ネムレルヤミノ
奏位星華


 この世界には、目には「見えないもの」っていうものが存在している。
 


 ……ってまたその台詞かよ、ですって?
 今日の講釈人はこないだの「彼」ではなくわたし。え?いま誰だよお前、って思ったでしょ? 
 ええ、まぁアイツの知り合いなんだけどね、一応。
 だってわたしもそういうものに遭遇したことがあるわよ。まぁ信じる信じないはともかく、とにかくこういう話があった、と思ってくれればいいんだけど。


 では本日は、闇にまつわる話を一つ。

 関西地方のある都市に住む女友達のこと。
 彼女の家は都心から離れた団地の中にあるのだけど、彼女の部屋には常にといっていいくらい「誰か」がいるそうで。
 パソコンがあるその上のベッドにずっと常駐している二十代の兄ちゃんとか、ちいさな白い龍と黒い龍。兄ちゃんならまだしもなんで龍?!と思うでしょ。
 この二頭は別の次元から空間のひずみでできた隙間から部屋に現れた、っていうわけ。どちらも見た目がポケットモンスターみたいなかわいい姿なんだとか。
 でも彼らだけではなく、毎日毎晩どこからともなくさまざまな存在が彼女の元に来るので、安眠できないとわたしにこぼしていた。
 
 それでわたしもこないだ彼女の家に泊まりに行って、その部屋で寝たんだけど、翌朝起きたときはすっきりと疲れが取れて目が覚めた。
 ところが彼女は、夜中にわたしが寝ているときにうなされていた、って言ってきた。最初はえっ?と半信半疑だったけど、その数秒後に突然頭の中に不思議なイメージが浮かんできたの。



 真っ暗闇の空間にぐるぐると巨大な渦が蠢いて、そこに自分の体が引きずり込まれ、呑み込まれそうになっていた。わたしは両手を伸ばして必死になってそこから出ようともがいていたんだけど、出るに出られず苦しんでいた。
 そんな中、ふと目の前にキラリと小さな光が見え、それに手を伸ばした瞬間。わたしを巻き込もうとしていた渦が突然スウッと引き、やがて跡形もなく消えると、目の前には黒いフードとマント姿の人影が見えた。

「―大丈夫でしたか?」





 そこでイメージは途切れたのだけど、あの時ああいうことがあったとは思いもよなかったけど、彼女から前持って話を聞いていたので、ぜんぜん大丈夫、って応えたけど、本当に出たんだなあと妙に納得したというか。


 でもそれからしばらくして、彼女が部屋のベッドで寝ている間に、何者かに首を絞められて、なんとか相手を撃退したそうだけど、実際起きたときにその感触がしばらくの間残っていたと話してくれた。

 その事件から半日後の昼下がり。
 仕事が休みだったわたしは、部屋でうとうとと昼寝をしていたのだけど、ふと突然彼女と、これまた別の彼女の女友達(以下Sさん)がやってきた。
 わたしはすぐさま、あーこれは夢なんだなと思っていたのだけど、その直後にSさんが奇声を上げながらばたばたと暴れ始めたので、わたしはあわてて友人を部屋から出して、暴れるSさんの額に人差し指を立てた。

「のうまくさんまんだばさらだせんだんまかろしゃだそはたやうんたらたかんまん……」

 もううろ覚えの真言を何度も繰り返し唱え続けていると、その額からスーッと手のひらに乗るくらいの小さな黒髪の女の子が現れた。身長25センチくらいで大きな黒い瞳をうるうるとさせながら、わたしをずっと見つめていたので、その子を引っ張り出して体から離すと、Sさんはフッと脱力した状態でわたしの部屋から出ていき、そこで目が覚めた。

 後で女友達経由でSさんに話を聞いたら、どうもその時に彼女も体調を崩していたらしく、わたしがさっきの女の子を引っ張り出したおかげで回復したみたい。


 ちなみに引っ張り出されたあの女の子はどうなったかって?
 今はわたしの隣に座敷わらしみたく、ちょこんと座ってるわよ。
 実はあの後、以前わたしを助けてくれた黒ずくめの人が現れ、その子にお説教した後に、わたしのそばに置いてくれたの。その女の子もどういうわけだかわたしに懐いてくれるようになったというわけ。
 あ、でも別に悪い影響はないから安心して。もう悪いことはしない、と約束してくれたから。




 最後に。
 夜寝るときは部屋を真っ暗にして寝ないこと。かならず豆電球くらいの照明はつけておいた方がいいわよ。
 でないと、真っ暗闇の部屋のどこからか、あなたを狙う『何か』が出てくるかもしれないから、ね。 



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