オーグ


 先週一緒にキャンプに行った友人が、行方不明になった。連絡はその友人、健一の母親からだった。話によると、朝、部屋へ行って見ると、床にはおびただしい血が流れ、テレビはつけっ放し。靴もあるのに、本人だけが行方知れずだと言うのだ。

 俺は健一の家を訪ね、部屋を見せてもらった。警察の言いつけで、部屋はそのままにしているらしい。確かに辺りは血の海だ。血生臭い匂いが鼻を突く。健一は何かのビデオを見ていたらしく、ビデオカメラとテレビが、ケーブルで繋がったままになっている。テレビの画面は、砂嵐だ。次に俺は部屋の隅に、健一の携帯が落ちているのを見つけ、それを拾い上げた。

「この携帯の中に、なにか情報があるかもしれません。僕と健一君は、共通の友達が多いので、ちょっとお借りして調べてみてもいいでしょうか?」

とりあえず、その携帯と、健一が見ていたかもしれない8mmのビデオテープを借りると、俺は健一の家を後にした。

 自宅に帰り、俺はまず自分のビデオにテープをセットすると最初まで巻き戻してから、再生してみた。テレビにはテントと真反対の、誰もいないキャンプ場と、その向うの林が写っていた。しかし、取り立てて異常はない。

「あ、これだな。健一が言っていた、カメラをセットしている最中にバーベキューが焦げそうになって、あわてて火の側に行った時、ひじがカメラにぶつかってカメラの方向が逆になったって言うシーン・・」

 俺は次に、健一の携帯の動画機能で、携帯に残された動画を見ることにした。携帯の動画には、健一のテレビが写り、そこには俺が部屋で見ている画面と同じ風景が写っていた。時折、健一の声も聞こえる。

「おい、もうすぐだぞ。あの林のあたりをよく見てろよ。」

健一の声が聞こえる。おそらく俺に見せるために解説してくれているのだろう。

「ほらっ あれだっ」

 健一が興奮した声でしゃべっている。たしかに、山の上の方から、なにかが移動して来ているのが分かる。色は赤っぽい。一見、人間のようにも見えるが、なにかおかしい。やがて、俺はおぞましい物を見た。
 山から下りてきたもの。それは、赤銅色をした巨大な異形の物・・・。
そう。まさに、「鬼」だったのだ。その赤い鬼は恐ろしいスピードでカメラに向かって走ってくる。広いキャンプ場なので、林までは、200メートルはあろうと言うのに、鬼は、その距離をわずか数秒で駆け抜け、カメラに突進して来たのだ。

「ほらほら、すげーだろっ!!」
健一の興奮した声が聞こえる。

「こいつな、ギリギリまで見てテレビの電源を消すと、消えるんだぜ。そんでテープを巻き戻して再生すると、また山から下りてくるんだ。ははは・・。」

 鬼は、どんどん近づいて来る。近づくほど、その異形の姿がリアルに見えてくる。身長は3メートルはあろうか。エラの張った、赤黒く醜い顔。頭には二本、牛のような角が生え、目は赤く光っている。口からは黄ばんだ二本の牙がはみ出している。

 やがて健一の、テレビのリモコンを持った手が写り、スイッチを何度も押している。

「あれ? あれ?」

健一の焦った声が聞こえる。どうやらリモコンの電池が切れたらしく、何度押しても、テレビは消えず、鬼はどんどん近づいてくる。
 初めは、鬼がカメラを突き飛ばすのかなぁ・・などと気楽に考えていたが、次の瞬間、俺は体が硬直した。なんとその赤い鬼は、テレビの枠に手をかけるとテレビからズンッと、上半身をテレビの外に出してきたのだった。

「ひ・・ひぇ〜〜〜〜」

健一の絶叫が聞こえた。と、一瞬画像がぶれたかと思うと画面が急に横向きになった。健一が恐怖のあまり、携帯電話を床に放り出したのだろう。携帯のレンズは部屋の隅から、部屋全体を写す形で停止した。
 テレビから出てきた巨大な赤鬼は、たった一歩で健一の前に来ると、そのグローブのような大きな手で健一の首をわしづかみにし、太い親指で健一の顎の下を、グイッと押し上げた。今までバタバタ暴れていた健一は、ボキッというにぶい骨の折れる音とともに、

「グエッ」

とうめいた。そして健一は首が、後頭部と背中がくっつく角度まで折れ曲がり、全身の力が抜けたように、だらりと鬼の手からぶらさがった。口からは大量の血が流れ出している。やがて鬼は、健一の身体を片手で引きずり、テレビの画面の中へと戻って行った。

俺は恐怖と混乱の中で、はっとした。今、付けっぱなしのテレビには、キャンプ場が映っている。テ・・・テレビを消さなければ・・。
 俺はあわててテレビのリモコンを探した。そして、ふとテレビの画面を見た。そこには・・・、両手をテレビの枠にかけ、部屋の中へ足を一歩踏み出した、赤い鬼の姿があった。そしてその赤鬼の足の下には、テレビのリモコンが踏み潰され粉々になっていた。

おわり


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