H'sカルテット 〜激闘!バイトはお金の為にするのです!〜
沖田遊魂留


一日の出来事を徒然なるままに書いていく行為をなんていうのんだろう?
あたしの性格上それが一番嫌いな気がする。
まぁ、簡単に言えば、それは、”日記をつける”と言う事なのだが。

とは言え、このぴっちぴちの16歳女子高生の赤裸々日記は、
ブログにすればそれなりに人気が出るのではないだろうか?
元々文章を書くのは得意ではないが、その稚拙な所と言うか、
言葉足らずの所が共感を呼んだりその手のマニア様の琴線に触れたりしないだろうか?
そして、あ、あ・・・あふぃり・・・あふぃりえいと?とかで、
広告だか販売補助料だか知らないけど、月のお小遣いでも稼げたら最高じゃん?
つまりはマニア様あたりの金銭に触れるわけだけど。うん、誰が上手い事を言えと・・・
つまり、部活もしてないバイトもして・・・まぁ、臨時バイトぐらいしかやってない、
その上に、学校の友達以外まともな友達もいないあたしが、この二週間の春休みを
のんべんだらりぐうだらと過ごすのも、ほら、もったいないわけで。
周りはどう思っているかしらないがあたしも一応女の子なのさ。年頃の。
つまりは可愛い春服も欲しければ、夏用の水着資金も欲しいわけだし、
普段はバイトしてないわけだから春休みにどっか遊びにいけるわけもないので、
先立つものが無ければ遊べませんし、欲しいものなんて夢のまた夢なのでございます。
なのでちろりと、かつ楽に、かつ危険の無い、かつ時間を気にしないバイト。
バイトってかお金稼ぎ?を考えていたわけ。
うん、身体を売るのはいやん。ほら、まだ純情の乙女だしさ・・・・


どーーん!!!


「うをぉ!!!」

あたしが男みたいな野太い声で驚き声をあげた次の瞬間には、
下の階から煙がもっくもくあがってきたわけ。
直感的にわかるのよ。あたしが大声を出した原因のあの派手な爆発音は、
下の階に住む変態機械ヲタが気紛れに作り出したものだって言うのが。
なんて言うかもう直感って言うよりは経験上の話?

「てつぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

あたしの隣の部屋に住む鋼が、窓をあけて下の階に怒鳴りつけていた。
うん、鋼の奴が飛び出すのが後一秒遅かったらあたしが怒鳴ってた。
あたしはと言うと今パソコンのテキストエディタに書き始めていた駄文を保存して、
いつ停電になっても良いように、パソコンの電源を落とした。

そのまま下の鉄の部屋の様子を見に行く為、部屋を出て、廊下から階段へと
向かおうとした所で、隣の部屋から鋼が飛び出してきた。
鋼は一心不乱に階段へと駆け下りる。さーって、火でも出たかな?
とか思っていると、下の階から鋼と鉄の激しいやり取りが聞こえてきて、
たぶん、その場にいるのだろう、ピーピーと小娘のように泣き叫ぶ声が聞こえる。
泣き声もきゅんとするようなセクシーボイスだ。変な意味ではなく、食べちゃいたい。
食べちゃいたいと言うか部屋に飾って置きたいキュートな声だ。
残念ながら100%乙女チックな泣き声なんだけど、こいつ男なんだよなーと、
思った頃には一階に降り立っていた。

「今度はなにしたんさ。鉄?」

あたしが鉄の部屋の扉を覗き込んだ瞬間に、グリスやゴムが焼ける嫌な匂いが
ツンと鼻を刺激した。しかし逆に子供の頃から
この香りを散々嗅がされている身としては、しばらくぶりに嗅いだ香りが、
なんだか懐かしい感じになってきて、それはそれで嫌なノスタルジーだ。
そして次の瞬間に目に入ってきたのは女の子のようにピーピー泣きながら
蹲る愛の姿だった。あらあら愛ちゃんってばその頭・・・ドリフ?

「えぇ〜〜ん・・・鋼きゅーん!!」

泣きながらその状況のドサクサを利用するのは愛の常套手段だ。
飛び掛るように鋼に抱きつこうとする。
しかし、今はその自慢の長髪が
ドリフのコントよろしくでっかいボンバーアフロへと大変身。
アフロというよりかは、所々焼けていて、チリチリになっている感じだ。
まさしく爆破オチを出オチでやられたわけだ。
そういう外見のこともあるのだろうが、鉄の鋼に向かって飛びつく様は、
とても滑稽な・・・いや、可愛そうな生き物が跳ね飛んだようにしか見えなかった。

「抱きつくな!!」

そして慣れた手つきと言うか手刀で愛を叩き落す鋼。

「ふぎゅぅ・・・」

床にべったりと愛が叩き落された所で、あたしは愛の背中に「よっこいせ」と
ぴっちぴちの女子高生としてこの台詞はどうよ?と自問自答しながら呟いてから
当たり前のよう座った。

あたしは身長が高い方じゃないので、愛の背中に座っても鋼と鉄を
かなりの高角度で見上げる形になる。
すでに口論は佳境に入っており、鋼が鉄を前からぎゅっと抱きしめて、
ベアハッグの要領で、ギーリギリと鉄を締め上げている。
そんな二人を見上げていて気づいた。
よく見れば天井に大きな穴が空いている。
ちょうど一メートルぐらいなのだろうが、漫画みたいに綺麗な円だ。
真上は鋼の部屋なので、鋼の部屋が丸見えだ。
おぉおぉ、良く見れば鋼の自慢のコレクション棚が大破している。
こりゃ、1〜2体で済まないだろうな。棚から落ちて穴の淵に
ネギまだったかつくねだったか忘れたがそんな名前のアニメの
女の子キャラの上半身部分だけがぶらりと引っかかっている
妙に生生しく見えた。気持ち悪いと言うか夢に見そうだ。


「俺のフィギィアかえせぇぇぇ!!!」


と、鋼は鋼で大事なコレクションを大破されて
怒髪天を突くとはこういう事ですね。と、言わんばかりのご立腹状態。
プロレスラーでもあんなに絞めないってぐらい、
鉄の両腕の下に手をまわし胴体をしっかりと抱きかかけぎゅーぎゅー締め付ける。
遠の昔に鉄の両足は宙に浮いており、相当苦しいんだろうが、当の鉄は、

「あっ・・・ん、ちょ、激しぃぃぃ!・・・くぅ〜〜・・痛たた・・・ぐ、んん〜」

と、何故か恍惚の表情で身悶えてる。
こいつは何されてるも性的な感じ方しか感じられないダメな子なのでしょうがない。


「おぉぉぉぉ!!!しぃぃねぇぇぇぇーーーー!!!」


と、さらに強く締め上げる鋼。おいおい殺すなよ。
そこであたしはしょうがなく、本当にしょうがなくだよ?
ぽんっと、飛び上がって鋼の頭に回し蹴りを・・・

「チェストォォ!!!」

豪快にぶち込んでおく。

「ごっ・・・!」

と、濁音一言だけ口にしてぶっ倒れる鋼。
鋼から開放された鉄も、口から泡吹いて倒れてる。
ベアハッグで人が気絶するって、鋼はどんだけ強くやったんだ。

はて、良く見れば愛は倒れ、鋼も倒れ、鉄も倒れている。
つまりは、今ここで立っているのは美少女女子高生、雅夜ちゃんただ一人なわけだ。
そして、鉄の部屋のこの有様・・・

「馬鹿小僧どもがぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁあ!!!」

渡り廊下をバタバタと走ってくる足音がする。
マズイッ!父だ!


「喧嘩するなら道場でやれぇぇぇ!!!」


次の瞬間、あたしのコメカミにきれーーーに、トゥーキックがクリーンヒット。
脳みそが、ぐわんぐわん揺れているのが自分でもわかる。

酷いよパパン。女子高生の顔を蹴らないでよ。クスン・・・・

とか思っている間、あたしは綺麗に錐揉みで二回転ぐらい空中を回ったに違いない。
次の瞬間、あたしの意識はきれーに刈り取られた。
最後の記憶を総合すると、たぶんすでに崩れ落ちている
他の三人の間に倒れたんじゃないかなーって事だけはわかるんだけど・・・なぁ・・・



と!今のイマ、頭から井戸水をぶっ掛けられて目を覚ましたタイミングの
朦朧としている頭でそこまで話をまとめられた。たぶん、間違ってないと思う。
わたしゃそう言う時は強いんだ。なんら自慢にならないけど、回復の瞬間に
はっきりと自己分析できるのはすごいと思わない?寝起きがよいだけって話もあるけど。
そんなこんあで他の三人も井戸水をビシャーンとひっかけられて、次々に目を覚ましてきた。

「状況説明ぃ!」

張り切る父、48歳。空手二段、柔道三段、剣道四段、
その他、テコンドーとマーシャルアーツと蟷螂拳と太極拳を齧っている格闘馬鹿。
アーミーコマンドまで手を出すなと言いたい。蟷螂拳なんて、
某国のマリーンが採用したと言う話ぐらいでしか聞いた事無いぞ。
時折、特に食事中などで、「コマンドサンボか・・・」とため息をつきながら呟くのが怖い。
これ以上やろうというのか、KGBにでもいくと言うのか?いくならいっとくれ。
そして出来れば帰ってこないで欲しい。
と、思っていると、愛、鉄、鋼の順番で状況を説明していた。

「鋼太きゅんに、チョップで叩き落されました」
「鋼に、ベアハッグで失神させられました」
「雅に、左空中回し蹴りを延髄に食らいました」

それにあたしも続く。

「暴力的な父が話も聞かずにボレーシュートの要領で、
 この麗しき女子高生のコメカミに爪先蹴りを叩き込んできやがりました」

うん、もちろん拳骨が落ちたさ。


今回の話は”あのヴァレンタインデーの話”から1ヵ月とちょっと。
先週辺りにホワイトデーと言うお菓子メーカー大絶賛のフェスティバルと言うか、
旅行会社や宝石店、便乗して質屋や激安量販店辺りもイベントに参加し、
女性の為に男性が散財する日?そう言ったら語弊があるか・・・
いや、女性に散財する権利すらない奴らも一杯いるけどさ。ぷークスクス。
いや、だからホワイトデーがあって、鋼と鉄にあたしと愛がお好み焼屋「じぱんぐ」にて、
ヴァレンタインデーのお返しに豚玉スペシャルを奢ってもらった丁度一週間後が今日かな。
うん、こんなどーでもよい話も絡めてみたくなったんだ。
お好み焼きおいしかったよー、とか、歯に青海苔がぁ!乙女としていやん。とか、
差し当たり20超えて発言したらちょっと人格疑われる。ってか、
疑われる程度ですめば良いけど、あぁ痛い子なんだぁ・・・って決め付けられるような、
そんなことを言っていたいんですよ。女子高生の間は!
だってこの先、ダラダラした退魔バトル物の物語の語り部をあたしがやらなくちゃいけないのだ。
ちょっとはおちゃらけていたいじゃないか・・・16歳のぴっちぴちの女子高生としては。
出来ることならさー、ラブストーリーのヒロインになりたいわけよ。うん。
幼馴染とクラスメイトとの間に揺れて、結局最後は・・・ってそんな感じの
悲恋を交えつつも、スリルとサスペンスなんかも盛り込んじゃって、
陰湿ないじめや、学園祭イベントや、夏休みイベントなんかを
こんもり詰め込んだ王道を一直線かつ今風を織り込んだ物語のヒロインやりたいの。
恋愛したいの。胸躍るような。ドッキドキするような!

でも、神様はそれを許してくれなくて、結局あたしの日常に恋愛要素なんて無くて、
自分に与えられた・・・ってか、あたしとしては本気でいらないんですけど、
この”魔を退治する”とか言われる能力を駆使して、
色んな人に馬鹿にされつつも、痛い子と言われつつも、健気に、
そして世の為、人の為、自分の為に、ちょっとお金のため。
今日も今日とて修行して、妖怪幽霊化け物モンスターその他諸々魑魅魍魎と、
戦う女子高生と言う、しょーじき今時どうよ?って物語の登場人物かつ語り部になるわけです。
うん、なんか切なくなってきた。
そんなこんなで物語が始まっていくんだけど、これを読んでくれる人たちに、
あたし、雅夜ちゃんから一言言っておきたい。

この物語は変態四人組が持てる限りの変態技を駆使して、
悪霊や妖怪と闘っていく変態スペクタクルラブロマンスバトル小説だ。
うんちょっと嘘突いた。ラブ要素なんてない。薔薇と百合の要素ならあるかもな!
好みじゃないとか気持ち悪いとか言われても、あたしゃ責任もてないよ!

そういうお子ちゃまはいますぐ、ごーほーむ!で・・・ぐっはぁぁあぁぁぁぁ!!!



「聞いとるのか雅ァァァ!!!」



心の中で語り部となるのに夢中なあたしに怒った父上さまが、
正座しているあたしの横っ面を右斜め上から左斜め下に
そぎ落とすような高めのローキックをきれーーーに、あたしの下顎に叩き込んだ所で、
ぐるんと世界が一回転して、あたしの意識は一瞬でお花畑に飛ばされましたが・・・

あ、綺麗に落とされる瞬間って・・・やっぱちょっと気持ちイィ・・・





如何ですか貴方も? え?遠慮しますか、そうっすか。もったいない。

あ、本編はじまりまーーす♪






H'sカルテット 〜激闘!バイトはお金の為にするのです!〜



登場人物 

阿部 雅夜(あべ まさよ) 私立園田学園1年生 ”攻め”の反対を”受け”と答える女子高生。
神薙 鋼太(かんなぎ こうた) 私立園田学園1年生 二次元と三次元の区別はつかない。
月読愛慈郎(つくよみ あいじろう) 私立園田学園1年生 乙女の心を完全装備した男子高校生
岩岳 鉄子(いわだけ てつこ) 私立園田学園1年生 マッドサイエンティスト。性に旺盛かつ見境無し

新堂 冬芽(しんどう とうが) 四人の父親代わり 格闘マニア。
岩岳 修理(いわだけ しゅり) 四人の母親代わり(鉄子の実母) 自称:”私なら余裕でモビルスーツを作れる”

九重 輪狐(ここのえ りんこ) 私立園田学園2年生 誰にでも好かれる元気でボインな女子高生


瀬戸 姫子(せと ひめこ)私立園田学園教諭 一年数学担当 映画研究会顧問
南雲 樹(なぐも いつき)私立園田学園教諭 現代社会・日本史・世界史担当 科学部顧問







「まだいけるだろうがぁ!!!」


我らがパパン、冬芽父さんがこの変人カルテットに枷た罰は、以下のものです。
・道場(板の間で100畳あるんですよ?)の雑巾掛け。
・兎跳びで道場内を5週(余裕でした)
・腹筋割れるまで腹筋(腹の割れた女子高生って萌える?)
・立てなくなるまで腕立て伏せ(腹筋でお腹、ぴっきぴき悲鳴上げてるのにさぁ!)


遠の昔に、鉄はダウン。なんとか腕立てまでついてきたけど、鉄はここが限界。
腹筋が弱すぎるのが鉄の弱点。と、かっこつけたもののあたしも200回までは数えてたんだが、
それからすぐにグシャリと潰された蛙のように道場の板の間に崩れ落ちた。
自分の流した汗の上に落ちるのはそれはそれは気持ちが悪いが、
冷たい板の間に火照った体を押し付けるのは気持ちよかった。
横を見ると、荒い息をあげながら、鉄は板の間に頬擦りをしている。何を想像してるんだお前は。

しっかし、相変わらずの化け物っぷりな鋼と愛。
愛は顔色一つ買えずに、もくもくと腕立て伏せをこなしている。
ただ、顔は汗でびっしょり。きているシャツも搾れば1リットルぐらいの汗はでてくるんじゃないだろうか?
鋼は鋼で荒い息をあげているが、愛よりもハイスピードで上下運動を繰り返す。
ただの二次元ヲタにしておくにはもったいないぐらいの”実力のある肉体”を持つ鋼は、
物凄い勢いで腕立て伏せをこなしていく。

「鉄は鋼の、雅は愛の上に乗れ」

と、さらりと言うんですけどね父上。アタシも鉄も動けな・・・はい、乗ります。

「ごめんね・・・」

あたしが呟くと、愛はにっこり笑った(ような気がした。
愛の顔は、板の間とにらめっこしてるので分からない)。
擦れるように息を吐く愛の吐息が、いつのまにか言葉になっていた。

「大丈夫。落ちないようにしっかりのってね」

あぁ、なんたる男前。これで女に興味があったら、フラグも立ちまくりですよ愛さん。
なんで貴方は世間一般でいう所のガチホモ。そうガチンコホモセクシャルなのですか。
とか、想いつつあたしは愛の背中で座禅を組んだ。
横を向く形で座ったので、丁度目の前で鋼が猛烈な勢いの腕立て伏せをしている。

「おりゃ!」

鉄はソファーにダイブするかの如く、鋼の背中に飛び乗った。

「ごっ!!!・・・・ゆっくり乗れ馬鹿!!」

物凄く苦しそうな呻き声を出しつつ、悪態はついたものの何事もなかったかのように
腕立てを続ける鋼。お前ホント化け物だなー・・・
暫く、鉄は鋼の背中の上で馬乗りになってみて腰振ってみたり、
鋼の背中にツツ〜・・と指を這わせて鋼の反応を楽しんだり、好き放題していた。
鋼の首筋から耳へ息を吹きかけてる辺りで、頬も紅潮してきて荒い息になった鉄は、
唐突に上着を脱ぎ捨てようとしたんだけど、次の瞬間、父に蹴られて3メートル程吹っ飛んだ。

「ったく、限度がある・・・」

吹っ飛ばされた鉄は、意識を失ってぐったりとしていたが、父は構わず引き摺りあげ、、
鋼の背中の上に、まるで米俵でもほおり投げるように鉄の身体を投げ捨てた。
一方の鋼はその間もえっさほいさと腕立て伏せの日本記録を抜かんばかりに体中に
負荷を掛け続けていく。だからホント化け物だなー・・・鋼・・・。

あたしはと言うと、鉄のとばっちりはそれほど嬉しくはないので、
素直に愛の上で座禅を組んで眼を閉じていた。
ゆっくりとした、それでいて毎回同じペースで上下運動が繰り返されると、
こりゃ人間の本能なのだろうか、それとも身体構造上なのか、眠くなってくる。
そろそろ精神修行の座禅が睡眠誘導状態になってきた所だった。
父は、どかりと鋼と愛の間に座り、あたしたちに話かけてきた。


「学校は、昨日から春休みなんだよな」


「です・・・」と、鋼
「はい・・・」と、愛
「うん・・・」と、あたし。
「・・・・・・」と、鉄。

誰に話しかけるでもなく呟いた父の言葉に、皆で同時に反応した。
うん、鉄はのびてたけど。


「なら、山篭りでもするか。この一年、お前たちは道場でしか修業してないしな」



「「「「断る!!!」」」」


綺麗に四人の声が重なった。
気を失っている鉄まで出てくるってことは、たぶん気を失った振りをしていたんだろう。
しかし、我々の嫌悪へ対する対応のハモリ方は、見事と言うぐらい綺麗に重なる。

「ひどいなぁー、父さんはお前たちとキャンプではしゃぎたいだけなのに・・・」

しょんぼりとした顔をする父。お前50手前でその面は無いぞ。っと。
我々四人もなれたもの。もうね。育ての父と子と言うよりは兄弟みたいなもん。

「電車で四時間、バスで50分、徒歩で6時間かかる場所は、
 キャンプに適しているとは言わない」と、鋼。
「装備が寝袋とランタンとナイフ一本とマッチとウィスキーって、
 キャンプっていうかな?かな?サバイバルでしょ」鉄
「父さんについていくと、春休み中に帰ってこれないから嫌です」愛
「ぶっちゃけめんどい?っていうかー春休みぐらい自由にさせろ?
 あちしたちもーいろいろ忙しいわけ。宿題もあるし、遊ぶ約束もあるし」あたしね。

しょんぼりとした顔で項垂れる父、冬芽48歳。ちなみに独身。
昔は良い男だったとは思うが、今はただの・・・・筋肉加齢臭かな。

「毎日一緒に鍛錬してるんだからいいじゃねぇか」
「そうだよー愛も鋼きゅんと一緒に組み手やるよぉー」
「そうそう、別に父さんの事、嫌っているわけじゃないんだから。
 毎日こうやってインドアながら汗流し合っているじゃん。
 それでよしにしよう。ね、父さん?」

お前ら優しいな。
そんな三人の言葉を聞いた父は、あたしの方を見た。
なんだなんだ、あたしにもコメント期待しているのか?

「一時間500円で手を打つよ。純情な娘とし・・・・あぅぅ・・・」

殴られた。その衝撃のせいか、ついに愛もギブアップなのかぺちゃりとつぶれてしまった。


「も、もうむりぃぃぃ・・・」


聞きようによっては卑猥に聞こえるぞ、愛。と、にやけてしまう声をあげて、
愛は静かにだけど荒い息をあげてぐったりと倒れこんだ・・・のを見つけて、
鉄が愛に飛び掛った。うん、こういうの弱いらしいんだ。弱いってか、
こういう弱った男を見ると強くなるんだ。鉄の奴。いわゆる雑食。

あたしはさっと身をひるがえして、立ち上がった。
愛に襲いかかる鉄、殺気(と言うか淫気?)を感じとって目を見開き、
身体を起こそうとする愛。しかし!時すでに遅く鉄は・・・

「ごっ・・・・」

と、まぁリアルな嗚咽を撒き散らしってか嘔吐っぽい状況になって
鳩尾にカウンター気味の父の後ろ回し踵蹴りを叩き込まれていた。
パパン・・・一応、女の子なんだから手加減してあげてよ。

「卑猥はけっこうだが、道場でやるな」

育ての父として、その発言はどうよ?と、心の中で突っ込みをいれた時だった。


「鉄ぅ、部屋直しといたよ。ついでに全員の部屋作り変えといた」


と、シュリママが声をかけてきた。
相変わらず簡単に言うなーこの人・・・
さっきの爆発からまだ4時間ぐらいしか経ってないのに・・・

「それとあんたらにお客さん。客間に通しといたから。
 冬芽!あんたはさっさと飯食っちゃいなよ。
 若い連中が台所で食ってるから、お前も早く!」

と、好き勝手言って、シュリママは行っちゃった。
しかし、相変わらず40台に見えないよシュリママ。
シュリママはあたし達の育ての親で鉄のお母さん。なんだけど・・・
あの人から鉄が生まれたとは思えないぐらい若い。
見た目だけなら20代は厳しくても、30代前半なら余裕でいけるよ。

「飯か・・・じゃぁ、今日は終わり。
 道場の掃除は俺がやっとくから、客間にいけよ」

と、冬芽パパが言った所で、鋼もやっと崩れ落ちた。
荒い息を垂れ流しながら、掠れるような声で「ありがとうございました・・・」と
呟いたので、あたしと愛も鉄も同じように父に感謝の言葉を口にした。

「ありがとうございましたぁ」愛
「あぁーざーしたー」鉄
「バイト料はやっぱり出ませんか?」うん、蹴られた。





シャワーを浴び、四人揃って短パンとシャツ一枚に、
おそろいのパーカーと言う格好で、客間に向かう。
客間は畳の八畳間で、大きな木製の長机がおいてあり、
それを囲むように、ぐるりと座布団が散乱している。
机の上には、五人分のカレーライスが用意してあった。
たぶんあたしたちの昼食だろう。そして、そこには見慣れた顔の女性が、
カレーライスをぱくついている姿も見える。


「よっ!先に頂いているよ」


幸せそうな笑顔で片手を挙げているこの人は、
学校の一つ上の先輩で九重輪狐(ここのえ りんこ)さんと言った。
どういう人かと言えば、とりあえずボインだ。ボイン。
ボイン以外の性格は、うん、こういう人だ。


「いやー、どうやら偶然にも昼時みたいだったし、
 カレーの良い臭いもするじゃないのぉー、シュリママもどうぞって言うし、
 ご相伴に預かっているわけだが、うまいねーここの家のカレーは」


狙って来た癖に!!!とは、言えないのですよ。うん。

「作っているのはシュリママじゃないけどな」

鋼はそう言うと、テーブルに座り、自分の分のカレーライスをぱくつき始めた。

「うちは、カレー作る時には、平気で50人前ぐらい作るから、
 よかったらたくさん食べてくださいね」

愛も鋼の横に座ってカレーに手をつける。
必要以上に女座りが似合うよな。愛は。
最初の一口を食べた後、スプーンにこんもりカレーをよそって、

「あーん」

と、鋼に差し出す愛。なんの抵抗も無くそれをパクリと消費する鋼。
微笑ましい。ガチホモじゃなければ本当に微笑ましい。

「今日はなんのようっすか?面倒くさい事は勘弁してください。
 春休み中にタイムマシンを完成させたいですよ」 鉄がアフォなこと言い出した。

「あはは、相変わらずだねぇ〜」と、輪狐先輩。

「あたしは楽して儲かるバイトの紹介なら飛びつきますよぉ〜」

とか言いながら、あたしもカレーに手をつけた。うん、いつもの味だ。
作ったのはシュリママの工房に勤めている兄ちゃんたちだ。間違いない。
料理の上手い男って惚れちゃうよねぇ〜後片付けまでやってくれるなら、便利この上ないし。
料理洗濯掃除やってくれて、お給料運んでくれれば最高の旦那様だよね。
などと妄想にはまって、将来は必ず玉の輿で使用人のいる家に住む事を決定事項としている
あたしを見つめ、輪狐先輩はニヤニヤとしかいいようの無い顔で見ている。

「じゃー、一人目は雅っちに決定ね?」

雅っちって呼ぶな。と心の中で小さく小さく突っ込んだ後、
あたしは至極当然の質問をぶつける。うん、カレーには福神漬けよりらっきょうだよね。

「はて?あたしがなにかのメンバーに組み込まれたみたいですが・・・」

輪狐先輩のニヤニヤは止まらない。
スプーンでカレーライスの最後の一口を口に放り込んでから、
輪狐先輩はスプーンをあたしに突きつけた。

「雅っち!貴方を春休み特別防衛隊々長に任命します!」

「は?」

あれだ、中学生なったっていうのに、、
サンタクロースの存在を全力で肯定するクラスメイトとか、いなかった?
あれあれ、あぁいうのに出会った瞬間につくる顔。
この場合適切な言葉は「はとがまめてっぽうくらってふぁっきん!」だと思う。
貴方はなんておっしゃいました?と顔にマジックで書いて睨み付けたい。
油性でもいいよ。この人に分からせる事が出来るなら。

「仰っている事が理解できません」

「またまたー、気づいちゃった癖に」

手をひらひらと空に泳がせた輪狐先輩。うっわ、殴りてぇ・・・
するってぇと、図った様に冬芽父さんが牛乳もって現れた。
てかおっさん。五人での食事に牛乳一リットルパック五本てバカか?
あ、ごめん父さん。バカなんて言って。ってか疑問系で。
バカですよねー・・・ってか、鋼、愛、鉄!お前ら当たり前に牛乳受け取って・・・
飲み干すなぁぁーーー!!!!

「おー、九重さんの所の長女。元気だった?」

冬芽父さんは当たり前のように輪狐先輩にも牛乳を・・・先輩は流石に・・・
あ、もらうんだ・・・で、飲むんだ・・・え、コップ・・・
いらないですよねーそうですよねー

「あ、冬芽さん。父がこれもってっけって」

輪狐さんは一リットルの牛乳をそのまま飲み、ぷっはー!と、
仕事帰りに生ビールで一杯やり始めたおっさんが
一口目で吐く擬音を忠実に再現しながら、
テービルの下からなにやら小包を出してきた。
小包ってか、小さなダンボール?

「ん、なにかな?」

「松葉!西で仕事があって、ついでに大量に買ってきたみたい」

「おぉーーー!!!カニー!って・・・流石に解禁前じゃ・・・」

「だから、冷凍と缶詰の詰め合わせ。いらない?」

「いる。あ、おかわりどうかな?」

「いだだぎまふ!」

と、言うやり取りがあった後に、冬芽父さんは皿を四枚もって台所へと向かった。
おい、鋼、愛、鉄、お前ら2杯目まで早くないか?
あたしはと言うと、この家のしきたりの如く、こんもりと乗せられたカレーライスを
半分と消費出来なかった。ってか、これを二杯も食えば、、
どこぞのカレーチェーンのチャレンジメニューですよね?と、言わざる得ないんですが・・・

「ってか、態々うちまで来るって事は・・・」

鋼が二皿目のカレーライスを消費し終えてから喋りだした。いや、はえーよ。

「機関絡みのなんか?って事ではないっすよね。
 それなら、普通に収集かけてくれれば、俺ら出向くし」

「あー、うんうん。機関じゃないんっさー。
 いや、機関って言えばそうなんだけど。
 ほら、機関も別に学校の零障全てに関わるわけじゃなくてさ、
 その学校独自の色々な取り決めもあるんさ。
 で、これはその学校に定められた組織の分室。
 つまりは、園田学園分室のメンバー内で、上手く持ちまわりしてください。
 って、事なんよー」

「思うに、大事なところが抜けてません?」

カレー早食い選手権の二位は愛ちゃんでしたーうわぁーパチパチ。

「うん、だって言うとさー、嫌がる子も多いんだもん。
 それにこれは強制じゃなくてさぁ、あくまで自発的にやってほしいんだ」

自発的・・・ボランティアかぁ・・・・

「いや、あんたいま内容話さないで雅をメンバーにいれたっしょ?
 どのあたりが自発的?」

三番手は鉄。それとほぼ同時に輪狐先輩でした。以上、カレー早食い選手権を終わります。
ってか、あたしは一杯目でリタイア。当たり前だぼけぇ


「鉄っちゃんは突っ込みきびしーねー。
 まぁいいや。どっちにしろ四人とも来て欲しかったし。実はね・・・」


輪狐先輩は事の内容を話してくれた。
全部話し終わった後、あたしはおもむろに準備をした。
外出する準備と、装備一式だ。

ちなみに、鋼も鉄も愛も大張り切りで準備をしている。
家から持ち出す武器もあるので、いつもの学校内戦闘よりも


うん、あたしたち四人は本当に似ている。


原動力ってのは、色々あると思うんだ。あたしもウッスイ本が1000円以上する
ちょっとあれなイベントには喜んで参戦するし、それがジャンル限定イベントとか、
カップリング限定イベントならもー最高潮。ジャンル限定じゃない日本一のお祭り騒ぎの時は、
毎年、鋼と一緒に行ってるよ。たまに鋼と一緒にいたい愛と暇な鉄もついてくるし。
愛は愛で、可愛い小物や、季節ごとの新作の服は店まで見に行くし、
鉄もしょっちゅう新宿や御茶ノ水の特殊パーツのジャンク屋までいくし、
秋葉原の駅下パーツショップではもう常連だ。

そう、動く原動力って人それぞれ違うんだけど、ほら、一個あるじゃない。誰でももってる原動力。
あたしたち四人もご多分に漏れず、その原動力には大いに張り切るのさ!

そう! お・か・ね!










「そろいましたね。変態カルテット」

ニコニコ顔の南雲先生が最寄の駅まで迎えに来てくれていた。
南雲先生はあたしたちの学校の先生で、とりあえずイケメン。
もう32歳だけど、まだまだ20代で通るぐらいイケメン。
ってか、変態カルテット言うな。こんな駅前で!


「やー、部室で同僚を押し倒した変態先生!」

鉄も負けてないなぁー、ってか直球の鉄が好き。

「ぶっ!!!言うなァ!こんなところで言うなあ!
 それにあれは結局未遂で!・・・あ・・・・」

まぁ、本当の事とは言え、隠しておきたい事を言われて恥ずかしいのはわかります。
でも、認めちゃったらダメだと思います。
ほら、愛と鋼と輪狐先輩が軽蔑の眼差しで見てる・・・
いや、輪狐先輩はニヤニヤ顔だ。つっつく気まんまんだ。


「ち、違うんだ・・・」


その後、執拗に輪狐先輩に突っつかれた南雲先生は、
覚悟を決めて、同僚の瀬戸先生と付き合っている事を白状した。

まだ、付き合って一ヶ月ぐらいだろうし、ラブラブなんだろうけど、
学校での二人は瀬戸先生が南雲先生をこき使う。と言う日常風景が、
全校生徒に知られている。尻に敷かれるのは時間の問題ですね、先生。

学校までは駅で二駅。車で20分も掛からない。
南雲先生が色々突っ込まれてその度にハンドルきり損ねるのが、
あぶなっかしぃ反面楽しくてみんなで色々言ってやった。

学校につく頃には、南雲先生は最初のイケメンはどこへやら、
くたびれた男が一丁上がり。ってな感じでげっそりしてた。まぁしょうがないか。


「来たわね。早速説明するから科学部に来てくれるかしら?」


出迎えてくれたのは瀬戸先生だった。
南雲先生の流れで瀬戸先生も突くかと思ったけど、誰も突かなかった。
うん、せとてんてーは、切れるとちょーー怖い。怖いってか、やばい。
命の危険も感じる。みんなそれは分かっているので、誰も言わない。
空気読んでるぅー!


あたしたちの学校は、教室のある本校舎と、音楽室や図書室なんかの特殊校舎。
それに体育館と、部室棟が体育会系と文系の二棟ある。
けっこうデカイんだ。
そのうち、文系部室棟の三階一番奥が、科学部。
科学部の部員は、一年生一人、二年生三人、三年生は・・・
まぁもう卒業式終わったからゼロなんだけど、その全てが、あたしたちの属する
機関に所属するメンバー。一年生では鉄がそう。
だから、科学部は必然的に組織の仕事の打ち合わせに使われるようになってた。


「今年は五人か。まぁ五人なら楽勝よね。私と南雲先生も手伝うし」

そういいながら、瀬戸先生は窓際のホワイトボードに色々書き出した。

書き出した項目を簡単に説明受けるんだけど、内容はこんな感じ。

・学校結界を新しく張り直す。
・組織至急の装備品の手入れ。
・新しい幽霊妖怪組合の照合霊気の作成。
・組合に入っていない妖怪幽霊の類に、組合に入るように説得。
・組合に入らず、さらに人に害を与える妖怪などの駆逐。

学校結界ってのは、学校に無駄な霊が入ってこないように、結界を張る事。
まぁそのまんま。一年に一回。この時期に張り直すのは聞いた事がある。
装備品の手入れ、ってのは、さっきから頻繁に出てくる組織、
つまりは霊力学徒連盟と言う、全日本退魔師組合を母体とする学生が中心の連盟のこと。
学校ってのは元々霊的なものが集まりやすいから、
そういうのに退魔師を一々派遣できないし、それほど強い霊や妖怪もいない。
だから、若手の退魔師、つまりは学生退魔師でなんとかしてちょうだい。って事で出来たんだ。
連盟は、関東、東北北海道・関西・中国・四国・九州沖縄。って更にわかれて、
あたしたちは霊力学徒連盟関東地域学舎専門退魔組織に所属する。
もっと言うと、この学校、園田学園の生徒による園田学園分室だ。なっがいよねー
あまりに長ったらしいので、あたしたちは、組織。って略すんだ。
組織は、全日本退魔師組合を母体とし、その組合さんは国から援助を貰っている。
その援助は組織の方にも降りてくるし、時折分室を持たない学校から、
有料での依頼も来るので、それなりに潤っているらしく、退魔道具や礼式道具、
札、武器に至るまで、東洋西洋関係なく、最新のものが各分室支給される。
とはいっても、分室はけっこう多いので、どこからかの型落ち品も多いし、
毎年支給されるわけでもない。だから、毎年手入れが必要なんだそうだ。
本当にもう使えない道具は、組織に申請してさらに至急してもらわないといけないしね。
それと幽霊妖怪組合。これは、所謂学校霊・学校妖怪の組合。
人間に害を与えない魑魅魍魎もいる。それらの居場所を奪う事も、命を奪うことも、
それは殺人と変わらない。共存すべき。ってのが今の退魔業界の流れで、
そういうのは間違って駆逐しないように、管理しましょう。って人と共存する為の組合。
まぁ、狂ちゃった妖怪を早く見つける為に、霊気を採取しといて、探索目的で使う。
って裏設定もあるけどさ。


「こんなところかしら・・・
 これらを一夜でやってもらいます。
 照合霊気の作成は殆ど終わっていて、あとちょっと。
 まだ組合に入っていない子たちの説得が終わり次第、照合霊気を作るから、
 それも手伝ってね。じゃぁ、なにか質問あるかしら?」

「はいはーい!しっつもぉーん!」小学生っか!って言うぐらいさわやかな鉄の挙手。

「はい、どうぞ」

「バイト料はいくらっすか!?安いと身が入りません」

あぁ、それはあたしも聞きたかった。

「ふふふ・・・まぁその年頃はお金欲しいわよねぇ・・・
 実はこのバイト、結構割がいいのよ。本当なら、二年生優先でやらせるんだけど、
 九重以外の二年生は全員用事があって出れなかったの。悔しがってたわぁ」
「いや、いいから金の話!きーんーがーく!」
「はいはい、一晩で一万円よ。どう?納得?」

歓喜!我ら四人歓喜の雄たけび!

「もうちょっと細かく言うと、本当は保険に入ってもらうから、
 300円かかるんだけど、それは私がだしてあげるわ。
 交通費は出ないけど、南雲先生が最寄の駅まで送ってくれるからいいでしょ?
 それと、残業代は出ないわ。ってか、きっちり夜明けまでに終わらせて。
 色々締め切りがあるから。あと、これは考え方の問題だけど、
 一時間で終わらせれば時給は一万よ」

怒涛の歓喜!どこまで歓喜!!騒ぐ四人。

「とは言っても、開始は六時だから、今から三時間ぐらい間があるんだけどね。
 手入組は作業はいってもらって、交渉組は、仮眠を取ったほうがいいわ。
 じゃぁ、組み分けするわね。これは私の一存で決めるわ。能力的なこともあるから」


決まった組み分けは以下の通り。


・学校結界→美少女雅夜ちゃん
・装備品の手入れ→鉄
・照合霊気の作成→輪狐先輩
・妖怪幽霊の類の説得→愛
・駆逐→鋼

うーん、適材適所だな。

「私と南雲先生は、要所要所で手伝うわ。
 じゃぁ、岩岳さん。早速手入れから始めましょう。
 九重さんは、去年やったから慣れてるわね?
 他の三人は仮眠取りなさい。起こしてあげるから」

そういって、瀬戸先生は鉄と輪狐先輩を連れて部室を出て行った。

「よーし、寝るかぁー、速く終わらせて早く帰りたい」
「はぁーい」

鋼はその場で床に転がって寝だした。
愛は横になった鋼の背中にぴったりと張り付いて寝息を立てる。
お前ら、の○太君か、あまりも寝るまでが速すぎるぞ。


あたしは言うと、学校結界の張り方のマニュアルを一通り眺めてから、
椅子に座って机につっぷして寝息を立て始めた。
ちなみにあたしは、のび○君じゃないが、0.3秒で寝れる。うん、特技。











「雅・・・・ほら雅ぁ?」

ゆらゆらとわたしは揺り動かされる。

「ん〜〜後ごふ・・・ん・・・・」

「起きないと、俺は性欲の限り雅を犯す所存です!」

鉄ぅぅぅ!!

あたしは即効で起き上がった。鉄ならやりかねん!

「おはよー、雅」
「し、心臓に悪い起こし方しないでよ・・・」


あたりはもうすっかり真っ暗になっていた。
時計を見ると18時15分丁度を指している。

「鋼と愛はもう行ったぜ?」

「鉄の備品手入れは?」

「もう終わった。ってか、二時間で終わった。
 あぁいうのは俺向きだよね。機材関係の整理は得意」

「まー、毎日機械弄ったり道具改造してる鉄ならね。
 じゃぁ、手伝ってよ。結界張るの。けっこう簡単みたい。」

「そのつもりで着たんだよ。ほれちゃっちゃと用意する!」


しっかし、中途半端に寝ると眠いよね・・・うん・・・





結界は簡単だった。
長い時間、一年間を保たせるのはきっちりした形と、
均等配分された霊気が必要だ。

基礎はあたしが五亡星を中心に作り、それぞれのキーとなる場所に、
札をあたしと鉄で手分けしておいてきた。
その札を頼りに、校舎の屋上から結界を張る。
細かい調整は一緒に瀬戸先生が付き合ってくれて、良い感じに霊気は均等配分された。


「上出来ね。五年ぐらい持ちそう」

と、瀬戸先生が誉めてくれた。ここまで2時間半掛かった。
労力はたいした事は無いが、時間はかかったなぁ・・・


「じゃ、部室に戻りましょ。そろそろ他の二人も終わってるかもね」

あたしたちは、瀬戸先生と共に部室に戻る。
途中、全力疾走している愛に出会った。すばしっこいのが一匹要るらしく、
もう30分は走っているとの事。あぁ、あっちじゃなくて本当によかった。

部室では、輪狐先輩が、10数匹のちっちゃい妖魔や妖怪たちの相手をしていた。
はたから見ると奇妙な光景だ。気持ち悪い外見の奴もいる。
でも、こいつらは別にあたしたちに害を与えない。あたしも間違って払わないように注意しなきゃ。

「はーい、ちょっと痛いけどがまんしてねー」

ってか、輪狐先輩はなぜナース服ですか?
小さな針を妖怪に指し、霊気と外皮の一部を摂取する。
それを専用の試験管の中にいれ、これまた専用の駅に浸すと、
特殊なインクが作れる。これで台帳に名前を書けば、照合霊気帳の出来上がりだ。


あたしたちも手分けして、台帳作りを手伝っていると、
汗だくで、荒い息をはぁはぁもらしている愛が帰ってきた。

「こ、この子で最後ですぅ・・・組合に入ってくれるって。
 お願いしますぅ〜・・・」

それだけ言うと、がくりと膝を落としてへたり込んだ。
無理もない、途中なんども切替しやバックステップを駆使する
兎に似た妖怪との鬼ごっこ。フルマラソン走ったようなもんだろ。
瀬戸先生が、愛から妖怪を預かると、愛は荒い息のままばったり倒れてしまった。

あぁ・・・鉄ぅ?おまえ、先生も先輩もいるんだよぉ?


「愛ってばかわいーなぁーもぉ!!!」

おもむろに上着を脱ぎ捨て愛に飛び掛る鉄。
愛に逃げる元気はなさそうだし、取りあえず後ろから鉄の後頭部を思いっきり蹴っておいた。


「終わりましたぁー」

輪狐先輩の元気な声と共に、作業は終了した。
作業完了まで、小さな妖怪たちと戯れてたが、お前ら外見に似ず、なかなかかわいーなぁー
妖怪と戯れる女子高生。どう?萌える?これからの売れ筋ジャンルにならないかな?
ならないよねー


あたしたちは、妖怪たちをそれぞれの住処に送って行ってやった。
可愛らしく尻尾振ったり、手を振ったりするあいつらみてると、本当に可愛いなぁって思う。
ってか、お前らそんなとこに済んでたのかぁー!ってのは何匹か居た。
音楽室のピアノの中と、家庭科室のエプロンの中と、理科準備室のオイルフラスコの中は
本当にびびった。


全員を送り届け、あたしたちは部室に引揚げる事にした。
ちなみに、部室には愛が一人でのびている。

特殊校舎から、部室棟へと歩き出したときだった。

激しい爆発音が本校校舎の屋上から響き渡ろる。


おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい・・・カンベンしてくれよぉ、
鋼ぉぉぉ!お前だよなぁそこの担当ぉ!!!







あたしたちが屋上に上がった時には、
鋼は落下防止用のフェンスに半分以上めり込んでた。
屋上の真ん中では、南雲先生がずいぶんとでかい・・・で、か・・・え?

「なんじゃありゃぁーー!!!」

鉄があたしの気持ちを代弁してくれた。
はい、どーみてもガーゴイルです。本当にありがとうございました。
ってか、あたしも初めてみましたが、でかすぎます。知っている大きさよりもさらにデカイです。
5メートルは余裕で超えてます。ってか、南雲先生つえーなぁー・・・あれとタイマンしてるよ。

「さっき屋上で結界を張ったときにはいなかったのになぁ!もう!
 岩岳、九重!貴方達二人は私と南雲先生のバックアップを!」

瀬戸先生が叫ぶ。

「はい!」
「っしゃぁ!」

鉄と輪狐先輩は南雲先生のバックアップの為に走り出した。えと、あたしもあたしも!

「阿部!」
「はいっ!」

元気よく返事。よーし!がんばるぞぉー!!!

「走れぇ!」
「はぃ!?」
「神薙が落ちる!!!」

そう言われて振り向いた瞬間、鋼は半分以上めり込んでいたはずの落下防止用フェンスから
身体半分が突き抜けて、下半身だけでぶら下がっている状態だった。

「鋼ぉぉぉぉぉぉ!!!」


無我夢中だった。あれはやばい。本気やばい。
流石に四階建ての屋上から落下すれば、いくら怪物くんの鋼でも死ぬ。
いきなり明日の一面に、高校生学校から転落事故死。とか不吉な想像をしてしまった事は誤る。
だから、もうちょっとがんばれ鋼!


私は一直線で走り出している。もう後10歩無い。
なのに、鋼の身体はズルズルと落ちていく。だめ、間に合わない!


「鋼ぉ!」

もう3歩。でももう足以外は・・・あ、落ちるぅぅぅ

「だめぇぇ!!」

私は勢い余って鋼に向かってダイブした。鋼の身体を抱きしめる事は出来たけど、
二人して、地面に真っ逆さまでランデブー。ゴメン・・鋼

ぎゅっと鋼の身体を抱きしめる。ごめん、一緒に落ちるから許して。一緒に・・・
死ぬから・・・

「うぉぉぉぉおっぉおっぉおおぉぉ!!!」

鋼の声?!

「捕まってろ雅ぁ!」

鋼は落ちながらも、身体を振るった。辛うじて校舎の縁に手が届いく。

「あっぶねぇ・・・俺、気を失ってたか」

この左手一本で宙ぶらりんの私たち。よかった。ほんとうによかった。

「わりぃな、雅。お前のお陰で目が覚めたわ。
 取りあえず、俺の首に腕回せ」

「え?」

「いいから早く!お前重くねーけど、この体勢はきついの!」

私は鋼の胸にまわしていた手を少しずつ動かし、両腕を鋼の首に回した。
か、顔が近い。ってか、密着しすぎ・・・これは、ちょ、この体勢ってば・・・

「おーけー、しっかり捕まってろ、雅」

ぎゅっと抱きしめていると、鋼の声が耳もとで囁かれているように聞こえる。
ちょ、状況が状況だからがまんするけど、これすっごくハズイ・・・

「う、うん・・・」

私が返事をしたのを合図に、鋼は呪文を唱える。

「我が右手には天使、我が左手には悪魔。
 その力、翼なりて、我は虚空を飛翔する!」

あぁ・・・鋼、あんたその呪文。

「でっびぃーる、うぃーーーんぐ!」
「違う!」

すまん、0.1秒で突っ込まれた。

「ウィングナックル!」

でも、そのまんまの名前よりは、デビルウィングのがよくね?と、
心の中で思ったものの、取りあえず黙っておいた。
うん、状況が状況だけに。

そうだったそうだった、鋼はその気になれば、”空を飛べたんだ”


鋼の右手全体から白い翼が、左手全体から黒い翼が現れた。
飛翔呪文は難しい術なんだけど、鋼は色々特殊な能力で、方術と魔法を両方使える。
その二つのバランスをとることで、難しい術も魔法も時間を掛ければ使えるんだ。
うん、ってか細かい話は各自脳内の中二病的要素で適当に保管してくれると助かる。
あぁ、だいたいそんな感じで間違ってないから。


「とりゃ!」


鋼は、縁から手を放して虚空にダイブした。
なんか、学芸会とかで子供が真似する鳥の動きを想像できるだろうか?
中腰な感じで、手を上下にばっさばさやるの。うんそれ。
ごめん、鋼、その動きはちょっと滑稽。ぷーークスクス


鋼の身体はグングンと高度をあげ、数秒で屋上に舞い戻った。


「阿部ぇ!!先生、むっちゃくちゃあせったぞぉぉ!!!」

瀬戸先生がガーゴイルの攻撃から避けながら叫ぶ。

「弱ってきたぞ。一気に仕留める!」

南雲先生もついでに叫ぶ。なんだこの熱血アニメのノリ?


「阿部、九重、結界で両羽なんとかしろ。俺は胴体止める。
 岩岳と姫子は、二人の補助!」

「はぁい!」っと返事しながらも、
あー、南雲先生は普段瀬戸先生を姫子って呼んでるんだー
とか、考えた。不謹慎不謹慎。

私は左手、輪狐先輩は右手に周った。その後をそれぞれ鉄と瀬戸先生が追う。
私は左羽を結界で封じた。そこへ鉄が、もっていた道具をありったけ打ち込んで、
動きを封じる。私は一旦結界をといて、さらに強い結界術の詠唱を始める。
その間、鉄が左手を封じ込めていて、私は結界術を完成させて、
完全に動きを封じ込めた。ふと見ると右羽側も、輪狐先輩が押さえつけている。
南雲先生は、ガーゴイルの腰を、がっしり掴んで話さない。

「神薙ぃ!頭ぶんなぐれぇぇぇ!!!」

南雲先生がそう言った時だった。
動けないガーゴイルは無理やり暴れる。
腰を掴んでいる南雲先生の腹を思いっきり蹴った。
先生の口から血があふれ出る。でも、私たちも助けにいけない。
そう思った次の瞬間には、南雲先生の左肩に、ガーゴイルの嘴が届いて、
おもいっきり突き刺さった。


「いつきっぃぃぃぃ!!!」

あー、瀬戸先生も下の名前で呼ぶんだぁ・・・って、そうじゃない!

「鋼ぉ!早くぅ!」


私が叫んだときには、飛ぶように走りこんできた鋼が、
ものすごい勢いでガーゴイルを殴りつけた。そのまま連打。
擬音つけるとしたら、無駄無駄?オラオラ?いや、それは擬音じゃない。
でも、一安心だ。

三秒ほど鋼はガーゴイルの頭を殴りつけた。
四秒目には、ガーゴイルの身体がばらっばらになった。
なんだこれ?鉄?土?

ガーゴイルの破片は、風に霧散した。なんだったんだあれ?・・・・






びっくりした。
二万円貰えた。


倒したガーゴイルが、指名手配の妖魔だったらしく、
西洋の古い銅像についてた妖魔が、日本にきて力をもってどーたらこーたら
と、説明を受けたが、知らんがな。

ガーゴイルの破片の一部が残ってたので、先生たちが
退魔師組合に連絡して、10分ほどで応援の部隊がきて、
さっさと回収していった。そのついでに、いくらかのお金が
先生たちに支給されたらしい。うん、先生たち退魔師組合の人間だしね。
そうとう貰ったらしいんだけど、屋上のフェンスとか壁の修理費を差っぴいて、
残ったのをバイトに配ってくれた。なので、働いたのが一万円と、ボーナス一万円。
ちなみに愛は何もやって無いので無い。ってか、泣きながら私たちに謝ってたよ。
まぁ、私はよく仕組みはわからないけど、
倒せばお金をもらえるときもある。ってのわかった。

いや、そういう考えじゃだめなんだけど。

ってか、もっとびっくりしたのが、南雲先生だ。
そらもー豪快に肩えぐられてると思ったが、すんごい軽症。
倒してすぐに、私は治療術の為に南雲先生に走りよったが、
先に瀬戸先生が飛びついてた。あついのぉーってか、なんだ、
B級アクション映画のラストシーンか?

いやいや、それで先生の傷口みたんだけど、
擦り傷程度しかないの。
なんか、ラブラブの空気で聞きづらかったのもあるんだけど、
南雲先生は身体が物凄く硬い一族なんだって。
なんでも、竜の鱗とか呼ばれているらしい。
それ以上きけなかった。だってもー、二人ラブラブなんだもん。


さて、臨時収入を得た私たちは、取りあえずその日は爆睡した。
眠くて眠くてしょうがなかったからだ。


次の日、朝稽古を終えた鋼と、起きたばかりの鉄が、口論していた。
バイト前に、鉄が実験で失敗して、ふッ飛ばしてしまった鋼のフィギアを、
弁償するだしないだの口論だ。鋼も鉄が金持っているのをわかっているので引かない。
うん、なんか平和だなぁ・・・



「もー!二人してケンカしないでぇ!今日はどっかあそびいこぉぉぉ!!!」


シャワーから帰ってきた愛が、二人に抱きついた。
うん、まぁこれが私らの日常だ。軍資金もあるし、今日は四人で遊びにいこうじゃない!




あたしは、じゃれあう三人にダイブした。









ってか、、今回のバイトが、ある事件のきっかけになっているんだけど、
それはまた、別の機会に話す事にする。




おっしゃぁー!とりあえず乙女ロードいくぞぉぉぉ!!!






END

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