H'sカルテット 〜ファーストキスぐらい夢見させろ!〜
沖田遊魂留


その日の放課後、あたしたちは四人揃って生徒指導室に呼ばれていた。
見た事の無い背広のおっさんとまだ若い警官が二人。
それに、びしっとリクルートスーツに身を包んだ綺麗なお姉さんが一人。
お姉さんが一番偉いのか、それとも学生のあたしたちに気を使ってくれているのか、
そのお姉さんがあたしたちに優しく語りかけてきた。

「その時の状況を詳しく教えてくれるかな?」

細長いテーブルを四つ繋げて、あたしたちは向かい合って座っている。
若い警官二人は後ろで手を組んで立っている。なんだよ。取調べみたいだ。
あたしたちがまるで犯罪者みたいじゃないかと思った所で、
端のほうに座っていた先生が声を掛けてくれた。

「子供たちに無用な威圧感を与えます。
 申し訳ございませんが制服の方は外でお待ち頂けますか?」

静かで、丁寧で、それでもとても強い口調だった。
シンと静まり返った生徒指導室に先生の声だけが響く。

「これは失礼しました・・・・おい・・・」

背広のおっさんが、後ろに立つ警官に声をかけると、
無言で警官二人は部屋を出て行った。それを確認すると、

「私がいたら、この子達も喋りづらいと思います。
 終わったら声をかけてください」

そういって先生も警官に続いて立ち上がった。
出る間際に、一番端に座っていた我らがリーダーの肩に手をかけて、
耳元で背広のおっさんとお姉さんに聞こえる声で、

「本当の事を、全部素直に話すのよ・・・」

と、耳打ちして部屋を出て行った。あんた中々の策士やのぉー
どうせ受け答えはそいつが中心でやるのだ、あたしを含めた他の三人は関係無い。

さて、あたしはぴっちぴちの女子高生でかつ美少女で
お胸様もお尻様も人様以下と言う重大なポイントさえ抜けば、
それなりに人生面白おかしく楽しんでいけるんじゃないかなーと思う
阿部雅夜ちゃん16歳なんですが・・・
あぁ、後、幼馴染の変態三人ね。
この四人で今、学校の生徒指導室で警察関係者二人に色々聞かれようとしてるわけです。

別にね、万引きしたり暴走行為したり集団イジメしたりして、
警察に尋問受けているわけじゃないのよ。うん。

話は昨日の放課後に遡る。

あたしたちの目の前に、先輩が空から降って来たんだ。
うん、ぶっちゃけ本当の話で、ぶっちゃけそれでおしまい。
面識の無い先輩だったし、これからなにをどー聞いてもなにも答えようがないわけ。

はー・・・正直めんどくさい。
今日は今川焼でも買って、読みかけのサンデーとマガジンを一気読みしながら、
渋茶をずずずーっとすする幸せコンボの予定だったのにさぁ・・・



取りあえず、今日の朝から順を追って話そうか?





「H'sカルテット 〜ファーストキスぐらい夢見させろ!〜」


登場人物:

阿部 雅夜(あべ まさよ) 私立園田学園1年生 ”攻め”の反対を”受け”と答える女子高生。
神薙 鋼太(かんなぎ こうた) 私立園田学園1年生 二次元至上主義者。中二病。
月読愛慈郎(つくよみ あいじろう) 私立園田学園1年生 乙女の心を完全装備した男子高校生。鋼太LOVE
岩岳 鉄子(いわだけ てつこ) 私立園田学園1年生 マッドサイエンティスト。性に旺盛かつ見境無し


瀬戸 姫子(せと ひめこ)私立園田学園教諭 一年数学担当 映画研究会顧問
南雲 樹(なぐも いつき)私立園田学園教諭 現代社会・日本史・世界史担当 科学部顧問





朝の風は冷たい。身体がぴっしと引き締まる。
自転車の荷物乗せに逆に座って過ぎ行く景色を眺めながら
手にはぁ〜っと息でも吹きかければ、息も真っ白になるってもんさ。
反面、まだまだ眠いのさ。学校指定のコートはだっさいけど、これを着てればぬっくぬく。
自転車を運転している鋼の背中にぴったりと背中を合わせればさらにぬっくぬく。
眠気も倍増するってもんだ。

「眠い」
「当たりまえだアフォ。俺と愛慈郎の朝稽古が始まるまで起きてるんだからよ」
「うるさい、乙女には色々調べ物があるの!」

あたしたちは一緒に住んでいる。同棲ではない。そこは強く主張しておく。
自転車を運転しているのは神薙鋼太。あたしの幼馴染。
こいつの他に、月読愛慈郎と岩岳鉄子、それに父が一人に母が二人。
加えて業員が12名に門下生が36人。足した48人のうち、実に17人が住み込み。
と、言うちょっと代わった大所帯で住んでいるわけ。
住んでいる場所は、月読居合道場の敷地と隣りの岩岳製鉄所の敷地の間を繋げて作った
40坪もある結構広い庭に、一軒家を三棟並べて立てて、
道場の門下生と製鉄所の従業員、そしてあたしたち四人で、その三棟を分け合って使っている。
あたしたち四人だけで四部屋+リビング、キッチン、バストイレ別の一軒家を占領しているから、
あながち同棲でも間違って・・・いやいや、同居。同居だから。
16歳の乙女として、そこははっきりいっておく。うん、お陰で友達を家に呼べないの。
嘘、友達呼ぶとか中学生じゃないんだから。メンドイ。
そんな大所帯で住んでいると、同い年の男と住んでいるなんてこたぁーささいな事なんですよ。
えぇ、乙女としてその感覚はどうよ?って思うけど。

話は戻るけど、朝はいつも鋼と二人で登校する。
鉄は科学部の癖に朝練があると6時半には家を出る。
愛はそれに合わせて六時半に出ている。
あいつらはそんなに早く学校に行ってなにやってるんだろう?
ちなみにあたしは何より寝ていたいので、ぎりっぎりまで寝ている。
鋼もダラダラダラダラしているから、なんだかんだでこの時間。
もう七時五十分。鋼の全力疾走なら5分程度で駅につく。
八時四分の各駅停車に飛び乗れば、6分で二つ隣の駅につく。
そこからダラダラ歩いて20分程度で学校だ。
無論、25分のホームルームに間に合わせようとなると、そっからダッシュだ。
もうね、駅からダッシュが確定しているのだから、今だけは寝かせて。マジで・・・


「雅ぁー、振り落とされるなよー!」
「あぁーい」

ぐっとスピードがあがる。気を抜くとコロンと落ちてしまいそうだが、
もう慣れたものだ。自転車の荷物置きをぐっと握って、後輪に取り付けたステップに力をいれる。
そのまま鋼の背中に自分の身体をぎゅっと押し付ければ、もう落ちない。
後はトロンとまどろみの中に落ちていても、駅まで精々五分。それぐらいなんとかなる。
いや、今の高校に通い始めてから、ずっと鋼とこうやって登校しているけど、
三回ほど落ちたんだ。もう学習した。落ちない。落ちない。

「うぉ!」

急に鋼は急ブレーキをかけて、自転車のハンドルをぎゅっと右にきった。
後輪はドリフトよろしくぎゅぅー!っと前に押し出される。するととーぜん、

「ッッ!」

あたしの身体は投げ飛ばされた。あーアスファルト冷たいなぁ・・・
ってか痛い・・・

「大丈夫かぁ?」
「・・・・殺す気かぁぁぁぁ!!!」
「んなわけあるか。子供が飛び出してきたんだよ」

そういって鋼が指差す先には、元気よく走り去っていくランドセルが複数見えた。

「くそっがき・・・」
「俺らも十分くそガキだ。ほれ早くのれ」

そう行って鋼が手をさしのばした。
あたしが手を出すと、鋼はぎゅっとあたしの手首を掴んで引揚げようとする。

「痛っ!」

自然に声が出た。痛かったのは左の足首。

「わりぃ、強く握りすぎた」
「そ、そうじゃなくて・・・」

あたしの視線の先にすぐ気付いた鋼は、ため息交じりで言う。


「足首ひねったのか・・・ベッタベタだな。ベッタベタ」
「煩い!ベタとか言うな!」
「間に合わなくなるのも面倒だし、ほれ、早く乗れ」
「鋼は本当に外道ですね」
「見捨てて先に行かないだけ感謝しろ。今度は前向きにのれ。もう落ちるなよ」

あたしが言われた通り前向きに座ると、鋼はあたしの両腕をつかんで自分の腰に回した。

「次落ちたら確実に遅刻だ」
「あんた、あたしの身体と遅刻・・・どっちが大事なの?」
「遅刻。お前もだろ?三学期は出席日数すくねーのに、俺らもう12回も遅刻。後二回で停学だろ?」
「そうでした、すいません急いで下さい」
「んー・・・」


鋼はまた偉い勢いで走り出した。
でも、心なしかいつもよりゆっくりな気がする。
あたしに遠慮しているのだろうか。こういう所は男前だよな・・・
そう思うと、別に他意はない。ほんと無い。無いんだけど・・・
ぎゅーっと抱きしめたくなる。丁度、腰に手も回っている事だし。
人間あるでしょ?こういう瞬間。別になんだ、好きとか嫌いとかじゃなくて、
あるでしょーよー、なんとなく、人恋しくて、ぎゅーってしたいされたいってさ。
へ、変態じゃないぞ!鋼を好きとかでもないぞ!ただ、小さな優しさが嬉しかった。

「雅?」
「んー?」

あたしはぎゅーっと自分の頬と胸を鋼の背中に押し付けてる。
それが恥ずかしいのかな?って思った。えへへ・・・

「当たってる」

おぉー、変態な鋼太さんもあたしにこうされると照れるようですよ。
へっへっへ。なら追い打ちをかけてあげましょう。

「当ててんのよ!」

どうだ!この台詞でぐらっとこない男はいないはず!ネットの知識だけど!
いや、鋼をぐらっとさせてもしょうがないんだけどさ。

「いてーよ。上着のボタン押し付けるな」

かちーん・・・

「ど ゆ こ と か な ?」

「だから、上着の飾りボタンを背中に押し付けんな。無駄にいてぇー!」

かちーんかちーん・・・

「天下の女子高生様ののお胸を押し付けられるのはお嫌でございましょうか?」
「三次元の女子高生に興味はねー!!!」
「なっ・・・・!」

あー、そうだったそうだった。こういう奴だったこいつは。
きもーいきもーい。オタクきもーい

「そうだよね。鋼はあたしの胸なんかにときめくような奴じゃないんだよね」
「お前がもし二次元の世界の人間なら、そのつるぺったんな胸はときめくぞ?」
「だから、ど ゆ こ と か な ?」

かちーん!かっちーん!ぷっちーん!

「だから、つるぺったんにはときめくって!リアルだとまぁ・・・可愛そうだよな」
「こ・・・・のぉ!!!」

むぎゅーーー!!!っと、これでもかと両腕で締め付けてやった。
上着のボタンを意識して押し付けてやる。むぎゅーむぎゅー!

「いてぇ!無駄にいてぇ!天下の女子高生さまよぉー!
 今、俺、チャリンコ運転してんだからベアハッグは勘弁してください!!」
「あーやーまーれー!」
「なっ?!なにに謝るんだよ!俺は本当の・・・いたたたたた!!!」

すると、丁度曲がり角のせいか、チャリンコのバランスがぐらっと崩れた。

「うわっ!」

変な感じに力を入れていたせいか、あたしの身体はバランスを崩す。
遠心力でもう一回コロリと落とされそうになった。あたしはとっさに鋼の身体から手を離し・・・


「だからっ!!」

自分の身を庇おうと手を離そうとしたのだが、鋼は片手であたしの両腕をぐっと押さえつけた。

「しっかりつかまってろ!!!!」

「・・・・う、うん・・・」

ぎゅっと握ってくれる鋼の手は、暖かかった。
しばらくぽーっとして何も考えられなかった。
別に鋼がどうこう。とか、もうすぐ春ですねぇ〜とか、
そういう事ではなにのだ。うん、ただ寝ぼけてる。それだけだ。

「雅ぁ?」
「うにゅ?」
「止めて来る」
「ほぃ!」

毎日のパターンだ。これから雅がラストスパートをして、駐輪場に自転車を突っ込んでくる。
駐輪場内で二人乗りもなかろうと、あたしはいつも入り口で自転車から飛び降りるのだが、
あれだ、慣れ?と、言うか毎日の惰性な行動?コワイヨネェー。ウン、コワイ。
トンッと、まるでそれが当然の事のようにあたしは自転車から飛び降りた。
もうね、スローモーション。勢い良く走り抜ける鋼の背中を見送りながら、
着地の姿勢を正そうと努力する虚空に舞うあたし。
そこで、気付くわけよ。 やっべー、さっき足くじいてた・・・  
まぁ、実際そう思ったって言うよりはそう思った瞬間には着地の際に足首から、
ぴきんっ!と一閃!身体中を駆け巡る衝撃がぁぁ!いてぇ!!いてぇぇぇ!!!
大声で叫びてぇ!けど、我慢!ここはがんばれ女の子!
駅前でいい歳こいて痛みで泣きじゃくる女子高生がいてなるものか!
そんな萌え最前線に送り込まれるような軟弱な女子高生じゃないのだよ、この雅夜ちゃんは!
うん、無理!

「いっ!たっっ!!!

何処に逝ったの?ぐらい大きな声をあげちゃった。うん、痛い。もう無理。歩けない。
折れた。折れたよ。あたしの中の色々な魂が・・・と、言うかプシューと音立てて消えた・・・
あぁ、鋼・・・あいつ気付いていないのか・・・んなわけない!
無視してチャリンコ止めにいきやがった!

「鋼ぉ・・・いたいよぉ・・・」

普通ならこんなか弱いおんにゃのこを駐輪場の入り口に放置して言った鋼に、
怨み辛みの篭った罵声をあげたいんだけど、痛みが率先しちゃって色々な感情がごっちゃになって、
さきに不安と悲しみが先行しちゃったからさぁ大変。
そりゃね、今まで色々なトラブルに巻き込まれてきたから、色んな怪我をして、
それこそ死に掛けでベットの上直行なんて事も、人生に二度ばかり経験あるし、
死ぬほど痛いってわけじゃないんだけど、朝の寝ぼけた頭もあいまってか、
涙がポロポロ流れてきちゃったんだ。不安で不安でしょうがなくて、
この世界にあたし一人しかいないんじゃないか。とか考えて、もう心が一気にチキンハートな感じの
ションボリ通り越して涙が零れる感じになっちゃって、あぁもうあたしなに言ってるんだろ・・・

「あふぉ」

鋼の声が頭の上からした。気付いたらあたしってばうずくまって居たみたい。
駅前の駐輪場でなんて恥ずかしい・・

「大丈夫だろ?」

ツキンって擬音が脳内に響いた。ってか心臓にざっくりと差し込まれた。
なんていうの?カチンとズキンの合いの子みたいな感情?
イラってくるのと同時に、寂しさがこみ上げてきちゃって、ポロポロ流れ出した涙がさらに本格的に・・・

ってぇー!!!


「しっかりつかまってろ。後一分三十秒で電車が来る」

鋼はおもむろにあたしを抱えあげた。お姫様抱っこで。
ちょ、ちょ、ちょっとまて幼馴染一号。この抱え方は確かに乙女の夢!
だけどさ、朝っぱらから周りに通勤通学の人たちがわんさかといる駅前で、
この体勢でダッシュって・・・あぁ、鋼ってば本当に厚顔無恥と言うか、
自分の事しか考えてないっていうか・・・って思っても口に出せない。
あまりにもあまりの展開にどうにもこうにも言葉を出せないから、
鯉みたいにパクパクと口を動かして鋼の顔を見るしかない間抜けなあたし。

「ん?すまん、痛かったか?」

と、男前スマイルだなぁー!鋼太ぁぁぁ!!!
お前、二次元オタクいますぐやめろ!ここまで気が使えて、
社交性もある、男女隔たりなく会話も出来る、
運動センス抜群で、勉強も出来て、その上、そこそこの男前の癖に、
なんでお前は二次元にしか興味を示さん?!!
そこらの女子中学生からOL、それに男スキーな男性な方たちから
ほっておかれんぞお前みたいな良い男!

と、いまいち自分でも意味のわからない主張から発展した一昔前なら薔薇。
今で言う所の腐海の中の住人たちの正当なる系譜を踏む純粋なる妄想を、
ゴーッと脳内で書き並べた所で、鋼が改札を通り抜けた。
ご丁寧に駅員さんにあたしと自分の定期を見せてからホームに走りこむ。

「おし、間に合った・・・下ろすか?」

あー、お前の正体が二次元ヲタだと知らなかったら惚れてるよ。そのスマイル。
と、胸がドッキンドキンとしている今のあたしに言葉なんて喋れない。
取りあえず、小さくコクンと頷くのが精一杯。

「ほれ・・・」

鋼は優しくあたしを下ろしてくれた。
一人で立てない事もないけど、ただ・・・ちょっと・・・
まぁいいじゃん。幼馴染の特権。あたしは鋼の服の裾をちょんと摘んだ。
倒れないように・・・・って言い訳。

えへへ・・・




あたしたちの学校までの路線は、朝でもそれほど混まない。
十分余裕がある。まぁ、反対側の路線は鬼ラッシュなんだけど、
あっちの路線に乗ったら死ねる。確実に。

すぐに、プラットホームに電車が滑り込んできた。
扉があくと、ゆっくりとして、それでいて後ろにいるあたしを気遣う素振りで、
先に鋼が電車にのった。入り口で扉を押さえ、
手で扉がしまらないように押さえていてくれる。
あー、この行動はヲタな人々がやるとキモイんだけど、
面の良い奴がやると、それなりに様になるなぁ・・・と、思った。
鋼には言わない。墓まで持っていく内緒の話だ。


電車は7分で駅につく。到着は八時十五分。今日も定刻どーり!
25分からのホームルームが始まるんだけど、駅から学校まで歩いて15分。
あたしと鋼は当然こっから走る。

でも・・・

「そんなひょこひょこ歩きで、間に合うと思うか?」

「思いません・・・」

「どうする?」

「えと、置いて行って下さい。鋼だけでも先に・・・」

「あふぉ。お前あふぉ。2、3度死ね。死んでしまえ」

と、言いつつ、あたしの前で屈む鋼。

「え?・・・ちょ、鋼・・・やだよ。恥ずかしい」

「しょーねぇだろ。雅は軽いから担いで走ったって遅くなることねーよ。
 その代わりカバンはもってくれよな。後、制服のボタンを押し付けるな」

・・・あー、なんだろこの王道。
今朝からフラグがぽんぽん立つんですけど?
しかも、これ全部無意識でやってるんだよなーこの男・・・

「早くしろ!」

「う、うん!」

あたしは鋼の勢いに乗せられて、鋼の背中に飛び乗った。

「しっかりつかまってろよぉ・・・」

次の瞬間には鋼は走り出した。あたしは鋼と自分のカバンをしっかり抱え、
鋼に身体を預けるしかなかった。



あー、なんかもう鋼と付き合ってもいいかなぁ・・・
鋼が、あたしの事を好きだって言ってくれるなら・・・とか、ちょっと馬鹿な妄想に
身を委ねようとした時だった。

不意に携帯電話が鳴る。まぁ携帯が鳴る瞬間が、不意ではなく前兆があったら怖いが。
あたしはワタワタとしながらも、カバンを抱えたまま、器用に電話に出た。

『どこにいるのよ!!』

電話の相手は、瀬戸先生だった。あれ?なんであたしの番号知ってるんだ?

「あれ?先生どうしたんですか?出張じゃぁ・・・」

『昨日の騒ぎで呼び戻されたの!警察の人たちが今日中に貴方たち四人を事情聴取するって聞かないのよ。
 あたしたちも状況をきちんと把握してないし、早く学校に来なさい!』

「とは、申されましても・・・HRまでにはなんとか・・・」

『南雲先生が貴方たちを探して車で出たわ!それならすぐつくでしょ!』

「はぁ・・・」

と、気の無い返事をした所で鋼が足をとめた。と、同時に電話も切れる。

「どしたの鋼?」

「迎えみたいだ」

鋼の視線の先には、ニヤニヤ顔のスーツ姿の男が車の中から手を振っていた。
南雲先生だ。あたしたちを迎えにきたらしい。

「やー、これはこれは見事なバカップル。
 朝からお盛んで・・・しかし、うちの学校は不純異性交遊禁止ですよー」

相変わらずのC調なノリだなこの人は・・・

「バカは確かに認める。だがカップルは断じて拒否する!!!」

そこを力説するなよ鋼・・・ちょっと寂しくなっちゃうじゃないか・・・

「いいから乗って下さい。車で登校ですよ。きっと気持ちいいと思いますが?」

「同級生に見られたら零コンマ零秒で気まずくなるわ・・・でも、乗る」

あたしたちは遅刻も掛かっていたわけだし、特に拒否する事も無く車に乗った。
背に腹は変えられないしね。ってか、車に乗せるまで優しくエスコートか鋼よ。
お前ホストなれ。うん。ホスト。天然でその行動力はすげーよ。
車はぷいーんと学校まで一直線。結局八時十五分すぎには学校についていた。
車は裏門の方へと回された。先生なりに気を使っているのかしらんが、
裏門から入っていくようなやましい事は何一つしていない!ぷんぷん!

「先に生活指導室に行ってください。担任の先生には伝えて置きましたから、
 HRには出なくてかまいません」

そういうと、南雲先生は車を止めに教員用駐車場の方へと車を走らせていった。
あたしたちはお互い顔を見合わせて、取りあえず同時にため息をついた。

「ねぇ、鋼。ちょっとお願い」
「4択だ」
「よしきた」
「1.カバンを持つ。2.肩を貸す。3.おんぶ。4.お姫様だっこ」
「・・・・1でお願いします」
「懸命だ」

あたしのカバンをひょいと持ち上げると、鋼はさっさと行ってしまう。
そうよね、学校についたら流石にね・・・

と、あたしは足をひょこひょこさせながら鋼の後を追った。

すると、10歩ぐらい先で鋼が黙って突っ立っている。
あれ?待っててくれるのかな?と、思いながら、やっとの思いでこうの側までよると、
また、鋼はすたすたと先に言ってしまう。そんな事を何度か繰り返した。
お前は蜃気楼か!と、突っ込みたくなった。それと、ツンデレチックな
鋼の優しさも、やっぱ嬉しかった。

ひょこひょこと歩いていたけど、実際には下駄箱まで三分程度だった。
裏門の方があたしたち一年生の下駄箱には近い。
途中で登校時間のかぶったクラスメイトたちは、HRに間に合わせようと駆け足だったが、
あたしを見るとすぐに察して避けて走ってくれた。ありがたい。

靴を履き替えるときに、あまりにも足が痛くて下駄箱でしゃがみ込んだ。
靴を脱いでみると、明らかに左足が熱をもっているのがわかった。
心なしか腫れているみたい。取りあえず擦ってみたが、それで直るわけも無いので、
諦めて上履きを履いた。履いたと言うか、両手で思いっきり押し込んだ。うん、痛い。

「あと、少しまて・・・」

あたしが上履きと格闘している間、鋼はずっと隣りにいてくれた。
あたしが立ちあがろうとしたのを見て、鋼は口を開いたのだ。あたりをキョロキョロ見渡している。

「どしたん?」

「もう、どのクラスもHRが始まる頃だなぁ・・・と」

「それで?」

「あぁ、だから。もういないかな。って」

「ん?なにが?」

「登校してくる生徒?」

「なんで疑問系なんだよっ」

素っ頓狂な事をいった鋼の顔に思わず噴出した。
次の瞬間、鋼が自分のカバンとあたしのカバンをほおり投げてきた。

「ちょっ!ぶはっ!・・・・」カバンはもろにあたしの顔を直撃!「きゃっ・・・!!」

次の瞬間、あたしの身体は宙に浮いていた。

「ちょっ!鋼!!」
「だまってろ!はずかしい!」

鋼も恥ずかしいんじゃないか!いや、違うから、そこ突っ込む所じゃない。
なぜにお前はあたしをお姫様だっこで抱えて、生活指導室まで走り出している!

「とろとろ歩いてら、埒があかん・・・」

走りながら鋼はそう呟いた

「あっ・・・ごめん」本当に素直な気持ちで、あたしはそう呟いた。

「いや、俺こそすまん。もうちょっと気を使ってやれれば、お前を落とすこともなかった」

すっごく照れくさそうな顔して、鋼は呟いた。ちょ、鋼、お前イケメンの癖にかわいーなぁーもう!


鋼は一直線に廊下の一番端にある生活指導室まで走り抜けた。
職員室からも教室からも遠い生活指導室から、話し声が聞こえる。
きっと、愛や鉄だろう。あいつらも呼ばれているに違いない。
もうここでいいよ。下ろして。と、鋼に伝えようと思った瞬間だった。

「おはようございます!」

「ちょっ!!!!」

鋼はあたしを抱き上げたまま、足で生活指導室の扉をあけやがった。
鉄が目を丸くしている。愛が目を丸くしている。瀬戸先生が目を丸くしている。

時は止まった。

鋼は当たり前のようにスタスタと教室の中に入っていき、
足で椅子を引いて、あたしを椅子にちょこんと座らせた。
次にあたしが抱えていた鋼のカバンを持ち上げ、あたしの隣りの椅子を、
あたしに近づけてから座った。

そして、あたしの左足首の上履きを外し、靴下を脱がせる。

「イツッ!」

「すまん・・・ん、これならシップ張ってればば大丈夫だろ。折れちゃいない」

と、あたしの足をゆっくりと優しく撫でてくれた。

うん・・・そして時は動き出す。


「・・・・・・ッッッッッ!!!」

鉄はあたしたちを指差して、声にならない息を吐いて豪快に笑った。

「ぃぃぃぃぃぃぃいいいいにゃぁぁぁぁ!!!!」

愛は野生のメスライオンの雄叫びかと思うぐらい甲高い悲鳴をあげる。

「なに?君たち付き合い始めたの?構わないけど程ほどにしてよね。
 間違っても先生たちに迷惑かけないでよ?」

瀬戸先生は、無表情で棒読みの台詞を吐いた。

あたしは必死の弁明を始める。そう、弁明をミスれば正に死だ。


「まてまてまてまて、違う違う違う。ちょっと行きがけに、
 二人乗りの自転車の子供がわーってランドセルがたくさん見えて、
 きゅーってばーんって、ドリフトの要領で、わぁーって空を待った美少女は、
 不運にもアスファルトとキッスを交わした拍子に左足首を捻挫しちゃって、
 下駄箱からここまでのロードを看破しようにも、千鳥足で前に進まないのを
 鋼がイライラ始めてめんどくさいからあたしかかえて明日に向かってダァァァァッシュ!」

相当な早口で状況説明したのだが、ちょーしくじった。
なにいってるだあたし。自重しろあたし。落ち着けあたし。

「あはははは、通学路の途中では神薙が阿部をおんぶしてたよ」

と、いつのまにやら部屋に入ってきた南雲先生が笑いながら油を注いできた。愛に引火。

「いにゃぁー!いにゃぁ!!!裏切ったぁ!まーちゃんが裏切ったぁ!」

ってか、意味わからない。そして泣き出す。

手はテーブルをバンバン笑いながら引き笑い。息をするのも苦しそう。

瀬戸先生は、おぼつかない足取りで立ち上がり、深いため息をついて教室の隅の戸棚をゴソゴソ。
なにやら小さな小箱を持ってきてあたしの前に置く

「はい・・・、でも若いからってやりすぎちゃだめよ?
 避妊はちゃんとする。先生との約束ね!」

ちょ、せとてんてぇー!飛躍しすぎ!なにこの避妊具1ダース。
ってか、そのなにもかも諦めたって言う顔は何?
その若いって罪よねってため息はなに?!


「いや、違う。だから違う。別に付き合ってもないし!」

「そうだ。確かに雅の事は好きだが、別に付き合ってはいない」


鋼ぉぉぉぉぉぉおぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉっぉ!!!

空気よめてめぇぇぇ!!!


「しぬぅー!もう死ぬのぉー!死なせてぇぇぇ!!!」

愛が何処からともなく竹刀を持ち出してブンブン振るい始めた。
鉄は椅子から転げ落ちてゲラゲラ笑っている。おまえはなにがそんなに面白いんだ。
おまえあれか?箸が転がっても笑っちゃうお年頃かぁ?!
瀬戸先生!虚ろな目でぶつぶつと小言を言い始めないで下さい!
南雲ぉぉ!お前なに笑ってるんだぁぁ!!!

「あははははははっ、でも、恋愛感情じゃないんだろ、神薙?」

目に涙をためながら笑う南雲先生がそう切り出すと、
親指を先生の方にぐっと突き出して鋼が言う。

「心の底からYES!!三次元に興味はありません!」

あー、ちょっと傷ついた。でも、ちょっと安心した。

「本当?」

愛が泣きやんで、涙で顔をくしゃくしゃにしながら、上目使いを巧みに駆使して、
鋼を見上げつつそう呟くように言った、鋼は0.6秒の早業で即答切替し。

「あぁ本当だ。だが、男にはもっと興味が無い」

「ふえぇぇぇぇぇ〜」

愛はまた泣き出した。もういい。もういいわ・・・好きにして。
鉄はまだ転げまわって笑っているし。

「だいたい、俺は雅と同じぐらい鉄も愛慈郎も好きだぞ?」

「ですよねー!」

瞬間復活の愛。お前は・・・お前って奴は・・・


「じゃぁ、朝のコントは終わりにしましょうか。HR中には話を片付けたいですしね。
 ほら、瀬戸先生もお気をしっかり。いいじゃないですか、華の30代独身女性。
 いま巷で結構人気なんでっげっはぁぁぁぁ」

南雲先生が余計な一言をのたまって瀬戸先生にぐーで殴られた。

「岩岳!椅子にちゃんと座りなさい!月読!鋼に近づくな!座われ!」

唐突に、部屋の空気がぴしっと擬音があったかのように緊張に包まれる。
鉄は笑いを必死でこらえ席につき、それに習うように愛も姿勢を正した。
鋼はあたしから席を少し離し、姿勢を正すでもなく腕を組み俯いた。
あたしも、椅子にかけてた足を下ろしてきちんと座りなおす。
せとてんてー時折こわいの。

「昨日の事、きちんと説明してもらいます。
 鋼から昨日メールで貰った報告書の再度確認です。」

お、南雲先生が復活した。
机の上にまとめてあった数枚の用紙を取り上げて読み上げる。

「事件は、本校生徒殺人事件。警察関係者は自殺の件で調査中と思われる。
 被害者は三年A組の安田美津江。殺害場所は三年F組教室内だと推測。
 残留霊気等の霊視の結果、ほぼ確定だが、
 3年F組には他の生徒がいなかった為、証言はなし。
 犯人は、怨霊。神薙からの戦闘状況の報告から三級程度だと推測される。
 本校登録の幽霊妖怪組合の照合霊気とは不一致の為、最近生まれた怨霊か、
 他から流れてきた怨霊と思われる。ただし、学校を神聖視していた発言などから、
 本校で生まれた可能性は高い。
 事件発生は放課後、三時五十分前後。教室内で殺害後、または殺害から捕食途中に、
 なんらかの原因で窓から転落。丁度そこに園田高校一年の、神薙、阿部、岩岳、月読が通りかかる。
 第一発見者は前述の四人。校内に生徒は多数残っていたが、事件後30分以内に全て帰宅。
 前述四人は、その後、”組織”活動規定に乗っ取り、怨霊を3年F組教室前で退魔実行。
 退魔方法は、物理攻撃を含む格闘後、阿部の退魔術で四散させた。
 その後、広域霊視にて校内に怨霊のかけらが無い事を確認してから
 事後処理と霊的残物を結界で浄化してから四人は帰宅。以上」
 
南雲先生は用紙に書かれている事を淡々と読み上げた。
あぁ、大人の男の真面目な顔って素敵・・・それで瀬戸先生に殴られた後が無きゃ惚れてるよ。
ってか、読みながら頬をさすんな。色々幻滅するから。
そう想いつつ、あたしは痛んだ足をさすっていた。さすさす。痛い。やっぱ痛い。えーん。

「この内容に間違いは無いわね?」

瀬戸先生の言葉に全員が頷いた。
先生はあたしたち全員の顔を見渡してから、ゆっくりとため息を吐いた。

「取りあえずお疲れ様。退魔方法にミスは無いわ。後処理まで良く気がまわった。
 一年生で、戦闘回数が100回に満たない貴方たちにしては、上出来よ」

「当たり前でしょうが、俺たちはこれでもエリート一族の末裔ですよ?」

と、鉄が余計な事言うから、瀬戸先生は怒っちゃうんだよ。バカ。
とか想いつつ、あたしは自分の左足首を擦る。あー、熱持ってきちゃってる。冷やしたほうがいいかな?

「しかし!この場合の対応としては不十分!
 まず、電話連絡で組織顧問の私か南雲先生に連絡!
 それから、三年生は修学旅行でしょうがないとしても、二年生はさぼってるだけなんだから、
 緊急収集しなさい!三級程度の弱い怨霊だからよかったものの、
 一級の敵だったらあんたち四人じゃどうしようもなかったじゃない!
 それと、後で確認したけど後処理はやったけど、その方法がダメ!ぜんっぜんダメ!
 現場を動いた机とか椅子、割れた窓なんかは元通りにするのは人力でいいんだけど、
 残留霊気を消すのに方術で一気にやるな!
 細かいカスが残ってて、今朝登校してきた日直の先生が気分悪くして保健室で寝てるぞ!
 まぁ、それは落下現場を封鎖してなかった警察にも非があるけど!だけど、
 二年生が今朝7時半の段階で現場検証したら、 残ったカスを別の妖魔が食ってたって報告あがってる!
 広域霊視やるまえに局部霊視できちんと確認しろ!
 妖魔は別の妖怪怨霊の霊妖気食ってすぐ強くなるんだよ!二年生三人は朝から退魔やらされて、
 いま職員室でぐったりしてるわ!後で謝っとけ!」

と、まぁ瀬戸先生ったら大人の魅力ある顔を、すんごい形相に変えまして
あたしらに一喝。一喝ってか説教だ。うん、説教。こわい。
でも、あたしは左足首をさするのをやめない。だって痛いんだもん。さすさす。

「すいませんでしたぁ!」すくっと立ち上がって鋼が言う。
「ごめんなさい」と、泣き顔の愛。
「次からはちゃんとやります」と、俯いている鉄。
「はぁい」と、もうなんかどうとでもしてって感じのあたし。

「反省した?」

急に猫撫で声になる瀬戸先生。

「ほんと、色々細かい事に気をつけてね。先生は決して貴方たちが嫌いでこんなこというんじゃないの。
 もしもの時に、貴方たちになにあったら・・・先生は・・・先生・・は・・・」

「怪我ならともかく死んだら私たち職を失いますからねぇー、あはははははははっ」

南雲先生が瀬戸先生に殴られているので暫くお待ち下さい。

あたしは左足首を擦るのを辞めない。さすさす。






結局、HR中に話は終わらなかった。
HR終了の鐘が鳴り終わった後、あたしたちはまだ生活指導室にいた。
二年の先輩たち三人も合流ウして、昨日の報告と謝罪をあたしたちからして、
二年生の先輩たちが現状の説明をしてくれた。
二年生は厳つい大男とお気楽で、釣り目がきゅーとなボインちゃんと、
根暗でぼそぼそ喋る正直なに考えてるか良く分からない文学少女風の三人だ。
あと、怖そうなヤンキー先輩がいるんだけど、今居ないって事はばっくれてるんだと思う。
二年にあがったときに同級生とかだったらやだなぁ、ってちょっと思った。
三人の先輩たちは、現状の3年F組の調査結果を話した後、あたしたちの後処理の仕方について、
簡単に注意点とコツを教えてくれた。勉強になるなぁ・・・


ちなみに、その間に一時間目の授業は開始されていない。
ここにいる七人とサボっている一人、それに学校休んでいる人たちに、
修学旅行にいってる三年生を除いた全校生徒が、体育館に集まって校長先生から
昨日の件についての説明を受けている。南雲先生が簡単に説明してくれたが、
校長先生からの話の内容は、事故か自殺かわからないけど昨日一人の生徒が
校舎から転落して亡くなりました。マスコミ等はきてますが、不容易な事は言わないように。
本日は休校とし、明日からの予定は連絡網で回すので、自宅待機してください。
最後にイジメなどは無かったと皆さんを信じています。以上だ。最後のは嘘だよなぁ・・・
大小はあれど、いじめの無い学校なんてねーよ。うん。無い。残念だけど。


「じゃぁ、これからの組織としての行動を説明するわ」

瀬戸先生が話しの区切りを見つけて立ち上がりながら口を開いた。
南雲先生は部屋のカーテンを閉めている。そういえば外がガヤガヤしてきた。
校長先生のスピーチが終わって生徒たちが下校しだしたんだろ。

「まず、二年生は・・・」

「ちょいまち」

瀬戸先生の言葉を遮ったのは鉄。

「どーも、わからない事があると納得するまで知りたくなる性分なんで、
 先輩方差し置いて発言することは許してください」

鉄にしては妙は妙だが敬語で喋りだした。
そしてあたしは足を擦る。さすさす。

「これは、昨日鋼や愛と話あったんことなんですけどね・・・」

ちょ、まて、初耳。あたし初耳。

「え?あたしは?」思ったことがつい口に出てしまった。

「雅は、家帰ってから報告書作りを俺らにまかせて、自分の部屋で
 ジャンプ読みながら、ふがし食ってゲラゲラ笑ってただろうが」

そうでした。すいません・・・さすさす。うん、足を擦るのはそれでもやめない。

「で、その時の素朴な・・・いや、重大な疑問です」

そこで鋼が割って入った。そうだね。鉄が喋るよりかは鋼が喋った方がいいような気がする。
いや、鉄をバカにしているとか、そういうのはないんだけど、ほら、なんとなく、
こういうのはあたしたちの中でもリーダー格の鋼が喋るのがいいような気がする。うん、なんとなくだけど。


「まず、殺されたのは、”三年F組”の生徒。おかしくないですか?
 三年生は全員、”修学旅行”だったんだじゃないんですか?」

うは、言われて初めて気付いた。確かに。確かにそう。
なんで気付かなかったんだろあたし。あたしばか。ばかすぎ。
とか想いつつ、あたしは足を懸命に擦った。
回答は南雲先生から出た。

「色々な理由で修学旅行にいけない子もいるんだ。
 積立金云々や不登校、イジメも含む人間関係などなど」

鋼は引かない。それどころか腕を組んでふんぞり返るように言う。

「だから、余計に俺たちは疑問です。
 殺された安田先輩は、愛慈郎の話では、友達も多く、交友関係も広かった。
 ちょいと遊びすぎで、まれに怨まれる事はあっても、
 修学旅行にいけない。なんて人間関係で悩んでるわけ無いでしょう?
 それに、小物や服のセンスが良い。って情報もあります。
 つまり、バイトなり小遣いなりをやりくるするぐらいは、経済的に余裕があるってことでしょう?
 積立金云々とかじゃ誤魔化されない。だいたい、うちの学校は
 修学旅行は、卒業旅行をかねていて、単位等とは関係無いと聞いています。
 つまり、”修学旅行中に学校にはこなくてもいい”と解釈ができるし、
 出席日数が困る程不登校でも、単位がたりなぐらい成績下位でもないのだから、
 なぜ、安田先輩があの日の放課後にあの場所にいたのか?それが知りたい。
 それに、瀬戸先生がこれから言う事もだいたいわかってる。
 俺たちが行った退魔方法は、物理的に追い詰めてからの退魔方術での対象の四散。
 俺たちは一応、広域遠視で四散した怨霊の後を追って、もう活動していない事を確認。
 でも、確かに不手際もあった。それをついて、俺たち四人で校外で復活してないかの調査。
 それをいまから俺たちに言う。違います?」

瀬戸先生は、小さな声でクスクスと笑う。

「あまりに一片に言われても私たちも返答に困るわ。
 取りあえず、私がこれから貴方たち四人に言おうとしたことは確かに正解。
 これから四人で校外半径2キロを徹底的に調査し・・・」

「断る!」

瀬戸先生の言葉を遮ったのは以外にも愛だった。

「僕たち四人しかいなかったとはいえ、怨霊は発生し、
 先輩が・・・生徒が一人死んだ。
 僕たちそれを”しょうがなかった”と、忘れていっていいのかな?かな?
 そうは思えない。二年生がいなかった、三年生がいなかった、先生たちがいなかった。
 なら、あの時の責任者は、僕たち四人だ。僕たちがもっとしっかりしてれば、
 怨霊の早期発見は可能だったかもしれない。もちろん確証はない。
 僕たちが未熟だったと言われれば、それまで。でも、事は起こり、僕らは関わった。
 だから、”仇”を討ちたい」

愛の声は静かで、いつもの女子高生ちっくな甲高い声ではなかった。
ただ俯き、ただ静かに、自分の意見を述べた。そう感じた。

「仇なら、貴方たちが倒したじゃない」

瀬戸先生がそう言った瞬間、鋼がテーブルを叩いた。
それは小さな音。ぱんっ、と軽く叩いた程度。

「確かに俺たちは先生方からみればくそがきと呼ばれるぐらいの存在でしょう。
 ですが、舐めないで貰いたい。
 二年の先輩方、三年の先輩方、そして先生たちに、もちろん敵わない。
 でも、霊力学徒連盟関東地域学舎専門退魔組織、通称”組織”に所属している。
 つまりは、未熟ながらも資格はあるはず。 学舎で起こった霊障に、正当に関わる資格が!
 猿芝居はけっこう。言いくるめられたりしません。俺たちが辿りついた結論も語りましょうか?!」

最後の一言は、とても気合の入った一言だった。
二年の先輩たちはため息をつき、瀬戸先生は押し黙って鋼を見つめている。
ただ、南雲先生はケタケタと笑っていた。

「あははは・・・そうですねぇ・・・神薙の言う通りです。
 遅かれ早かれ彼らには伝えるつもりでしたし・・・いいじゃないですか瀬戸先生。
 彼らを騙すようなマネをしてまで危険から遠ざけるより、
 本当の事をきちんと理解してもらい、そして彼らの意思で組織としての行動を取ってもらえば・・・」

南雲先生は、目にかかるぐらいの前髪を人差し指でたくしあげた。
次の瞬間、あたしと愛と鋼と鉄は言いようの無い衝撃に包まれた。
それは、強い悪魔に出会った時に感じる明確な敵意。そして強烈な殺意に他ならなかった。
いつもニコニコ笑っているだけの南雲先生。この一年間はそんな印象しかなかった。
でも、今は怖い。とても怖い。南雲の先生はあたしたち四人へ瞳を向けている。
恐ろしく冷たく、恐ろしく静かで、恐ろしく殺意の篭った目で。

「彼らにきちんと理解して頂き、死地に赴いてもらいましょう。
 私たちにそこまでの言葉を吐いたのですから、死ぬ覚悟など遠の昔に出来ているのでしょう?」

正直、あたしはかちんときた。
あたしは確かに昨日の鋼たちの話し合いに参加していない。
状況は目まぐるしく追加される新事実でごっちゃになって、ぶっちゃけあたしのチャームポイントでもある
おバカなオツムでは、状況の把握なんて無理無理。うん、無理。だけど!
愛は明確に怒っている。鉄は静かに怒っている。鋼は本気で怒っている。
なら、あたしの結論は一つだ。世界中の誰よりも一番信頼するこいつらが怒っている。
なら、あたしも怒るべきだ。理由?そんの後から考える、こいつらが怒っているのなら、あたしも怒るべきだ!



そろそろ、はっきりさせよう。



ラブロマンス的な毎日に憧れるさ。
いつかは出来るであろう未来の王子様に夢を馳せるさ。
目立たなくてもいい、普通の女子高生でいい。のんべんだらりと暮らしたいさ。
でも!


あたしたちは、若輩ながら退魔師と呼ばれる人間だ。
中学生の想像程度で説明が出来てしまうようなファンタジーな存在だ。
先祖代々の能力と技を物心つく前から叩き込まれ、一般人には無い身体能力と特殊な能力を備えている。
自分を犠牲にしてでも誰かを守り続けてきたご先祖様、一族の皆様全ての想いを、この身に背負っているんだ。


それは!


あたしたちで、困っている人を助けてあげられるかもしれないって事だ。可能性を背負っているって事だ。

なら、ならさぁ、そう、ならさぁ!!!


「能力大小はあるだろう。性能どうこうも経験どうこうもあるだろう。
 だが、想いは同じはず。神・魔・妖・霊・人の平等たる平穏を望む者たちの人間代表だ。
 人の身になにかあればあたしたちが全力で助ける。それが出来なくても・・・・やらなきゃならない!
 仲間はずれはいやだ!本当の事を全部言ってください!」


あたしは体中にまとわりつく、今にも息切れしそうになるぐらいの南雲先生の殺気を振り払い、
腹のそこから声を張り上げた。


「至極当然の事!あたしたちを仲間はずれにはしないで欲しい!
 命どうこうで脅さないで欲しい!能力経験云々で判断しないで欲しい!
 あたしたちだって、退魔師だ!!!」


次の瞬間、南雲先生の殺気はふっと消えた。
二年の先輩たちは、厳つい先輩とボイン先輩が笑いを必死でこらえている。むかっ!
根暗先輩はいつのまにか文庫本を取り出して読んでいる。むかむかっ!
南雲先生は、いつものニヤニヤ顔に戻っていた。むかむかむかっ!
あたしたち四人は、いまでも飛びかかれるほど臨戦態勢だっていうのに!

部屋の静寂は、そのままわたしたちの緊張だった。
その緊張を切ったのは、瀬戸先生のため息だった。
深いため息の後、瀬戸先生はにこやかな顔で口を開いた。


「取りあえず”おめでとう”と言うわ・・・ね?南雲先生・・・」

「でしょうねぇ・・・まー、行き成り本当の事件でテストするとは思いませんでしたけど」

ほへ?

「気を悪くしないで頂戴ね。一年生は、この時期に偽の事件をでっちあげて、
 今みたいに仲間はずれにするのよ。その行動次第で、二年生になった対応を決めるわ。
 ま、だいたい組織辞めてもらうんだけどね。今年の二年生だって、四人しか残らなかった」

「ど、どういうこと?」素っ頓狂に呟くあたし。カコワルイ。とてもカコワルイヨあたし。

「つまり、進級試験よ。貴方たちの本気が知りたいだけ。
 別に貴方たちを信頼してないわけじゃない。でも、いま阿部が言ったように、
 私たちには私たちが背負う宿命があるの。それを理解出来ていない子は、
 理解できるまでは退魔師としてはいつまでも二流以下だし、他の退魔師の邪魔になるだけ、
 なら、理解出来るまで第一線からは退いてもらう。その人の為にも、その人の周りの人の為にも」

きょとん。としか出来ないあたし。つまりは芝居だったって事?
ちょ、ちょっとまって。それじゃぁ余計に、余計にさぁ!
あたしの腹の中の感情が胸で一杯になって喉を通って誰かに伝える手段として声になろうとしたその刹那、
あたしの気持ち、いやあたしたち四人の気持ちは、重なった。


「「「「ふざけるな!!!」」」」


それは至極当たり前の事。
だから、あたしたちだって伊達や酔狂でここにいるわけじゃない。
こんな事をされれば、四人全員で怒る。

「人が一人死んでるんだぞ?不謹慎この上ない!」鋼
「いったい何が言いたいんだあんたら!俺たちのテストだぁなんだで、
 人が死んだ事件をおもちゃにしてるの!なぁ?!なぁぁ!!??!!!」
「いい加減にしてよ・・・マジムカつく。ほんとムカつく。
 殺していいかな?いいかなぁぁ!!!」愛。

ちょ、愛?!!

「シッ・・・・」

声にならない吐息が愛の口から漏れる。次の瞬間、愛は小脇に竹刀を携えて、
近くにいた南雲先生に飛び掛った。
いつもは、あたしたちの中で一番ドン臭いんだ。
もちろん、体力面では鋼についで動けるんだよ。愛は・・・でも、
元来のふにゃふにゃしたオカマというかニューハーフというか、
男にしてはおっとり過ぎる性格で、何をするにもあたしたちについてくる形の愛が、
本気で怒ると、誰よりも先に手が出る。


竹刀は綺麗な半円を描いて、南雲先生の顔を打撃音を撒き散らしながら通過した。
確実で必殺の一撃。並の人間が防具をつけずに、愛の居合いを食らえば、
顔面骨折は余裕で、下手すると死んでしまう。

一撃を叩き込んだ愛は、荒い息と共に第二撃を叩き込もうと、構えを直す。
次は下から上へと跳ね上げる攻撃。兎に角速い。

バンッ!と鈍い破裂音がして、竹刀は柄から砕け散った。
どうやったかは分からない。なにか術を使ったようにも見えなかった。
ただ、愛が振り上げた右手の竹刀は砕け散り、南雲先生に当たるはずだった竹刀の切っ先は、
ただの竹屑に変化してそこらに散らばっていた。

「確かに、君たちの言うとおりですね。申し訳なかった。謝ります」

静かな声で、誠意のある声だと言う事はすぐわかった。

「だけど分かって欲しい。今の私たちの行動でお前たちは怒った。
 それぐらいじゃなきゃ、この先やっていけない。逆に、それを私たちは知る必要がありました。
 これから、命を預ける仲間なんですから。
 いまの月読の一撃は、お前たち四人の気持ちを私が代表して食らいました。
 これでチャラにしろとは言いません。だが、これで飲み込んでください。
 別に人が死んだ事件を利用してお前たちのテストをした。ではないんです。
 人が死ぬような事件が起きたから、止む無くテストを行った・・・それはわかってください」

愛は右手を振り上げた状況で固まっていた。二年のボイン先輩が、そっと近づいて硬直している愛を抱きしめる。

「気持ちはわかるよ。だから私たちの気持ちもわかってくれないかな。別に怒っているのは
 君たち四人だけじゃない。笑ったの悪かったよ。でも、嬉しかったんだ。
 後輩四人も、私たちと同じ気持ちだってわかって・・・」

愛の身体から力が抜けた。ゆっくりと右手が下ろされた。

「納得行かないのは理解できる。だけど納得して頂戴。
 貴方たちが知りたい事も全部話すわ。これから貴方たちを仲間はずれにするような事はしない。
 信じて頂戴・・・」

瀬戸先生の声に、あたしたち四人は押し黙った。ふと気付くと、愛と鉄とあたしは、鋼の方を見ている。
いつもそうだ。困ったときは、鋼を見る。鋼の出す答えに、今の所間違いはなかった。そう信じている。


「・・・とにかく、全部話してください。僕らに未熟な所がたくさんあるのは理解しています。
 先生、先輩・・・俺たちは必死でついていきます。正直な気持ち、俺らは、
 手駒でも捨て駒でも良い。ただ、助けてあげれる人がいるなら助けたい。
 俺たちは自己犠牲の気持ちを持ち合わせるほど人間が出来てはいないが・・・ただ・・・」


その時、あたしは死んだ本当の父さんと母さんの事を思い出した。
顔も写真でしか覚えてないけど、はっきりと。
きっと、鉄と愛は死んだ自分のお父さんの事を、鋼も死んだ両親の事を思っていたはずだ。

「俺たち四人は、自分のやらなきゃいけないことを分かっているつもりです。それだけです・・・」

鋼の言葉に、部屋は静まりかえった・・・







正直、あたしはいま戸惑っている。
うん、ギャグもいれなきゃおちゃらけも無しでここまで話進めて、
読者がついてきてくれるかどうかに激しく疑問と不安の念を抱いている。

ぶっちゃけ、ここでENDマークつけてばっくれたいと思った事は公然の秘密だ。






話は冒頭に戻る。

警察関係者二人とあたしたち幼馴染四人は、生徒指導室で向かい合って座っていた。
それまでの経緯を簡単にしよう。

まず、瀬戸先生は俺たち四人に事の真相について説明してくれると約束してくれた。
詳しくはこの面談が終わった後にしてくれると言ってくれた。
まず、あたしたち四人がしなくてはならない事は、今回の事件は、”日常”で起こった事。
と、言う事を、色々介入してくる警察にわかってもらわなくてはいけない。
ただ、特別な芝居や情報操作は要らない。余計な情報を与えない。それにつきる。

「思い出したくない事かもしれないけど、出来るだけ詳しく聞きたいの。お願いね」

スーツのお姉さんの口調は優しい。子供をあやすような感じだ。
変わって、刑事なのだろうか、おっさんの表情はどこまでも胡散臭い。
これを信用しろというのは無理な話だ。

あたしと愛はずっと下を俯いていた。鉄は腕組みをして前の二人を睨んでいる。
鋼だけが、両手を膝の上におき、背筋を伸ばしてしゃっきりと座っている。
鋼は暫く考える素振りをした後、あたしたち三人の方をちらりと見た。
そしておもむろに語りだした。語りに合わせて、おねーさんはうんうんと相槌をし、
おっさんはノートのようなものに走り書きを始めた。

「時間は午後四時ぐらいだと思います。いつもそのぐらいに部活に参加しますから。
 僕と隣りの岩岳は部室が隣り同士なんで一緒に部活棟に向かっていたんですが、
 僕ら二人に声を掛けようと・・・」

また、ちらりとあたしと愛を見る鋼。すっごい自然だが、小芝居に見えない事もない。

「そこの二人、月読と阿部が走りよってきたんです。
 僕と岩岳はその場に立ち止まって、二人が来るのを待ってたんです。
 そうしたら、急に目の前に人が・・・」

「落ちてきたのね?」

「はい・・・」


毅然とした受け答えをしているが、いつもの鋼からは想像が出来ないぐらい弱弱しい声だった。


「その時、怪しい人影とか、走り去る人は見なかったかな?」

おっさんが横から割って入ってきた。


「えと・・・わかりません。すぐに人だかりが出来て・・・
 僕らは血塗れで動くことも出来ませんでしたし・・・その、これで全部です。
 僕はともかく、女の子たちにはあまり想い出せたくないんですが・・・」


鋼の言葉に、お姉さんの言葉が同情してますよー!って前回の顔で大きく頷いた。

「ありがとう。よく話してくれたね。もうこれで最後にするから、これだけ聞かせて。
 神薙君以外の皆も他に変わった事はないわよね?私たちに言いたい事があったら言って。
 出来るだけ情報が欲しいの。死んだ君たちの先輩の為にも・・・」

なーんか、かちんと来る言い方だなおい。鉄がすっごく我慢しているのがわかる。
お前らに何がわかるんだ。と、言いたいんだろうな。あたしも同じ気持ちだ。

それでも、押し黙るあたしたちを見ておっさんがため息を漏らした。

「このぐらいでいいだろ。関係無い子たちにあまり負担もかけたくない」
そう呟くと、おねーさんが頷いて言う。
「ありがとね、もう終わりにするわ。本当にありがとう」

そういうと、二人は立ち上がって部屋を出て行った。代わりに南雲先生が入ってくる。
瀬戸先生は見送りにいったようだ。


「ここに後10分居てください。それから、ゆっくりでいいですから裏から部室棟に回って、
 科学部の部室まで来てください」

それだけ言い残すと、いつものニコニコした顔を携えたまま部屋を後にした。

「ふぅ・・・どうなんだろ?」

愛が言う。鉄が舌打ちと共に返事をした。

「知らん。ってか、あいつらの言い方が非常にムカつく。マニュアルなのか?」

「さぁな。さて、取りあえず雅、足は大丈夫か?」と、鋼。

「んー?」

あたしは、ずーーーーっと、足をさすさす擦っている。
実はこれ、治療方術の一種で、霊力を一部分に集中させて治癒を早めるものなの。

「うん、殆ど痛みは引いた。無理はしたくないけど、いつもの感覚だともう走れると思う」

あたしは、バンバンと床を踏みつけたみせた。

「相変わらず治療術は上手いな」鉄が関心したように言った。

「えへへ・・・これは母さん譲りらしいよ」

写真でしか顔を見た覚えが無く、声も覚えていない母だが、ヒーリング系の術に長けていた。
と、聞かされている。あたしが簡単な捻挫や切り傷ぐらい自力で治しちゃえるのは、
母さんの血が、確かにあたしの中にも流れていると言う証拠だと思う。

あたしたちは得に会話もせず、ぼーっとしていた。
こういう時に幼馴染と言うのは良く出来ていると思う。
別に会話をしなくても、意思の疎通のようなものが出来ている。

あたしたちは確認しあった、これから一般の人が言う所の”非日常”の世界に突入する。
一緒に行こう・・・
あたしたち四人は言葉にすらしなかったが、そう確認しあった。



「いくか・・・」



10分たって、鋼が席を立ち上がった。あたしたちは無言でその後に続いた。







「説明するわ」


あたしたちは、八畳ほどの広さがある科学部の部室にきていた。
この学校は、教室のある本校舎、音楽室や図書室、科学実験室や家庭科室のある特別校舎が
ならんでたっており、その裏に体育館、脇に3階建ての2棟の部室棟がる。
1棟は運動部が占拠しており、もう1棟文科系の部活動がぎっちり詰まっている。
科学部は文科系部室棟の三階一番奥の部屋だった。
部室内には、怪しげな実験器具が並んでいる。この隣りの部室も科学部で、
もっと怪しげな道具がぎっちりつまっているらしい。

部屋にある椅子は6つあり、それにあたしたち四人と、南雲先生が座っていて、
一つ空いている。瀬戸先生は窓際に置かれたホワイトボードを差し棒で刺しながら立っていた。
二年の先輩たちの姿は見当たらない。

「現在、三年生は4名の欠席者はいるものの全員沖縄で楽しくどんちゃん騒ぎの最中。
 欠席者は一応、名目上の補習で3年A組の教室で一日三時間の授業はあるわ。
 欠席者4名のうち、1名は登校拒否の子で、1名は親戚の葬儀で欠席。
 一名は、親御さんから体調を崩して修学旅行を欠席したいと連絡が入っている。
 これが殺された安田さんね。そこで、後の一名が問題」

「誰?あたしたちが知っている人?」

あたしの答えに瀬戸先生は首を横に振った。

「多分知らない。内緒にされてる事なんだけど、
 実は二月に入ってから三年生の一人が行方不明になっている事件があるの。
 学校側は家出と判断し、親もそれで納得して警察に捜索願いが出てる」

「確かに初耳ですね。うちの学校でそんな事が・・・」
鋼が足を組み直しながら頬杖をついて喋り続ける。
「でも、ちょっとわからんのだが、それが何で問題なんですか?」

その問いに、瀬戸先生は少し困った顔をした。
南雲先生と瀬戸先生は視線を交し、南雲先生が頷いたのを見てから
一拍置いて喋りだした。

「欠席している子の名前は倉敷 霊(くらしき りょう)
 組織、園田高校分室三年生の一人よ」

「え?」

驚きを隠せなかった。あたしたちは、仰天の顔の見本を四人でそれぞれ作りながら、
瀬戸先生を見つめる事しか出来なかった。

「組織として集まる事は殆ど無し、三年生の組織の子と貴方達が面会したのは、
 組織に入る時と各行事と夏休みの特別日の校内見回りの打ち合わせの時だけ、
 10回にも満たない上に、そのどの日にも倉敷君は欠席をしている。
 三年生になると、誕生日の近いものから組織の母体でもある全日本退魔協会への
 認定試験の為に、組織の仕事事態の放棄が認められるし、大学受験する子もいるから、
 あたしたちも無理に参加を呼びかけてないの。欠席も自由と言ってあるしね」

「はいはーい、しつもーん!」鉄が手をあげる。

瀬戸先生は”どうぞ”と言う仕草なのか、鉄に向かって手のひらを差し出した。

「鋼が言ったように、やっぱわからない。その倉敷先輩と、今回の事件になにか関係はあるんですか?」

それについては南雲先生が回答した。

「鋼や鉄は、今回の事件に疑問が残っているんでしょう?
 さっきも生活指導室でそういってたじゃないですか。
 それを今説明してみてくれます?」

切替しに鋼が言う。

「今回の事件で、問題なのは”殺され方が異常”って事だ。
 怨霊を発見し、そく対応した俺たちだったかが、ご存知の通りあっけなく倒しちまった。
 つまりそれほど強くは無い。だが、俺たちはもっと強い奴を想像していた。
 怨霊絡みで人間が死ぬ例は、大まかに三つ。怨霊に操られて自殺するか、
 怨霊が生気をすい続けて衰弱死するか、怨霊に操られた人に殺されるか。
 そのどれもが、死んだ人間の魂が怨霊に行く形になっているが、
 今回、安田さんの死体が俺たちへ降って来たとき、死体の損傷は、四回の教室から
 ほおり投げられた以上に損傷していた。頭なんか化け物いかじられたみたいになってたしな。
 つまり、”物理的にかじられたかもしれない”って思うんだ。
 俺たちが退治した怨霊の霊気と、安田さんの死体から感じた霊気は同じものだったし、
 怨霊がやったと思ってたんだけど、後から間考えれば、生まれたばかりであろう怨霊に、
 人間の身体を物理的に壊すような力があったとは少々考えにくい。強い怨霊でもなかったし。
 そこから導き出す結論は、俺たちの中では二つ。
 ”あの怨霊と同タイプの怨霊が複数いた”か”黒幕は別にいる”ってこと。
 つまり俺たちはまだ犯人を見つけていないかもしれない。愛が仇をとりたいといったのもそのためだ
 それが昨日までの俺たちの中での結論。」

はい、すいませんあたしはジャンプ読んでふがし食ってました。

「関わった人間ならそこまでいきつくわよね。そしてたぶんその両方が正解」

ため息混じりの瀬戸先生。その台詞はちょっとした落胆をあたしたちに与えるのと一緒。

「つまりは、犯人はその倉敷先輩・・・って事ですか?」愛の声が冷たい。怒っている愛の声だ。

「確証に至るまでの証拠なんて無いわよ。状況証拠だけとってもね。
 倉敷君は行方不明。実際に彼が学校に来ていれば霊気で私や南雲先生は気付くしね。
 確かに、事件のあった日は、私も南雲先生も学校にはいなかったけど・・・」

「話しずれてるような気がします。先生は修学旅行欠席者の中の一人が”問題”と言いましたよね?
 ってことは、倉敷先輩じゃないかと疑う理由があるって事じゃないんですか?」

瀬戸先生は、両腕を組み、私たちに向かっていった。

「倉敷君の能力は、”状況増幅”と言う特殊霊術でね、東洋西洋のどちらでも無い霊力スタイルで、
 どちらかといえば、シャーマンに近いの。シャーマンは基本的に精霊の力を借りるけど、
 倉敷君の一族は、万物に宿る精霊の力を借りて霊術を使うのではなく、
 森羅万象のそれぞれそのものの力を”増幅”させて使うの。例えばそれが、一陣の風ならば、
 その風と自分の霊気を振動させて増幅させて、武器にも盾にも自由に使えるの」

チャームポイントのおつむの弱さ全開で、あたしは言う。

「それが今回の事件とどう関係するの?」

「ばかっ・・・」馬鹿は余計だ鉄。わかってるけど

「さっき鋼が言っただろうが、生まれたばかりの怨霊程度で、
 人間様の頭をあんなに粉々には出来ない。ってさ。でも、その倉敷って奴の霊能力ならどうよ?
 それが出来るぐらい強くできるんじゃねーの?
 まぁ、怨霊の力も操れるってのならの話だけど」

「あ、そっか」いやぁ・・・このままおバカキャラが定着しそうで怖いわ。

「そういう事。でも、可能性があるってだけで、やっぱ証拠にすらならないの。
 そもそも、倉敷くんはそういう事をするタイプではないと思うの、行方不明の件だって、
 私たちで考えられる原因は無い。学校生活も組織の仕事も熱意を持っていたし、
 とてもじゃないけど、突然失踪するような子にも見えなかった。
 一応、霊的な事件か何かに巻き込まれてないか、退魔組合の方にも問い合わせはしてあるわ」


「ただ・・・」

瀬戸先生の言葉に南雲先生が割り込んだ。

「倉敷は、自分の力を時限爆弾みたいにセットする事が出来たんです。。
 実際には時限爆弾とはニュアンスが遠いのかもしれませんがね・・・」

鋼の繭がぴくりと動いたのをあたしは見逃さなかった。
鋼の中で何か結論が出た。あたし、と言うかあたしと鉄と愛はそう思ったんだと思う。
 
「倉敷の能力は、”状況”の力を強める。と言う事だけで、そのほかの身体的能力も、
 霊的技能も標準、いや標準以下だったんです。
 使える技能がすごいだけでに、そのほかはその能力だけでカバーしようと努力し、
 そんな事ができるようになったらしいんですよ。ある特定の”状況”が生まれた場合、
 その力を増幅させる。例えば、敵に物理的な攻撃をされる。
 物理的な攻撃ってのは、必ず反発する力を生む。その反発する力だけを瞬時に増幅すれば、
 受けた攻撃に対しての反発する僅かな衝撃を無限に増幅する事で、そもそもの物理的攻撃事態と 
 ぶつけ合って消滅させあうなんて事が可能。つまり、それを体中に纏っていれば、
 物理的な攻撃を全て無効にする。なんて事も可能なんです。
 防御だけじゃなく、頭を使えばその力は攻撃にもトラップにもなります。
 例えば、全て霊的攻撃を増幅させるように敵の身体にしこんでおけば、
 仲間たちの攻撃の威力は何倍、何十倍にもなって敵に遅いかかったり、
 一定の霊力をもつものが倉敷の能力で作った結界に足を踏み入れれば、
 重力が何十倍にもなって動けなくなったりってトラップも実際にやってた。
 この能力ですごいことは、状況と言う森羅万象をそのまま増幅させるだけで、
 霊的になにかさっちできる前兆が何も無いと言うことです。発動してからじゃないとわからない」


鋼が頭をガシガシかきながら、ため息にも似た低い声で結論を出した。


「確証はないし、本人の意図的か無意識かも別として・・・
 この学校、もしくはここら一体に、倉敷先輩が作った”状況増幅”と言うトラップが
 あっちこっちにあるかもしれない。もしかすると今回の事件は、倉敷先輩の状況増幅が、
 たまたま発生した怨霊の能力をアップして、起こってしまった事故。
 そんなところですかねぇ・・・」

「そう言う事。それが私と南雲先生の結論。
 いま、二年生二人が学校を中心に半径五キロを探索中。
 そして一人が倉敷君の地元を調べているわ。
 貴方達には、四人で学校内を隅々まで探して欲しい。幸いに学校には生徒たちはいないし、
 他の先生たちには、貴方達は私たちのようで残ってもらっていると言う事にしてあるわ。
 それに、今回の事件の第一発見者だし、残っていてもいくらでもごまかしようがある」

「はい、しつもんその2ぃ!」鉄が小学生みたいに元気良く手を挙げた。

「さっき、南雲先生が言ってたじゃないか、”発動してみるまでわからない”ってさぁ
 それなのにどうやって探すの?」

瀬戸先生の唇の端が、すこしあがったような気がした。


「足と目よ」


まぁ、取りあえず嫌な予感”しか”しなかったさ








時計の針は午前12時半を回っていた。
いま、わたしたち四人は校庭を隅々までトンボかけをしている。


「はらへったぉーー!!!」


取りあえず、あたしたち以外誰もいないので大声で叫んでみた。
職員室ぐらいまでは届いたかもしれない。


「丁度二時間ぐらい校庭をとんぼかけしたな・・・これだけやってダメなら、ないだろ」

鉄が汗を拭う。ってか、今日はバレンタインデーの次の日、二月十五日。
汗をかくほどの重労働ってなにさ?このクソ寒い真冬にさぁ!

あたしと鉄が少し休んでいると、愛と鋼も向こうからズルズルとトンボを引いてやってきた。

「男物のピアスなんて、あったとしても見つけるのは至難の業だね」

そういった愛の顔に疲れの表情が見て取れる。鋼は無言で黙りこくっていた。

科学部で瀬戸先生は言った。倉敷先輩が、能力を事件爆弾的に使う時、
毎回自分のしていたピアスに能力を封じ込めていたらしい。
うちは絵と音楽には許容が広く、パンクやロックの人間なら、
身体のどこにピアスをしていようが不問だった。そもそも、二代前の校長が、
校則からピアスの使用禁止の項目を削除し、ついでにスカートの丈と改造学生服の項目も
削除したらしい。なんでかは今となってはしらない。ただ、一説には
スカートの丈だけ校則を緩めると問題だから、生徒の自主性の尊重で、全部おっけーにしたんじゃないか?
ってのがある。うん、それじゃただのエロ校長。

「どうした鋼?まだ疑問が残っているのか?」鉄が押し黙る鋼に声をかけた。
鋼は俺たちの顔を見上げて言う。

「あぁ、まだ疑問が残っている。当然の疑問だ」
「だよなぁ」
「そうだね」

ちょ、ちょ、ちょっと。お前らあたしの事をオツム弱いキャラで確定させようとするな!
なんのことだ、わからない。わからないよぉ!

「雅もそう思わないのか?」

と、鋼。もちろんわからない!と大きな声で・・・

「思う・・・」

言うほど、おばかじゃない。こういうときは誤魔化せ誤魔化せ!

「俺たちで気付いているだから、先生たちも気付いているんだろ。
 ってか、先生たちは知っているんじゃないだろうか。もしくは、
 そうであっても可笑しくないって別のことも・・・」

あー、わけわかんなくなってきた。なに言っているだ鋼は?

「どうして修学旅行を体調不良で休んだ安田先輩が、三年F組にいたんだ?
 体調不良なら家でじっとしてろって話しだし、出発時だけ体調不良でその後回復したのなら、
 態々学校に来る事はないと思うんだ。補習なんて形だけだし、三年の先輩だから卒業も確定している。
 友達がいるわけでもない学校に、制服きて来る理由はないと思うんだよなぁ・・・」

あ、そういう意味か。あー、あたしはもうオツム弱いキャラなんだろうなぁ・・・

「暇だったんじゃない?」
「そんな簡単な理由かなぁ?」

その時、お昼休みを告げる鐘の値が鳴り響いた。あぁもうお腹空いたよホント。

「校庭はこんなもんでいいだろ。めしにしようか」

そういう鋼にあたしたちはついていった。

「ってか、購買やってるのかねぇ?」
「どうだろ?一番近いコンビニは駅前店だし、ここら本当に不便だよね」
「確か、近くに食堂あったろ。そこいけばいんじゃね?」

あたしはふと思った。至極当然の事のように。

「ってか、先生たちにてんやもんでも奢ってもらえばよくね?
 あちし親子丼!」

「「「いーねー」」」
声がはもる三人。お前ら本当に仲いいな。

「俺はカツ丼にてんぷら蕎麦」
「鋼、それは食べすぎ!あたしは、なめこそばー!」
「俺はホイコーロー定食がいいな。チンジャオロースも捨てがたい」

そういいながら、いつのまにか科学部部室の前まであたしたちはきていた。

「校庭は終わりましたぁー収穫ゼロっす」

扉をあけた瞬間、良い香りが広がってきた。

「今、呼び行こうと思ってたところですよ」

科学部のテーブルの上には、出前のピザと蕎麦各種とチャーハンとラーメンと野菜炒めとそれとそれと、
とにかくたくさん並んでた。

「適当に頼んだんで、まぁケンカしながらたべ・・・」

鉄と鋼は早かった。手近にあるものから片っ端から消火していく。
愛は、ちょこんテーブルの端に座り、自分の分の蕎麦を確保すると黙々と食し始めた。
あたし?あたしは南雲先生の唖然とした顔を確認する頃には二切れ目のピザを攻略開始。
とろけたチーズ、おぃぃぃぃっしぃぃぃぃ!







「若いって偉大ですねぇ・・・まさか全部いってしまうとは・・・」

南雲先生は窓際に座ってタバコを吸い始めた。教師としてどうかと思うが、
ここは科学部の部室で科学部顧問の南雲先生が吸ってるならいいかな。って思った。


「で、先生よ」

鋼が最後の一滴までラーメンのスープをすすった所で、南雲先生に話しかけた。

「隠し事はなしにしてくださいよ。俺らも疑心暗鬼になっちゃうしさ」

「なんのことです?」

タバコの煙を窓の外へ吐き出すその素振り、ちょっとカッコいいと思った。

「だからぁ、なんで安田先輩があの日学校にいたか、疑問に思わないんですか?
 思わないなら、思わない理由でもあるんですか?例えば、補習に出席していた!とか」


「はっっ!!!!!」


大仰に驚く南雲先生。


「き、気付きませんでしたぁー!
 な、なんと言う事だ。私とした事が犯人探しにやっきになって
 まったく被害者の事を考えてなかったぁ!」

「へっ?」

きょとんとした顔の我ら四人。

「どうしようどうしようどうしよう」

オロオロする南雲先生。
そこへ、扉をあけて左手に食べかけのホットドック、右手に雑誌を丸めてもっている瀬戸先生が入ってきた。


「だから小芝居やめろって」


ぱーっん!っとコントのような小気味良い音がして、南雲先生は瀬戸先生に雑誌で殴られた。
瀬戸先生は椅子に座り、ホットドックをむっしゃむしゃ食べている。
殴られた南雲先生は静かになって、インスタントコーヒーを作り始めた。


「これを言うと、貴方達は余計な勘違いをするかもしれないから、聞かれるまで黙っているつもりだったんだけどね」


瀬戸先生はそういいながら、南雲先生が差し出したコーヒーを受けとった。
たっぷり5分ぐらいかけながら、雑誌を読みつつホットドックを租借する先生を見つめ、
あたしたちは静かにまっていた。その間に、南雲先生が出してくれたコーヒーーも頂いた。まったり。

「倉敷と安田はね、付き合ってたの」

噴いた。コーヒー噴いた。全力で噴いた。リアルで噴いたのは初めてだ。

「で、安田が別の男に乗り換えたのよ。安田はそういう事を平気でしちゃう子だったみたいね。
 今月初めには別れたらしいわ。ちなみに付き合いだしたのは大晦日で、安田からの告白だってさ。
 安田は学校の近所の花屋に勤める兄ちゃんにヴァレンタインチョコを持っていったんだって。
 これ、昨日の話ね。いま裏を取ってきた。花屋の兄ちゃん、告白を受けて付き合うことにしたそうよ。
 まぁ、もらった携帯電話に連絡したらまったく連絡が取れないから、からかわれたと思ってて、怒ってたよ。
 取りあえず安田が死んだって事話したらすんっごく複雑そうな顔してたけどね」

「へーーーーーーー」

としか言えないあたし。なんかさっきから瀬戸先生が怒っているような気がするのは、
安田先輩がやった事に怒っているのかしら。

「まぁ、恋愛は自由。そー、自由よー。あんたちも一杯恋愛しなさい。
 恋愛はいーわー、心も身体も満たしてくれる。若い時なんて一瞬なんだから、
 精一杯恋愛を楽しむべきよー」

棒読みきたこれ。怖い。瀬戸先生がとても怖い。

「でもねぇ・・・教師に・・・いや、
 あ た し に め い わ く か け る な ぁ !」

ぶち切れた!?!メリョっと不思議な音がしたと思ったら、
瀬戸先生がもっていたプラスチック製のコップが、パリンと弾けて割れたとさ。
出会いの無い女教師34歳、せとてんてーご立腹。ってか怒髪天を突くってこういうことかー
勉強になるんなぁ・・・
瀬戸先生はこと恋愛ごとになると、情緒不安定になっちゃうみたい。

「落ち着いてください。瀬戸先生。今はこれ以上被害が出ないようにするのが先決です」

「・・・わかってるわよ・・・」

「それに、先生はお綺麗じゃないですか、教師と組織の仕事をしているから出会いがないだけで、
 その気になればすぐに相手は見つかりますよ。年齢さえ言わなきゃ・・・」

南雲先生ってほんと一言おおいよなー、良い人だってわかるし、それなりにイケメンなんだけどなぁ・・・
ところでさ、往復ビンタって、馬乗りになって握り拳と裏拳で頬を両側から横打することだっけ?違う?
じゃぁ、これなんて言うんだろ?

「うっきゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「おふ、ごふ、ぐは、ごっ、いた、げっ、がはっ」

うん、だから瀬戸先生が南雲先生の上にのって右拳で南雲先生を殴って、戻り刀もとい戻り拳で、
反対側の頬に裏拳を叩き込む。を、交互にやってるの。これって往復ビンタっていうのかなぁ?

「ビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタ!」
「いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい!」

ってか、お前ら二人くっつけば?

「止めた方がいいのかなぁ・・・」愛
「ほっとけ。痴話げんかより性質がわりぃ・・・」鉄
「さて、腹ごなしに今度は本校舎いってみっかぁ、隙間とか多くて大変そうだけど」鋼
「ところで鉄。想像してみてください。あれはハードなSMプレイです」あたし


愛と鋼は部屋を出て行った。
けしかけといてなんだが、鉄が上着を脱いで、「まぜてー!」って飛び掛っていったんで、
あたしは椅子、テーブルと飛び乗って高い位置からの踵落としを鉄に落としといた。
おもしろなー、鉄って。






「どう思うよ?」

鉄はロッカーの隙間を覗き込みながら、みんなに聞こえるように大きめの声でそういった。


「どうだろうなぁ・・・女心は分からんが、男心としては、怨むだろうよ。
 こっちから告白したならともかく、向こうから告白されて三ヶ月もたなかったらなぁ・・・」

鋼が教卓の下の段を持ち上げながら答えた。

「僕は安田さんの気持ちちょっとだけわかるな。
 やっぱ好きになっちゃったら、どうしようも無いもん」

愛は花瓶の中を見ながらそう言った。そうね、愛は女心の分かる子だもんね。でもさ、

「だからって、ちょっと無いよ。恋愛は自由だけど、自分から言っといて自分から振る。
 さらに自分から別の男にアタック。この間一ヶ月。ありえないよー。
 どれだけ女王様なんだって話。ふつーないよー、そんな展開ないないー」

と、全部の机の中や、机の裏まで見て周るあたし。


「この教室にはねーな。これで三階は全部終わり。四階いくか」と、鋼が切り出した。

「やっと四階かー、1〜3階はねーってなると、4階にもないかもなぁ」と、あくびをしながらの鉄。

「でもさ、4階は3年生の教室もあるし、あるとすれば一番可能性たかいんじゃない?」と、愛。

みんなで階段に向かう途中、あたしは変な疑問がふと思いあがった。
あたしたちは、安田先輩と倉敷先輩が付き合ってたって聞いて、あぁそれなら倉敷先輩が犯人かも。
って、漠然と思っている。倉敷先輩の能力で、小さな怨霊の力を増幅させて安田さんを襲った。
これは、推測の域は出ない。出ないんだけど・・・じゃぁ、やっぱり、なんで安田先輩学校にいたの?


「ちょっと皆・・・装備をとってこよう」


感覚、勘。こういうのは四人の中ではあたしが一番優れてた。
あたしが、なにかまずいなーって思うとき、大抵まずい。
まぁ、逆に今日はなんかいい事ありそう!って日に限って大惨事だったりするけど。

「まぁ、丁度この階段の下は俺らの教室だしな」そう鋼が言ってくれた。

あたしたちはそれぞれの教室に赴いた。






時計の針は遠に三時半を大きくまわり、もうすぐ四時になろうとしていた。


装備一式揃えて、三階へと続く階段の前で、鋼と鉄を待つあたしと愛。
愛は世間話程度に口を開いた。

「どうしたの急に?まーちゃんは、四階になんかいると思うの?」

「いやさぁ・・・これは完全な勘なんだけど」

話しているうちに鉄と鋼もきた。鋼は両手に大きなナックルガード。
鉄は白衣を羽織っている。ちなみに、あたしは数珠、五鈷所、札各種。愛は木刀と言う装備だ。
あたしは自分の考えを三人に話した。

「安田先輩が倉敷先輩が付き合ってた。みたいな情報で、みんな忘れてると思うんだけど、
 でも、もう別れているなら、余計に安田さんがあの時間あの場所にいたとも思えない」

「だな。そうだ・・・そうだよ」と、鋼。あたしは続ける。


「ただ、安田さんはその日ヴァレンタイチョコを花屋の兄ちゃんにもっていっているんだから、
 この近くまで来ていたとは考えられるよね?」

「じゃぁ、チョコを渡した後にでも、ここまで連れてこられた?って事じゃない?」


鉄は言うが、あたしはそうじゃないような気がする。


「確実じゃないけどさ、だいたい教室まで連れ込む必要がないじゃん?
 教室で殺ス必要が、よくわからない。まぁ、もともと教室で殺されたかどうかわからないけど、
 頭食われた血が、教室にも廊下にもないんだし・・・」

「ん?ちょっとまて雅・・・」鋼は気付いたみたい。

あたしはやっぱり続ける。うん、ここがあたしの今回の見せ場。

「あの怨霊はさ、最近生まれたのは確実だけどさ、別にヴァレンタインデーの一喜一憂だけで、
 あぁなるのかな?あの怨霊は色々な意識が集まって出来たもんだと思うけど、
 それは、学校には色々あるわけじゃない?イジメだって当然あると思うよ。あたしらの知らない所で。
 恨み辛みがかさなって最近生まれました。人に危害加えるかもしれない怨霊さん。
 でも、安田さんを殺してはいないんじゃないかな?って思う」

「なんで?だってあの時・・・」と、愛。

あたしは少し考えてから、言葉を選んで話した。

「そう、あの時。あたしらが怨霊と闘ったとき、怨霊は自分が安田さんを食べたとは一言も言ってない。
 ただ、制裁だ。とだけ言った。この学校の怨念から生まれた怨霊なら、安田さんがどういう人かもわかってるだろうし、
 死んだと言う事に対して、あぁいう吐き捨てるような言い方も出来たと思う」

「まてまてまて、まて雅。一個忘れてる。安田さんは、俺たちの前に振ってきたとき、
 学年指定の上履きを吐いていた。仮に、告白するためだけにきたなら、外履きじゃないと・・・」

「あのね、鋼」あたしは鋼の言葉を遮り、確信だと思うあたしの考えを言う。

「体育館の裏手にいった事ある?誰もいかないようなところなんだけど」

「ない」「でしょうね」

あたしは息を吸い込みながら言う。

「体育館の裏手のフェンスは、L字の通路が通ってて、丁度L字の角部分は体育館裏のフェンスと花屋で出来てるの」

「あぁ・・・そうなんだ」もう鉄と愛は黙ってあたしと鋼のやり取りを聞いている。

「瀬戸先生はどこの花屋かはいってくれないけどさ。でさ、四階から落ちた程度ではあそこまでいかないけど、
 もし、体育館の裏からあの場所までどーーんっと吹っ飛ばされてきたら・・・」

「どうだろうな。落ちた衝撃だけじゃないんだろうし、わからんけど・・・」鋼はしばし考えた。

そして、小さなため息と共に言う。

「俺たちが向かうのは、上じゃなくて、下。そして渡り廊下通って、体育館の脇抜けて裏側か・・・」

「うん」


あたしたち四人は無言で階段を下りていった。







あっけなーい。


体育館の裏にきたあたしたちは、とんでもない量の血痕を見つけた。
普段誰も来ないようなこんな場所に、一直線にペンキを塗ったような大量の血痕。
場所が場所だけに警察もまだ見つけてないんだろう。

まだ、入り口から数歩入っただけなんだけど、すぐに霊気の重さに感づく。
脇をみると、道が走っており、それはすぐにL字にまがり、曲がり角には花屋があった。
花屋では、一組の夫婦と、まだ20代そこそこの若い兄ちゃんが花の手入れをしていた。

「フェンス越しに告白・・・チョコレートあげて、置くの方にいった。
 この奥はどこにつながってるんだ?」鋼はナックルガードをきちんと嵌め直す仕草をする。

「そのまま部室棟に出るよ。教室に戻るのはこっちからのが近いけど、玄関向かうなら向こうのが近い」

そういいながら、あたしは結界用の札を数枚出した。


「ビンゴぉ・・・花屋の兄ちゃんは気付かなかったんだろうなぁ・・・告白してくれた少女が、
 すぐ脇であんな・・・あーあ、なんだありゃ・・・」

鉄が呆れている。無理も無い。


たぶん、行動範囲を数メートル四方に搾って、代わりに能力を高めるタイプの、”ゴーレム”だ。


「顔が狼。身体は巨人。どーみても3メートル以上あります。本当にありがとうございました」

あたしはそういいながらちょっと後悔していた。かっこつけず先生たちとこればよかったなぁって。

「暴れてるね」静かな声の愛。そうだ、暴れている。
両手でガンガンと何も無い場所を殴っている。たぶん結界だろう。
こっち側からはすんなり入れて、向こうからは出れない。とかじゃなかろうか。
しっかしでかいなぁあのゴーレム。


「あ、先生?取りあえず犯人みかけたから、倉敷とやらのピアス探しはいったんやめて、
 体育館裏にくるように、二年生に伝えてもらえませんか?あ、あとすぐにこい」

鉄がいつのまにか携帯電話で先生たちに連絡をとっていた。GJ先生。

「しっかし、どーするよあれ・・・結界の中にいるから先生たちがくるまで待ってればいいか?」

と、鉄が携帯をしまいなが言う。二つ折りの形態をパタンとしめた瞬間に、あたしたちの血の気は引いた。
パタンって閉めた音と、パリンって割れた音が重なったんだ。

「ちぃっ!結界が?!」
「割れたぁ?!!」

咆哮。

結界の中に居たときは、音は聞こえなかった。たぶん音はこちら側にこないのだろう。
なら、安田先輩が殺された時の悲鳴やらなんやらが聞こえなかったかもしれない。
とか考えてる場合じゃない。

「重符結界!!!」

あたしはとっさに持ってる札を全部使って四人の前に壁を作った。
ゴーレムの振り落とした腕は結界に遮られた。

「重い!重い重い!こんなの10秒と支えられない!」

わたしの両腕がミシミシと重圧を感じる。
実際の重さじゃなくて、霊的な重さだ。あたしの霊力とゴーレムの攻撃力、どっちが先に尽きるかの勝負だ。

「鉄、雅が封じている間に!」鋼が叫んだ。

「やってる!お前らは準備しとけ!」

鉄があたしの後ろで力を溜め始めた。

「限界まで溜める。雅ぁ!きばれぇ!!」

「おもいおもいおもいおもいおもい!!」

鉄は白衣からマイナスドライバーを二本取り出した。そしておもむろに後ろに下がり、
鋼に向かってダッシュ。


「上あげろ!」

「っちょぉっ!!!」

鋼は咄嗟に振り向いて下から上へとアッパーの要領で腕を振るった。
振るった腕を足場に鉄が上へ飛ぶ。鋼は思いっきり腕を振り上げて鉄を上に押し上げた。

「鉄は我が眷属!貸せ!大いなる大地の力!!!」

上からゴーレムの足を狙ってドライバーを投げつける鉄。
ドライバーはゴーレムの両足にヒット。そのまま一気に地面からまでめり込む。

「男ならドリルゥ!!!」

次の瞬間、ゴーレムの足の下からドリル上の張りがゴーレムの両足を貫いた。
地中の砂鉄やら鉄分やらを集めて、好きな形にして攻撃する鉄の得意技なんだが、
お前、一応16歳の女の子。男ならドリルーって、お前・・・なぁ、鉄・・・おまえ・・・

鉄が空から降って来た。それを愛が優しく抱きとめる。

「愛慈郎!」
「鋼太きゅん!」

愛は鉄を下ろすとおもむろに一直線に走り出した。
鋼は・・・た、体育館の壁を走ってる。あー、やっぱ化け物だー・・・
あたしったらあんな化け物に今朝方、ときめいてたのかぁ・・・

「月読流居合術・・・一刀魔断!」

愛は木刀を真横に振るう。
木刀の長さを遥かに超える光の剣がそこに現れ、太刀筋に一本の線を引く。
その線の中には当然ゴーレムが入り込んでいて、
上半身と下半身が真っ二つ割れた。ずれいくゴーレムは自分がどうなっているかわからず、
おもむろに両腕を振るう。そしてその手は、あたしとあたしの後ろに隠れている鉄を襲う。


「いたい!おもい!いたい!おもい!」

あたしはなんとか結界でしのぐけど辛い。

早くしてよ鋼ぉぉ!!

「我が右拳に宿るは天使の力ぁ!今、我が世に蔓延る魔を浄化せよ!」

鋼はいつのまにか体育館の天井近くまで走りあがっていた。そこから一気に飛び降りる。
鋼の右手は真っ白に輝きを放っている。

「おぉぉりゃぁぁ!!!」


鋼はゴーレムの頭を全力で殴った。
ゴーレムの身体に縦に一本の光のスジが走る。
ゴーレムは咆哮をあげることもなく、縦横にざっくり十字に切られ、そのまま後ろに倒れた。
鋼と愛の攻撃力はやっぱすげぇな。うん、敵にまわしたくない。

「うわっ!」

頭の上で声がする。
鋼が殴った拍子にバランスを崩したんだろ。頭から降って来た。

「鋼太きゅん!あぶない!」

咄嗟に一番近かった愛が鋼を抱きとめる。

「がっ!」
「いっ!!」

タイミング悪かったなぁ・・・・ってか、おもしろぃなー、空中顔面衝突。
結局二人してもつれ合って地面にへたりおちた。

「つつつ・・・いてぇ、ちょっと雅、みてくれよ」

立ち上がった鋼があたしに顔を近づけてくる。なんだ、唇切れてるな。いまぶつかったときか。

「それぐらいならバンソーコーつけてればなおるよ」

「そか・・・ならいいや、おい愛慈郎。大丈夫か?」

あたしたちが愛慈郎の方を振り向くと、愛慈郎は恍惚の表情で女座りで座っていた。
お前似合うなぁー、女座り。

「どしたの愛?」

あたしが近づくと、愛は鼻血を出していた。

「だいじょうぶかー」

けっこう滑稽な表情だったので、あたしは思わずにやけてしまったが、次の台詞で世界は止まる。

「鋼太きゅんに、ファーストキッス捧げちゃった・・・」

「はぃ?」

あたしの時は動き出さない。

「なにいってるんだ。ちょっと唇がぶつかっただけじゃねーか。それにお前のファーストキッスは
 鉄に奪われただろ?」と、鋼。
「うん、そうそう。俺が貰った」鉄。

「ちがうのぉ!今のが初キッス!鉄とのはノーカン!」

「アフォ。なら今のも不慮の事故だ。ノーカンにしとけ。どっちでもいいけど」
「どっちでもいいならいじゃないかぁ!」
「はいはい」

お前ら本当になかいいな。ってか、鉄ってば見境無いな。そうかー、愛と鋼がキッスかー
この展開はちょっと予想してなかったなぁ・・・なんだろ、キモイ?ごめん、ちょっと悔しい。
あたしまだだもん。

「まぁ、雅のファーストキッスは小五の時に俺が貰ったけどな」
「黙れ鉄ぅー!!あんなもんノーカンじゃーい!!!」ノーカンに決まってるだろド変態がぁ!

そう叫びながら振り向いたときだった。鋼が猛然とダッシュであたしに突進してきた。

「え?ちょっ・・・」

あたしは鋼に抱きかかえられ、そのまま地面に二人して倒れ込んだ。
倒れこむ途中に見えたのは、ゴーレムがいつのまにか回復して、大きな腕を振り落としていく瞬間だった。
ゴーレムの腕は一気に鉄に向かって振り落とされる。って・・あ・・・

大きな音。岩と鉄がぶつかったような鈍い音。

「間に合いましたね・・・しっかしデカイゴーレムだ。こんな狭い場所で・・・」

ニコニコ顔の南雲先生が、右手一本でゴーレムの腕を止めていた。
その後ろで、鉄がしりもちをついている。

「下がりなさい。後は先生たちでやります!」

瀬戸先生が飛び込んできた。両腕を手の前で交差して、なにやら呪文を唱える。

「我が眷属の餌となりなさい・・・」

突如、地面の中や木の上、とにかく至る所から白い小さな芋虫がワラワラ出てきた。


「いやぁーーー!!!」


甲高い悲鳴。うん、小さな虫とかダメなんだ。しょうがないじゃん、乙女だから。
そう、愛の悲鳴ね。あたしと鉄は全然平気。ってか、それでもキモイなぁ・・・

「大丈夫か?」

鋼があたしを起こしてくれた。やめろ、さっきので・・・その・・・

「おい、ホント大丈夫か?顔赤いぞ?」

ちょ、お前なんとも思ってないのか。気付いてないのか?この・・・・バカ・・・

あたしは恥ずかしくなってすぐに顔をそらし、ゴーレムの方を見た。
きんもー、何体?何十・・・何百・・・いや、あれは万はいるな。
何万匹とも見える小さな白い芋虫、たしか、蚕?って無視らしい。
瀬戸先生の眷属で、とんでもない量出してくる。あれに襲われたもうどうしようもないだろう。

結局、状況の確認と報告を南雲先生にしていた10分程度で、
ゴーレムは蚕に食い尽くされて消えちゃった。
後に残ったのは、銀色の男物のピアスだけ。ってか、蚕に食われいくゴーレムを見ながら、
ニヤニヤずっとわらっている瀬戸先生が本気で怖かった。






「この件に関しては、当然口外を禁止。体育館裏の血痕なんかは、
 組織と学校が協力して処理しておきます。しばらくはあそこにいかないでね」

正気を取り戻した・・・もとい、いつもの感じの瀬戸先生が言う。
場所は科学部。あたしたちは戻ってきた。

「このピアスを見る限り、ゴーレムの作り主は多分倉敷君・・・
 私としては信じたくないけど、これは一つの証拠よね。
 ずいぶんと大きくしぶといゴーレムだったし、倉敷君には作れないとは思うけど・・・」

南雲先生がその言葉を補正した。

「小さなゴーレムぐらい誰にでも作れるからね、
 それを結界をはったあの体育館裏に放しておいて、あるタイミング、
 例えば、安田の霊力が結界内に入った時に時限爆弾式で状況増幅能力を
 使えば、あれぐらい強いゴーレムは出てくる。
 いつからゴーレムがいたかはわからないが、こんだけ強いゴーレムを
 作れる手順がある奴は、倉敷だけだ。もちろん、部外者の可能性もある」

それはフォローこそしていが、倉敷先輩が犯人だと決め付けているようにも聞こえた。
まぁ、あたしたちはあったこともな先輩なのでどうとも思わない。

「これで倉敷君の探索は、警察にまかせておけず、退魔師組合の方にまわることになるわ。
 彼が無実でも、公の場に出てきてもらわないといけないしね。
 だから貴方達はこの件の事には関わらないでいいわ。お疲れ様。もう帰っていいわよ」

その言葉を合図に、あたしたちは頭を下げてから科学部を後にした。

校門前、皆、装備を教室に一度起きに戻っている。
あたしは装備はカバンにつめちゃえばいいから、校門で他の三人を待っている。

暮れ行く夕日を眺めながら、あたしはぼんやりとさっきの事を思い出していた。
ゴーレムの攻撃からあたしをかばって、鋼がわたしを押し倒してくれた。
その時、確かに・・・まぁ一瞬だったけどさ。

唇・・・触れ合っちゃったんだよね・・・


ってか、なんだこの胸の高鳴りは!
関係ない関係ない!あんなのノーカンだ!
あたしのファーストキッスはまだ穢れてない!汚れてない!失われていない!

・・・いや、別にあいつは嫌とか、そんなじゃないけどさぁ・・・


でも、別に好きでもない奴とぉ!!!・・・・・・・


好きでも・・ない・・・・やつ?・・・・うん、好きでも・・な・・いや、
好き・・・か・・も?いやいやいや、好きじゃない。ただの幼馴染幼馴染!
そう、好きじゃない好きじゃない好きじゃない!!そう、ノーカンだし、
関係ないし!いつか白馬の王子様現れるし!玉の輿に乗って見せるし!


「好きでも何でもないし、ノーカンじゃぁーーー!!!」

と、夕日に叫ぶパニック雅夜ちゃん。16歳かっこ美少女かっことじる。

「何がノーカンじゃ。大丈夫か?頭でもうった?」

「ひぇ!!」振り向くとそこに鋼が居た。

「なんでもないなんでもない!ちょっと夕日に叫んでみたくなっただけ!
 ほら、あるじゃない?青春時代にはさー」

「ねーよ。頭打ってなければ別にいいけどさぁ・・・」

と、校門に寄りかかる鋼。

あたしは、それっきりだまっちゃって何もいえない。
なんか無言の空気が流れる・・・お、おも・・・・な、なんか話さな・・・いいか。

「おい、雅。本当に大丈夫か?顔赤いぞ?」

「なっ!なにいうだきさまー!夕日が顔に映ってるだけじゃー」

「な、なんだよ。心配してやってるだけじゃねーか」

う、うぅぅぅ・・・なんで、なんでだよ。なんで顔が赤く・・・お、助け舟。

「鋼太きゅーーーん!!!」
「おっまたぁー」

愛と鉄が来てくれた。

「おせーよ」とあたし。

「で、雅、悪いんだけどちょっと一緒に科学部いってくんない?
 鋼と愛は先に行っててすぐおいつくから」

それだけ言うと、鉄はあたしの腕を引っ張って、ズンズンと部室棟へと歩き出した。

「おー、先行っとくわ。ってか近づくな愛慈郎!」
「えー、いいじゃない。もう二人はKO☆I☆BI☆TO☆なんだからぁー」
「なんでだよ・・・おーい、二人とも早くこいよー!俺の貞操がぁー!」

遠くで鋼と愛の口論の声が聞こえる。なんかほっとしたようなそうじゃないような。

「ってか、鉄。なんで科学部に?」
「いや、カバン忘れちゃってさー、それに鋼との初キッスの感想も聞きたかったし?」
「んなぁ?!見てた?!」
「おー、見てた見てた。その反応だと意識しちゃってるみたいだな」
「ち、違う!ノーカン!ノーカンだからぁ!」
「はいはい、じゃぁまた俺が鋼に手を出してもいいよね?」
「え・・・えと」

顔まっかだ、あたし。

「あはははははは。仲良くやろーよー仲良くぅー!俺ら兄弟みたいなもんじゃん。
 いまさら棒姉妹だろうが穴兄弟だろうが、関係ない。
 3Pでも4Pでもいいしさぁ」
「だまれド変態!」
「おーこーるーなーよー、雅ぁー愛してるよぉー!」
「煩い!」


とかなんとかいつものノリでバカ言い合っていると、科学部なんてすぐだ。

「わわわ、わっすれものぉ〜」と、鉄が扉をあけた瞬間だった。

夕日をバックに、見つめ合い密着する男女。

「だから、綺麗ですって・・・瀬戸先生・・・」
「南雲先生・・・」
「私でもいいなら、ずっと側にいますから、そんな悲しい事言わないで下さい。
 貴方は綺麗で、素敵な人だ・・・」
「あ・・・ん・・・」


うわぁーぉ、濃厚・・・

「瀬戸先生ッ!」
「ひ、姫子って呼んで」
「姫子先生・・・じゃぁ僕は樹と・・・」
「い、いつ・・・き・・・」
「姫子・・・」

あんまりにもあんまりでちょっと濃厚すぎる展開なんで
ぼーぜんとしちゃったし、してなくてもちょっとこれを言葉にするにはなぁ・・・
って感じもするし・・・ってか、おーい、鉄ゥ、お前なんで服脱いでるの?

「まっぜーてぇーーー!」

「うわぁ!」「ひっ!いつから!!」

はぁ・・・取りあえず、椅子にのって、テーブルのって、
大きく足上げて、鉄の頭に踵を落とす!!!

鉄が潰れた蛙みたいな声で倒れたので、あたしは鉄のカバンを探した。
お、あったあった。

「い、いつから・・・」硬直しつつも顔真っ赤な瀬戸先生
「えーっと、”綺麗ですって・・・瀬戸先生・・・”ぐらいからですかね?」
「え、えと、これはだな・・・阿部」南雲先生の顔にいつものニコニコがなくなった。
「あ、お邪魔しましたぁー、ごゆっくりどーぞー」

あたしは鉄をずるずる引き摺りながら、カバンをもって部室を後にした。
少しずつ声は小さくなっていくが、瀬戸先生のヒステリックな悲鳴と、
南部先生の叫び声が聞こえるので、また往復ビンタでも食らってるんだろ。
瀬戸先生の照れ隠しにでも。なんだか、かわいーなー、お似合いなんじゃないかなぁ?

鉄が寝てると面倒なので、階段から落としてみた。一発で目が覚めたが、
その後すごい怒られた。

あたしたちはちょい駆け足で鋼と愛の後を追った。
五分もせずに、ちんたら歩くリアル801劇場上映中の二人を見つけた。
執拗に鋼の左腕に両手を絡める愛と、愛の顔をこれでもかと右手で押し離す鋼。
まぁなんだ。いつもの光景だ。ちょっと愛が積極的かもしれないけど。

「まっぜろぉー!!」


と、鉄が鋼の背中に豪快にダイブした。

「ちょ、お前ら!いい加減に・・・あぁぁもぉぉ!!」

なんだかんだ言いながら楽しそうな鋼。
幸せそうな愛、笑顔の鉄。




んーー・・・・




「じゃぁ、あたしは右手じゃーーー!!!」

あたしは鋼の右手を抱きしめた。取りあえず制服の飾りボタンを押し付けとく。




うん、取りあえずあんまり深く考えない事にした。
まーその日がくればどうにかなるさ。

今は四人一緒にいればいいや。こうやって笑い合えるからいいや。




大好きだぞ。お前ら!







END

http://www.juv-st.com/