ月分、或いは銀行振込で…」
「いや、今ピザ買っちゃったからお金無いんだ。悪いけどまた今度」
「じゃあ自動引き落としの手続き御願いします。こちらに御名前と御住所、銀行口座を…」
「勘弁して下さいよ。私がNHK見るような顔に見えますか?今日だってバイトも行かずに一日ゲームしてたんだから」
「いやいやいや、貴方はNHKを御覧の筈です」
「何でそんな事解るんですか」
「この道三十年の勘です…あっ!」
「やば…」
「貴方の携帯、鳴ってますよ?着メロが鳴ってますよ?」
「う、うちじゃないですよ…近所のどこかじゃないですか」
「だって光ってますよ、ほら」
「いや、このメロディはその…何か友達が送って来たやつで」
「ピタゴラスイッチのオープニングテーマでしょう」
「アルゴリズム体操ですよ!…あっ」
「ほーら、よくご存知で」
「違います、私は単に『いつもここから』のファンなんです」
「アルゴリズム体操はNHKだけですよ」
「し、知りませんよとにかくっ」
「手を横に♪あら危ない♪」
「あったまを下げればぶつかりません♪…って何するんですか!危ないでしょう!」
「頭を下げたからぶつからなかったじゃないですか」
「誰だって咄嗟に屈むでしょ!腕を振り回されたら!」
「さあ、払ってください、二か月分」
「ちょっと待った!確かにアルゴリズム体操は知ってますよ。だけど、アルゴリズム体操だけで三千円は高いんじゃないのー?ぼったくりでしょ」
「えっ…しかし」
「あとは何にも見てませんよ。大河は何やってるか知らないし、連続テレビ小説も見てません」
「貴方だって、三浦友和の役は早死にすると思ったでしょ?」
「思ったけど見てませんっ」
「熊川哲也の一豊は頼もしすぎてちょっと妻が引き立たないと思ってるでしょ」
「上川隆也でしょ!川と也しか合ってねーよ!つーかアンタ卑怯だ!」
「さあ、この際年末まで半年分払って下さい」
「俺はもうNHK見ない事に決めたの!だから払わない!」
「おや、しばわんこの絵本、お持ちですね」
「勝手に部屋を覗くなよ!あーもう解った!二か月分払うけど、その後は払わないからな!」
「ハイ、では二千七百三十円御願いします」
「…クッソ…ピザが冷めるっての…」
「申し訳ありません」
「…でもなあ。払うんなら言わしてもらうぞ…確かに俺はNHK見てるよ。だがなあ。NHKの放送に満足してたら、もっと快く払えるんだぞ…ほら、まず二千円」
「はい」
「…小銭が…」
「あ、お釣りありますよ」
「いいよ、細かいので払わせろ…だいたい、おじゃる丸と忍たま乱太郎はいつまで同じ話ループしてるんだよ…」
「はあ、申し訳ありません」
「せめて他のと入れ替えたらいいだろ。あと、プリンプリン物語の、テープ上書きしちまって無くなったってのはどういう事だ。この受信料、何に使ってたんだよ」
「それは私も思います…空きテープくらい買えなかったんですかねェ」
「だけどなあ!無くなったら、改めて撮りゃいいだろ!?なんで客に我慢させるんだ!」
「あ、貴方かなりのNHKフリークなんじゃ…こ、興奮しないで下さい」
「ゆうがたクインテッドは駅員のぬいぐるみ染め直しただけじゃないだろうなあ!」
「いたっ、いたた、知りませんよ」
「人形三国志はいつ再放送するんだ」
「いたたた、離して」
「火の鳥はいつ地上波でやる」
「そ、それはBSで」
「うちはアンテナ立たねえんだよ!風のハルカは何で視聴率低かったんだ、PR不足じゃねえのか!?」
「い、いくら何でもそんなこと」
「ノッポさんを民放に取られてどうするんだぁああん!?神聖なゴン太君が民放で手ェ振ってた時はグラスを落として二針縫ったし食事も喉を通らなかったんだ俺は」
「ぐっ、ぐるぢぃ、離して」
「返せよ!!俺のじゃじゃ丸を返せ!!」
「もっ、もういいです、受信料要りませんから」
「逃げるな!現実から逃げるな!!」
「ななっ、何の話で…ウグググ…グハッ…」
「俺の…」
「…」
「俺の半井小絵タンをもっともっと画面に出せー!!」
「…NHKが何ですか…」
「なに?」
「NHKが何だって言うんですか!アンタいい歳して何でそんなにNHK見てるんですか!!」
「な、何だと!?あ、アンタNHKの人間だろう?」
「見ませんよNHKなんか!仕事だから仕方なく、放送中の番組は一回は見るが、私は普段は民放しか見ない!!」
「な…何を言ってるんだアンタ?…み、見るだろう?NHKスペシャル…大自然の美しさとか、古代文明の輝きとかに、心惹かれないのか?」
「ナビゲーターに芸人の一人も使わない、あんなもののどこが面白いんですか!」
「だ、だって、チベットの奥地であるある探検隊とか見たくないし…あ、あれはどうだ、ためしてがってん」
「…ためしてがってんは若干面白い…」
「そうだろ!?そうだろ!?ご近所の底力はどうだ!?」
「あれは…って!だから言っているでしょう!私はNHKは見ないんだ!」
「いや、絶対見てる!」
「何でそんな事解るんですか!」
「俺だって三十年NHK見てるんだ!あっ…もうこんな時間だ!首都圏ネットワークが終わるぞ!」
「そっ、それがどうしたって言うんですかっ!」
「真下アナがダジャレを言うぞ!ダジャレを言うぞ!さあ、遠慮すんなよ、あんたも見たいんだろう!?見たいんだろう!?上がれよ、上がって見ていけよ、ほら!」
「真下アナはもう移動したでしょうッ!宮崎アナのはスマートでイマイチ…って!離して下さいッ!私は見てないっ!見てないんだーっ!!」