胸切なくて〜Valentine's
Day〜
沖田 遊魂留
ノベルフェスタ・帝王賞
猛烈に暑い夏の陽射しは兎に角嫌いだ 熱いか寒いか分からなくなる残暑はもっと嫌いだ 動いても無いのに汗が滲み出る梅雨時は最悪だ どうにか楽になれる春先も、 ほんのささやかな時間も私に渡したくないらしく、 春が来る前から去るその瞬間まで、 花粉症の私を死へと追いやらんと杉の花粉が追い詰めてくる。 日本に生まれたのだから四季を楽しめと言う人もいるだろう だが、私には春夏秋冬のどれも楽しめない どの季節もどの季節なりに嫌だが、一番嫌なのは 誰がなんと言おうが冬だ くそっ寒い風は言うに及ばず、尋常じゃない朝夕の冷え込み 夜なんて論外だ。外に出ていたら凍てつく風に殺される。自然に殺される あぁ、忌々しい忌々しい だからといって、健全な高校一年生ぴっちぴちの16歳の私が、 正月ボケが1ヵ月続いているかと思えるほどコタツでゴロゴロしている このアンニュイな状況を、まぁいっかと受け入れる事なんて出来ない 16歳のこの季節は当たり前だが一回しかない 漫画読んでネット巡ってバラエティ番組に馬鹿笑いしながら 復習はおろか明日の予習もそこそこに床に就く毎日の繰り返しで、 消化していくにしてはもったいない。あまりにももったいない それにあれだ。二月だ。いま二月 日本のお菓子メーカーは商売上手でございます。と、 日本全国せーので皆して囃し立てる特大イベントのお出ましですよ 漫画読んでてもネット巡っててもテレビ見てても、 忘れて安穏に過ごすのが無理じゃぁーっと大声で叫べるほど、 あっちでもこっちでもバレンタインバレンタイン 日本人だけだよな。この一日で一喜一憂する民族は! カオスよろしく盆暮れ正月にハロウィン、クリスマスとやって、 バレンタインもかこんちきしょー。ホワイトデーってなんだー と、言ってもしょうがない。踊るアホに見る阿呆。同じアホならなんとやら クリスマスはいーよ。女友達で集まってパーティしたから 慰めあうってか、ただたんにお泊りパーティって感じで楽しかった で、その女友達は一月も終わりに近づくとそそくさ散らばって、 チョコを買うだ作るだ、誰にアタックだ爆撃だ、義理チョコ撒くだまかないだ うん、どーでもよくなってきた。私一人ぽつんと残された気がしないでもないが、 どうせ15日には慰めましょーぱーてぃでも開くのだろう その時にご相伴に預かってどんちゃん騒ぎに加わってやろう って、ダメだダメだダメだ さっきも言ったが一発こっきりの16歳 あっという間の華の高校三年間に華がねーよ、いまのまんまじゃ! さて、取りあえずコタツから出ようかね なぜかチョコはあるんだ。チョコは。板チョコ4枚 なぜあるとか聞くな!食いたかったんだ!それだけだ! いかんいかんいかん。そうじゃない。そうじゃないね これで手作りチョコレートつくって意中の彼にアタックよぉ〜 板チョコきざんで、溶かして、固めて、これで手作りとは片腹痛いわ!!! ふはははははぁ〜! はぁ〜あ…っとぉ、作っているうちに空しくなってきたなァ… 取りあえず出来ましたよ 冷蔵庫にいれて固めている間に、ラッピングボックスも手作りしちゃおっかなぁ うん、出来てる。ここにあるねー 日曜日にヘラヘラ笑いながら作ってたねー。どこの誰だー?私だー! さ、だんだん開き直ってきたぞぉー ネット探って告白マニュアルでも熟読するかねぇ〜 愛読書のり○んや、○と○○辺りのコミックスから仕入れた知識だけじゃ 耳年増のレッテル受けましょうぞ。って感じですよ えぇえぇ最近の女子高校生が進んでるとか言って、 私たちに対する誤解を世間様に広めたマスゴミは取りあえず私に謝れ おかげで若い子は進んでるんだねぇ、っておばあちゃんが憂うわ、 父とじいちゃんは悲しい顔してションボリこの上ないわ、 ママは避妊具をそっと枕元に置いとくわ。うざいわー!!! いきゃんいきゃん。脱線しちまったぉ もっと乙女チックにいかねば。うん。それが許される日だ。明日は! うっひゃーわかってた。わかってたけども。明日だよ。明日 どうしよう?!どうしようよねー! と、一人芝居をしてても始まらない。取りあえずチョコ固まったかなぁ? あぁ、いいかも。ラッピングラッピング 念のため冷蔵庫にいれとくか。暖房で溶けたら嫌だし 父、これ食ったりしないだろうな?ま、その時は殺すけど あーもぉーどうしよどうしよどうしよどうしよ きゃー緊張してきたぁー こういう時はどうしたらいいのよ。もうわかんないわかんない はっ!思春期の中学生じゃあるまいし枕抱いてベットの上で ゴロゴロってもぉーなにやってんだ私は! 取りあえずネット巡回してればきっと良い方法が… で、いつもの薔薇咲いちゃってるサイトを巡回ですね 薔薇て、今時薔薇て… ってか、私が乙女な気分になるこたぁないな。うん。無い でも、それじゃダメなんだ!バレンタインなんだし! 求む!乙女回路!こんな私にも勇気を頂戴! うん、後、チョコをあげたいと思える男も同時募集 寂しいぜ † 「で、結局徹夜でネットしてたと…?」 「うむ…」 「なぁ、マサヤ」 「なんだ幼馴染一号」 「その呼び方辞めろ」 「じゃぁ私をマサヤと呼ぶな。マサヨだ。 男扱いもいい加減にしんしゃい。あたしゃ天下の女子高生よ?」 「その天下の女子高生さまよ。俺は一つ気になってる事があるんだ」 「なんだね。私は眠いのだよ。今日電車で座れなかったら死ぬ」 「じゃぁ死ぬ前の答えておくれよ。幼馴染の素朴な疑問だ」 「どんとこい!」 「誰にチョコあげる気だったんだ?」 「…………………」 「泣かなくていい」 「はー…王子様はどこかしら?」 「来年は王子様見つけてからチョコ作れ」 「ってぇ!あんた何食ってるの?!」 「お前のチョコ」 「な!」 「いいじゃんよー。あげる相手いなかったんだろ?」 「き・さ・ま、乙女の純情をぉ〜!ホワイトデーは10倍返しだぞ!」 「へいへい。じぱんぐの豚玉スペシャルおごっちゃるよ」 とか、なんとか。 それが朝の出来事。 午前中の授業はぶっ通しでまだ見ぬ王子様探す夢へと小旅行。 三学期はテストないからもういい。諦めた。進級はできるはず。 たぶん。 どーでもいいけど、ソワソワしてんなよ男子! どしっと構えてろよ!どうせお前らにはチョコなんてないけどさ。ぷー と、心の中で悪態をついていると。幼馴染二号が私の所へやってきた。 「まーちゃん」 「やぁ、本物の乙女の愛ちゃん」 「ほ、本物?」 「いやいや、こっちの話。なに?お弁当は食べちゃったよ?」 「いや、そうじゃなくて…放課後暇かな?」 「ごっめーん。今日は駄菓子屋よって、家でジャンプ読んで、 ネットしてお風呂はいって、ぷっすま見て寝ないと!」 「それを暇といわないかな?」 「そうとも言う。あーごめんごめん。泣かないで。 で、放課後なにがあるの?」 「あの…鋼太きゅんにチョコレートあげたくて… 一緒についてきて欲しいの」 「断る!」 「即答?!」 「愛ぃ…あんた16歳にもなって、 好きな男に告白するのに友達についてきてもないでしょうがぁ」 「こっ!告白なんてそんな!そんなんじゃないぉ!」 「じゃぁ、余計に一人で渡せばいいじゃない。 男はねぇ、もったいぶって渡されるよりも、 気軽に友達感覚であっさり渡される方がいいってのもいるんだよ。 鋼なんてモロにそんなタイプじゃないか。 グダグダした恋愛感情よりも、さっぱりとした友情チックな 恋愛を楽しみたい。正月にそんな事いってたよ?」 「ほ、ほんと?」 「いや、八割は私の妄想な」 「ふぇぇぇぇ〜〜…」 「チョコあげるぐらいなんてことない。 ってか、毎年あげてるじゃないか!」 「そうだけどぉ〜〜…ぐすっ」 「泣かないの!男だろ!愛慈郎!」 「わ、わかった…ちょっといってくる」 「そうだよ。今いきな。丁度昼飯食い終わって 甘いものが食いたい時間だよ。ホレホレ」 私が、シッシッと手をふってやると、 肩を落としつつも愛慈郎はクネクネとした男特有の女歩きで、 教室を後にした。 背中の半分ぐらいまである真っ直ぐで綺麗な黒のストレート、 整った顔と、甘い声に、細い両腕に体全体にうっすらと乗った筋肉。 一部女子には大うけの外見を持っている癖に、 恋愛対象に異性が入らないと言う、ある意味とても可愛そうな… 愛を慈しむ男と書いて愛慈郎… なんであんなのが私の幼馴染なんだろう? などと、私の周りの変人度を軽く嘆いた所で、 変人二号もとい幼馴染三号がどんよりと底辺を滑空するハスキーボイスで どこまでも深いため息を撒き散らしながら私の席に近寄ってきた。 「マサヤァァァ…腹、減ったぁ…」 学生服の上から白衣は、まさしく我が校の恥部、そう、 恥じてしまう部活動と書いて恥部「科学部」所属の証。 「鉄ぅ…弁当は?」 愛称:鉄こと、我が幼馴染三号は、 今にも死にそうな顔して、私の机に突っ伏した。 「真っ黒に焦げて、墨へと化学変化した」 「ほほぉ…いったいどうして?」 「お手製の電子レンジを試してみたらな…ぼーんっと」 「馬鹿だろ?」 「良く言われる」 そういうと、机の上にほおりだしてあったチョコポッキーを まるで我が物のようにぼりぼり食いだした。 「ちょ!鉄ぅ!あたしのポッキー!!!」 「んだよ。ポッキーぐらいでガタガタ言うなよ。今夜体で返すよ」 「返さんでいい。ド変態」 「ひっでぇなぁ。変態はねーだろ。変態は…」 「いや、変態はお前の為に用意された言葉だ」 「俺は純粋な気持ちで、雅夜の事好きよ? 何度も言うけど、一回付き合ってみようぜ?」 「はっはっは、私が欲しいのは愛しの王子様であって、レズっ子ではないのだよ。 だいたい鉄は男だろうが女だろうがかまわんのだろう?」 「ひどいなー…ま、そのとおりだけど」 そう言うと、鉄こと、鉄子(♀)は私のポッキーを箱ごと持ち上げ、どこかへと行ってしまった。 たぶん自分のクラスに帰るのだろうが、その途中でうちのクラスメイトに抱きついていくのはやめてほしい。 特に可愛い子を狙って。大抵の場合が私に矛先向いて…ほら… 「ちょっと!マサヤさん!」 「だからマサヨだって。委員長」 「あの変態をどうにかしてくださいまし!」 「今時そのお嬢様言葉、ある意味尊敬いたしますですわ。おほほほほ」 「ふざけてますの?!」 「いえ、何気に真面目だったりします」 「くぅーーーー!!」 行き成り地団駄踏みが如く、目に涙を一杯溜め始めたので、 私から折れてやることにする。と、言うかこれ以上虐めたら可愛そうだ。 「ごめんごめん。委員長。 でも、鉄の可愛い子好きは病気みたいなもんだしさ。 女の子同士のハグなんてスキンシップじゃん?多めにみてやってよ」 「そうはいきませんわ!あのような振る舞いをされていては、 このクラスの風紀が乱れます!即刻辞めて頂くのはもちろんの事、 金輪際このクラスの入室を止めて頂きたい!」 「いや、いくらクラス委員長様でも、そんな権限は無いと思いますが?」 「そりゃ無いですわよ。なのでこれはお願いです。要請です。 私はクラス委員として、このクラスの風紀をですねぇ…!」 「いやいや、委員長。そうは仰いましても、 あの生物は確かにあっしの幼馴染ではありますが、 私がどうこう管理してるわけじゃぁございやせんし、 なによりもあの生物にも意思があるでしょう? 別に擁護するわけじゃぁーございませんが、 女の子だったら誰だって可愛いもの好きじゃありませんか。 可愛いクラスメイトがいたら抱きつきたい! そう思うのが一回の女子高生だと思いますよ?」 「そんなわけありますか!!!」 「ですよねー。ま、鉄は男も女の関係ないだけですけど。 可愛けりゃ、男の子だろうが女の子だろうが平気で… あ、委員長あれだ。自分が抱き付かれないから拗ねてるんだ」 「な ん で そ う な り ま す の !」 その時、めんどくさくなるなー…って、思ったんだ。 うん、ほんとに。でも、止めなかったんだよ。ほら、面白そうだったし。 「ひっっ!!!」 「なんだぁ、それなら言ってくれればよかったのに…」 いつのまにやら委員長の後ろに周り込んでいた鉄が、 右手でそっと委員著を抱きしめたわけ。 そんでもって耳元で囁くように、トークを開始するのよ。 オヤジトークを。 「こっちのクラスの委員長は、うちの委員長と違って可愛いよね。 胸もおっきぃし、おしりも小ぶりでかわいい。 それに良い匂いするよねぇ…あはっ食べちゃいたい」 さて…委員長は… 「…ッッ!!!」 当然の反応よね。 物凄い勢いで手を振り払って、脱兎の如く離れて教卓まで逃げると、 フーッフーッ荒い息上げながらこっちを睨んで…あれ? 「あはっ、嫌われた?」 ニヤニヤ笑っている鉄は、綺麗にラッピングされた箱を無造作にあけ、 中身のチョコレートを、これまた無造作にぽいぽい口に放り込んでいる。 「鉄ぅ…あれが嫌っている奴を睨む人に見えるか?」 「ん?…あー、スイッチいれちゃった?」 「単純だな、委員長」 私も女子高生ながら、女子高生の脳みそって本当にわからんよね。 セーブってものを知らないから、一度始まるととことんいっちゃう。 アクセにせよ、スカートの丈にせよ、ガングロにせよ。 とことんまでやっちゃうんだ。で、委員長の目は、 −とことんまでいきますわぁ!−とでも、語っているようだった。 「オヤジ臭いの好きな子、たまにいるよな」 「いるな。ときに鉄よ」 「ん?」 「お前何食ってるんだ?」 「あぁ、これ?」 その物体、まぁチョコレートなんだけど。 それがどこから仕入れてきたか聞かなくてもわかる。 分かるって言うか、正解発表者が泣きながら走ってきた。 「てっっっっっっちゃぁぁぁぁん!!!!」 愛だ。 「よー、愛。どした?」何も理解していない鉄。 「そのチョコレート!!!」半泣きの愛。 「これ?これは、鋼太の席にあったから奪ってきた」しらっと鉄。 「ひーどぉーいぃーー!」号泣寸前の愛。 そして苦笑いの私。 「なに?これ愛のだったの?」 「私のだけど、それは鋼太きゅんにあげたのぉ!」 「なら、鋼太のもんだよな?つまり俺が食っても問題なくない?」 「あるよぉー!今日ヴァレンタインだよ? それ、ヴァレンタインチョコレートなんだよ?」 「あぁ、そんなキャンペーンやってるね。不二家とかロッテとか森永とか」 「そうじゃなくてー!私が愛を込めて手作りしたチョコレートなんだよ?」 うわ、『愛を込めた』とか言い出したよこのガチホモ。 ホモ?乙女回路を標準装備している奴に、ホモとはこれいかに… 「あぁ、だからか。美味しかったよ。俺の分はないの?」と、鉄。 お前は愛の乙女回路の1/1000ぐらい、煎じて飲ませてもらった方がいい。 「あ、あるけどさぁ…」 あるんだ… 「じゃぁ、頂戴」 外道だな。鉄… 「ひ、ひどいよ鉄っちゃん。毎年、鋼太きゅんにも鉄っちゃんにも、 別々にチョコレートあげてたじゃん? 私が鋼太きゅんの事好きだってカミングアウトしたときだって…」 ちょとまて愛。そこはカミングアウトとは…言うか。愛の場合。 「応援してくれるって言ったじゃん?なのに大事なイベントのヴァレンタインで フラグ立てるのに必須のチョコレートを、鋼太きゅんが食べる前に、食べちゃうなんて、 酷くない?ねぇ酷くない?」 私はイベントとかフラグとかそういう単語をさらりと使いこなす愛の方が 色々酷いと思ったが、とりあえず黙っておいた。 そういえば、愛に貸した ときメモGirl'sSide そろそろ返してくれないかなー… 2を買う前にやり直しときたいんだよねぇ…とか、思ったけど黙っておいた。 「なに愛慈郎いじめてるんだよ…」 と、そこに入ってきた幼馴染一号こと、話題の男、鋼太登場。よっ!憎いね色男! 「あぁぁ〜鋼太きゅぅ〜ん!鉄っちゃぁんが私のチョコレートをぉ!!」 と、ドサクサにまぎれて鋼太に抱きつく愛。 「引っ付くな愛慈郎」 コンマ二秒で引き剥がす鋼太。 「鉄ぅ、あんまり愛を虐めるなよ。そのチョコレートだって毎年俺ら全員分あるだろ?」 「まぁな。あ、最後の一個はこうなってる。まだ残ってるよ」 と、口をあーんとあけて中を見せる鉄。ほんのりと甘い香りが広がる。 ってか、食いかけを見せるな鉄。 「ちっ…しゃーねぁなぁ」 と、鋼太。 まーあれだ。私はともかく、愛も鉄も相当な変人だ。 だが、鋼太はそれに輪をかけて変人だ。私たち幼馴染カルテットの中で、 一番マトモな私が言うんだから間違いない。 さもあたりまえのように、鉄が鋼太の首に両腕を回し、 鋼太は鉄の腰をぐっと引き寄せて、まるで映画の1シーンでも見ているかのように、 濃厚なディープキスを始めた。とは、言ってもほんの2〜3秒だが。 「あまっ…今年のチョコレートはちと甘いぞ、愛?」 平然な顔して舌舐めずりをしながら味の確認をしている鋼太。 「い、いにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 頭をブンブンふりながら奇声をあげる愛。 「す、すごっ…相変わらず鋼のキスってば…すご…」 発情しているのか顔を真っ赤にしながら、両腕で両肩をしっかり抱き、 岸に打ち上げられた岩魚の如く、体をビクンビクン痙攣させている鉄。 「な、なんてうらやま…破廉恥なぁ!」 居たんだ委員長。ってか、単純ね。委員長。 「はぁ…」 そして頭を抱えている私。 私のため息が重苦しい空気やら色々諦めた現状やらを よっこいしょと背負って、床一面でぱぁ〜っと広がった瞬間に、 昼休みの終了を告げる鐘の音が鳴り響いた。ほれほれ、鋼、愛、鉄。 お前らクラス違うのだから出てけ。 委員長、お前はうちのクラスの委員長だろうが…鉄についていくな。 † そして鐘の音は鳴り止んだ。 今日一日のお勉強は全部終わりですよぉー と、言う毎日聞いていても飽きない至福の鐘の音だ。 早々にカバンに教科書をざっと突っ込むと、足早に退散する。 これはもう決めていた事だ。 周りでクラスメイトたちがキャーキャーキャーキャー大合唱を始めた。 誰が誰に告白するだなんだ大盛り上がりだ。 勝手にしてケロ。私はとっとと帰って、駄菓子屋よって、 家で読みかけのジャンプ読みながら、渋茶とふがしの幸せコンボだ。 後で残念会には是非呼んどくれ、愚痴には付き合ってあげる。 そういうのは大好きだ。うん、人の失恋話ほど面白いものはない。 だいたいは、「男って単純だよねー」か「男って酷いよねぇー」で、 話がまとまるんだ。最初からそれで結論づければ、 慰めパーティも3秒で終わるのに。そうしたら後は座談会だ。 私はそれだけに参加したい。 等と思いつつ、満面の笑みで、 今にも心臓が飛び出しそうな顔している子の背中をぽんっと叩いてあげる。 びっくりして泣きそうな顔で振り返ったその子に、これ以上ない笑顔と声で、 「がんばってね。きっとうまくいくよ」と、 根拠もなにもない言葉を投げつけて、今日の私の仕事は終わりだ。 うしっ、駄菓子屋によってくかー! † 「おい、一号」 「誰が一号だ」 「じゃぁ、二号?」 「私のことぉ?」 「三号よ」 「やっと俺の愛を受け止めてくれるのか?」 「いや、変人三人衆」 「マサヨを入れて、変人カルテットだろうが」 鋼太はそう呟きながら私の頭を軽くはたいた。 はたいたと言うよりは撫でた感じだ。 「じゃぁ、改めて誰か説明してくれ。これはどういう状況ですか?」 「「「わかりません」」」 三人の声は綺麗にはもっていた。 それぐらい三人共通の意思という事か?いやいや、それを言うなら私も同意だ。 状況は簡単といえば簡単、私は下駄箱で靴を履き替えてたわけ。 丁度そこで半べその愛と合流。まぁ、いつもの事なんだけど。 愛と帰るのは日課なので、二人してあーだこーだ良いながら校門に向かっていたら 映画研究会の鋼と科学部の鉄が、部室棟に向かっていたわけさ。 部室等の方には裏門があるし、別に遠回りになるわけでもないから、 帰りの挨拶がてら、私と愛は鋼と鉄にかけよっていったんさ。 愛が、「鋼きゅぅぅぅん!!!」って、お前は高音発生装置か? と、突っ込みをいれたくなるような声で鋼たちを呼び止めた。 すると、まぁ別段なにかあるわけでもなく、 鉄は身体を半身にして顔だけこっちを向き、鋼は完全にこちらを向いて、 「なんだ?」とでもいいたげな顔で腰に手をあてて私たちが近づいていくのを まっていたわけさ。小走りの愛についていく形で、私もちょい駆け足で、 二人の方に向かっていって、さぁ、もう二人の手前三メートルにつきましたよ、 そろそろ減速しないとぶつかりますね、愛さんあんたドサクサにまぎれて 鋼に抱きつく気満々のトップスピードですね。と、思った瞬間。 ゾクリッ と、背筋に何か冷たいものが走った。 制服の中に氷を投げ込まれたような感覚だが、 それに驚くよりも早くこれ以上、走っちゃダメ!!と、 体が、と言うか本能が叫んだ。私はとっさに愛の首根っこをひっぱって 二人して急ブレーキをかける。 ズンッ グシャ 二つの音はハモリですか?と言いたいぐらいに綺麗に重なった。 信じられる?今日ヴァレンタイデーですよ? 日本全国乙女とその乙女に期待するダメ男たちでお祭り騒ぎ。 これぞ平和な日本を代表するダメイベントの日なんですよ。 それがあーた…私と愛、鋼と鉄の間に、人の形をしたなんかが 空から降ってきたわけですよ。もうちょっと正確に言うと、 グッシャリと潰れた頭からには色々みたくないものとか出てて、 首、左足、両腕なんかは、不思議な方向に曲がってて、髪はロングかなぁ… 着ている服はうちの制服だねぇ…上履きの色で三年生だってわかるね。 あー、つまりこれ、人の形をしたなにかじゃなくて、人よねぇ… あー、私や愛の顔にべったりついてるこれ… チョコレートじゃなくて血だ。 bloodyValentineとか言うのか。はは、洒落じゃないんですけど。 で、我ら変人カルテットの共通認識は、 「「「わかりません」」」 に、まとまった所に話は戻るわけなのだが… † 「へー…でも、綺麗なもんだね。ホラー漫画もあながち間違いじゃないんじゃない?」 鉄が死体の顔を覗き込んでいる。 「それにはさわんなよ鉄。要らぬ疑いかけられたら洒落にならん」 頭部が落ちていた所に立っていた鋼は、学生服一面に血やら頭の中身やらがこびりついている。 その鋼は、その死体が降ってきたであろう校舎を見上げていた。 「マサ、鉄…お前ら思いっきり悲鳴あげろ」 こういう時に、率先して行動を支持するのはいつも鋼の仕事だ。 鋼が四人でいるときに、「こうやっとけ」といって出した案は実行していて損は無い。 「よしきた!」と私、 「めんどいなぁ…せーのぉ!」と、言いつつチョット乗り気な鉄。 「「「キャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」」」 もうね、思春期の女の子の穢れの無い声帯で出る最高に高い高音を 私と鉄。プラス愛で叫んでみた。当然、校舎と部室棟から残っていた生徒たちが顔を出す。 ってか、愛が一番高い音を出すのは、私と鉄の色んなプライドが傷つく。 声につられて、ワラワラと野次馬が集まってきた瞬間を見計らって、鋼が大声をあげた。 「飛び降り自殺だぁぁぁ!!!」 鋼は、本当にこういう時に頭が回る。と、思ったのはもうちょっと後の話だ。 このときは何を馬鹿な事を言い出したんだと思った。 だって、野次馬が物凄い数走ってきては、血まみれの私たちにどん引いて 私たちを取り囲むように輪を作っている。そんな逃げられない状況を自分から作り出した。 1分もしないで、先生たちがかけつけて野次馬の輪は解除されたんだけど、 血まみれの私たちは、そこを動くなと言われて暫く動けなかった。 鉄はマジマジと死体を観察していたし、鋼はずっと校舎を見上げていた。 愛は、泣きじゃくってるのかと思ったけど、案外…いや、意外なぐらい冷静な、 いやもっと、冷徹な顔で死体を見つめていた。 先生の一人が 『救急車!誰か救急車を!!』と、叫んだんだけど その瞬間に三人がほぼ同時に、そして私にしか聞こえない声で呟いたのが忘れられない。 「無駄。死んでる」と愛。 「霊柩車だろ」と鋼。 「警察だろ。解剖もするんだろうし…」と鉄 相変わらず変人三人だな。 ん?私?私はほら、至って真面目だから。 「校長センセ呼び出してマスコミ対策のが先」 と、我ながら至極最もな事を呟いていた。 † 学校内に残っていた生徒はとっとと帰らされて、 今は警察が死体処理と現場検証をしている。 私たちは職員用のジャージを貸してもらい、制服一式はその場で警察にもっていかれた。 横暴だと思うが、あんだけ血痕ばっちりならしょうがないのか。 返してもらってももう着れないけど。 まー、この変人集団は、制服をその場で脱ぎ捨てて、婦人警官に渡すと、 二月の寒空の中を、半裸と言うより全裸に近い状態で歩き出し、 部室棟にある運動部のシャワー室を勝手に拝借しはじめた。 まぁ、生徒のもんなんだから私たちが使っても文句なかろう。 鋼と愛はさもあたりまえのようにシャワー室で全裸になって並んでシャワーを浴び始める。 その横で、さしたる抵抗も無く鉄も裸になってシャワーを浴びていた。 「ア、私はちょっと…恥ずかしい…」 とでも言おうものなら鉄にシャワーをぶっかけられた。 血みどろの顔で恥ずかしいもなにもない。とっとと洗い落とそう。 「自殺かねぇ…」と、鉄。 「殺し…でしょ」普段からは想像できない低い声で呟く愛。 「殺しって…事故って線もあると思うけど?」と、私。 その私の言葉を遮るように「ないな。事故だけはない」と、鋼。 「校舎側から落ちてきたのは間違いない。 降って来た時、風なんて吹いてなかったから、ほぼ垂直に落ちてきたとして… 俺が見上げた時には、2階、3階、4階の窓は開いていた。 屋上は鍵はかかってないけど、女に落下防止用フェンスは越えられんし、 下の階に至っては窓に防止用の柵もあれば、 そもそも窓まで高すぎて台でも使わなきゃ飛び降りようにも飛び降りれない。 なら、落とされたと見るのが妥当。それにだ…」 鉄がその後に続いた「屋上から落ちたぐらいで、あんな綺麗に脳みそ出てこない」 軽く物騒な事言いやがるな。相変わらず。 「もう一つ言えば、計画的とも思えない。 自殺にせよ、殺しにせよ、俺たちが歩いている所に 体を降らせたりしないだろ」 「でも、それだと問題がもういっこ…」愛の声は午前中の明るさが嘘のように暗い。 「あの脳みその吹っ飛び方からすると、ハンマーかなんかで頭カチ割って 窓からほおり投げたとしてもあんなになりゃしない。 警察が調べてるんだろうけど、もし先に殺して窓なり屋上なりから投げ込んだら、 どこかしらに血痕あるよね?血痕っていうより、はでについてると思うんだ。 男が投げ込んでも女が投げ込んでも、窓際にもべったりと血の跡がついてないと説明出来ない」 愛は真剣な表情だ。 不謹慎ながら、こうの声のトーンと喋り方、そしてルックスを兼ね備えた愛慈郎は そんじょそこらのジャニタレ程度には負けないぐらいカッコいい。 それだけに、もったいないもったいない。 私が髪の毛についた血の匂いが落ちなくて、何度も何度も髪の毛を洗っていると、 三人の会話はヒートアップしていく。 「そもそも目撃者がまったくいないってのはどうよ?」 「誰か一人ぐらいはいるでしょ。警察も捜すはず」 「自殺の件は完全に零かな?自分で頭を殴ってさ…」 「無理無理。でもこうは考えられない?身体を投げ飛ばした後、 下の階から長い槍かなんかでぶっ刺すとか?」 「もしくは拳銃なりライフルで空中にいる時打ち抜く」 「いや、銃声なんかしなかっただろ?だいたい、殺すためにせよなんにせよ、 窓から放り投げてる奴へのトドメを空中で刺すか?それ一人で出来る?」 「犯人が複数いた場合はどうだろう?」 「変わらんな。めんどくさい事この上ない。 突発的犯行なんだろうが、殺すならもっと確実な方法を取ればいい」 三人の話し合いは止まりりゃしない。 私はとっとと帰って駄菓子と渋茶で幸せなジャンプタイムを満喫したいのだ。 いい加減にしろと大声でどなりたい反面、彼らの気持ちもわからなくはない。 私は今年入って一番の残念そうな顔をつくり、 唇と尖らせながらバスタタオルを身体に巻いた。 うん、バスタオル一枚で足りてしまうこのお胸様もお尻様も発育途中だからであって、 あと2年やそこらすれば、私だってぼんっきゅっばぁーーん!ってなって、 バスタオル一枚じゃぁ、隠し切れないナイスバディに成長するはずさ。 と、数秒だけ現実逃避をした後に、三人に向かいなおして言った。 「おーけー、お前ら話はそこまでた。結論を言おうじゃないか」 ぴたりと会話が止まり、三人がこっちを向いた。 「愛ぃ…殺された子、誰だかわかるん?」 「三年の安田美津江さん。校内外で良く見る顔。 クラスでも人気ものだし、小物や普段着のセンスは抜群。 疎まれてたり逆恨みはちょっとあるかもしれないけど、 基本的に怨みを買うような人じゃない。ちょっと遊びすぎって言われてるけど。 霊的にはちょい強め。祖父母かその上ぐらいに強い霊能力者が居たと思う」 「鉄ぅ?」 「んー、とりあえず頭に齧った後あったね。 普通の検死程度じゃわからんだろうけど、チューチュー吸い出そうとした途中って所? ついてたこびれカスからして三級妖怪から二級妖怪の間、怨霊の線もちょっとあるかも。 どっちにしろ、この学校に元々ある幽霊妖怪組合の照合霊気とは不一致。 流れの妖怪か、最近生まれた怨霊って所かねぇ…」 「鋼はどう思う?」 「最初は落ちてきて死んだと思ったから、魂の行く末を見てたんだが、 体から魂が出た様子はなかった。落ちてきたのはたぶん四階。 霊気のこびれカスはあった。三年F組の教室って所だな。 体欲しがってる浮遊霊の連中が数体いたけど、 実際に手を下したのは別者だろうな。けっこう強い奴だと思う」 「んー…先輩たちは流石にもう帰ったよね?」 意気消沈この上ない私の声に、愛が呟くように言う。 「三年の先輩たちは皆して卒業旅行でしょ? 二年の先輩たちは今日は全員学校サボってたよ。 先生も今週一杯いないし…私たちだけ…」 項垂れる愛、全裸のまま腰に手を当ててため息をつく鉄と鋼。うん、お前ら男気ありすぎ。 ってか、鋼はその若い裸体と言うかイチモツを私に見せ付けるな。 この穢れ泣き女子高生の瞳を頼むから汚さないでくれ。 それでもやる気を体のどこからか搾り出さねばならないわけで。 こういう時の為に、世の為人の為学校の為になにかするために、 私たちはこういう能力を得たわけだし?学校側も私たちの事を認めてくれているわけ… はぁ、嫌だ嫌だ。私は、いや、私たちは変人と呼ばれようとも 普通で居たいのだ。そう、普通。誰もが認める平々凡々の学生時代をすごしたいのに。 最後に小さく深呼吸。四人の呼吸が静かに重なった。私は振り絞った声を漏らす。 「えーっと…い、いくぞぉ〜…」 「お、おぉー…」がんばって手をあげた愛。 鉄と鋼はため息で返事をしてきた。 「さ、さむぅ!」 鉄がそういってシャワールームへと戻った。 残された私たちもなぜかシャワールームに戻って、 もう一度熱いシャワーを頭の上から浴びた。 † 借りていた職員用のジャージは兎に角出かかった。 女性用だとは思うけど、16歳の発展途上身体を持つ私にはやはりでかい。 四人が四人ともジャージに着替える。 下着は全部捨てた。流石に着ていられない。 素肌にジャージの感覚がなんだか怖いと感じた。 初めての感覚なのだからかもしれないが、なんつぅーか下が怖い。 「鉄っちゃん?」 「んー?」 「ジャージの前は閉じたほうがいいよ」 「なんか前がひらひらしてないと落ち着かなくてさ」 ブラもしてない胸をさらけ出して歩ける鉄も鉄だが、 思春期の男の癖してまったく動揺せずに注意できる愛も愛だ。 女性の裸体に興味の無い可愛そうなイケメンだとはわかっているが。 私たちは職員室によってジャージを貸してくれた先生たちに挨拶をした。 あんな事があった後だから大変でしょう?車で送ろうか? とか、言ってくれたのだが、あまり長居して警察に事情聴取とかお願いされたら面倒だ。 丁重にお断りした後、鋼が先生に言う。 「今日は帰らせてください。僕ら家が近いので一緒に帰ります」 と、至極最もな事を言った。 そのまま私たちは一年のそれぞれクラスに戻ってきた。 私はロッカーから予備の数珠を取り出し腕に嵌めた。 破魔札のストックはカバンに入ってたが、血がついてたので警察にもっていかれている。 ロッカーにはもしもの時に使う程度しか道具は入っていなかった。 ってか、女子高生が退魔道具とか学校のロッカーに入れてるってどーよ? しかもマニアックな密教だしな。五鈷杵とか振り回す女子高生ってどう? モテル?萌える?うん、私は嫌だ。普通でいたい。 廊下に戻ると鉄が白衣を纏って立っていた。流石だ。予備の白衣があったとは。 良く見るとその後ろに愛が座り込んでいる。肩に木刀を掲げているんだが…怖いよ… 「鋼は?」 私の声がひっそりと廊下に走った。 シンと静まり返りそこに誰もいないのがわかる。 不気味な…と説明するのは簡単だ。 でも、話はもっと単純だ。 これから始まるのは説教だ。私ら四人でなにか説教をする。 難しい事でもないし、ここから盛り場があるわけでもない。 ただ単純に…私らは怒っている。 「いくぞ…」 鋼がいつのまにか側まで寄ってきていた。 その両手にはメリケンサックと言うには少々大きすぎる 鉄のグローブが装着されていた。 † 詳しい話は省こう。 何一つ面白く無い。 三年F組の前まで来たら、 紫と黒のマーブル模様の雲だか綿飴みたいなものがフヨフヨ浮いていた。 近づくと、なんか喋ってくる。どうやら意思があるみたいだ。 こういう交渉事は私の仕事だ。取りあえず始める。 「あんた、さっき人間食ったっしょ?」 単刀直入この上ないが、話はそれで解決する。 だいたいこういう輩は、自分の意思の主張を第一として、 自分が正しい、間違ってない。と言いたいだけだ。 やったことがどうとかは関係ない。 私たちも知りたいのはただ一つ。 こいつが私たちの先輩を殺したかどうか。それだけだ。 『あの娘は男を片っ端から誑かしてた。 身体を武器に、激しく、淫乱に、許せない。 そして許されない。崇高な学び舎で、体を使い、 心を惑わす事、許されない。若者は清く気高くあるべき』 だ、そうだ… 「なら、なんで食べたの?魂食べたでしょ?」 愛の声は静かだった。中性的な声はシンと静まり返った廊下に響く。 『制裁だ。当然の報い』 「好きな男が出来れば、頭撫でて欲しいと思うのは当然。 抱きつきたくなると思うのは当然。 唇を重ねたいと思うのは当然。 それは子作りの本能じゃない。それが本当の愛情ってもんだ」 鉄のハスキーボイスは一々男前で困る。 「プラトニックラブなんて今時流行らん。 流行らんと言うか、そもそもその考えが間違ってる。 宗教なら話は別だが、身体を求める事に間違いなんてない。 結果が間違いであっても、その時の本心はその人間の自由だ。 後からどうこうお前みたいな怨念の塊に言われても、 生きている人間には関係ない。いいから消えろぉ!」 鋼の言葉。それを合図に私たちは走り出す。 至極当然の事だ。 こいつの正体はバレンタインデーへの様々な人たちの想い。 希望、欲望、羨望、嫉妬、恨み辛みがごまんと固まったわけだ。 高校生って怖いね、こんなに強い想いがあって、それで人が死んじゃった。 死んだ先輩、報われないよ。なに?清く気高くって? それが正しい事?そんな事、このぴっちぴちの16歳女子高生退魔師の阿部雅夜ちゃんには関係ない。 「人を愛するなって事?違うよね?精神的な愛で我慢しろって事? そんなの自分も相手も辛いだけ。本当に好きなら身体を重ねればいい。 それを許す許さないは勝手。でも、それを人に押し付けるなよ」 私の言葉を最後に、黒と紫のマーブル模様はどっか消えちゃった。 あっけなかった。 † 私たちは足早に学校を後にした。 あの後、四階に調査の為か警察関係者が押しかけてきたからだ。 私たちはもう自分の仕事を終えていたし、とっとと退散するに限る。 「報われないねぇ、あの先輩…」 私の言葉に、誰も反応しなかった。 私たちはこうやって人の見ない世界を見る事の出来る人間だ。 だから余計に人間が切なくなるぐらい愛しくて、馬鹿やってるんだと想う。 それが周りからみたら変人扱いになるのはしょうがない事。 皆分かってる。 私の今年のバレンタインデーの話はこれで終わり。 四人でトボトボと地元に戻ってくる。 愛慈郎の実家は居合い道場をやっていてとてつもなく広い。 その家の庭が広すぎる上に使われてない為、離れを作ったのだが、 愛慈郎以外の入居者が居やしない。 そこに、幼馴染でもある私と鋼と鉄は転がり込んだ。 と、言うわけで四人まとめて住んでいる。 私たちの事を知人隣人クラスメイトに至るまで、 「変人カルテット」と呼んでいやがるのはこの為だ。 誓って言う。私は変人じゃない。 周りのこいつらが変人なだけだ。 誰よりも愛しい仲間たちが、たまたま変人だっただけだ。 さて、ふがしと渋茶のセットを嗜みながらジャンプを読むか。 END |