スターダスト・マイライフ
Taku


 僕はホシ屋で働いていてる。
 ホシ屋というのは夜空なんかに浮かんでいるあのホシを製造、加工し、空に打ち上げる会社のことである。もっともその会社がすることは造られてきたホシのチェックと空への打ち上げだけで、製造、加工は子会社に頼んでいるのだ。そして僕はその子会社で働いている。つまり、正確にいうのなら、僕はホシを造っている工場で働いている、ということになる。だが親会社と子会社は同じ土地内に隣同士で建てられているため、そのふたつを合わせてホシ屋と呼んでいるのだ。
 そして僕が働いている子会社の部署は、一メートル四方の立方体の塊、おそらく金属かそれに近いものだろう、を星型にするのが主な仕事である。その塊はすごく重たくて、軽いもので五十キログラム、重いものになれば七十キログラムもあるので、二人で運ばなくてはいけなくなる。そのため、その部署では二人一組で二十組、つねに四十人がフルに働いているのだ。
 その塊を星型にするにはまず、ベルトコンベアーで運ばれてくる塊を二人で持ち上げ、プレス機械のところまで運び、平らな台の上に載せる。そして機械のスイッチを押すと上から星型の金型が降りてきて、その塊を星型にするのだ。そして星型になった塊をまた二人で運び、別のベルトコンベアーに乗せると、違う部署に行くようになっている。その違う部署では星型の塊に鍍金処理をして輝かせる加工をしている。その輝きはすごく眩しくて直視できないほどなので、そこで作業している人たちはみんなサングラスを掛けていた。さらに指紋がつくといけないのでゴム手袋もしていた。
 鍍金処理がされ、輝く星型になった塊は、ホシ、として本社、つまり親会社に引き取られることになる。そこで検査を受けて、問題がなければ空に打ち上げられ、やっと夜空に輝くホシになるのだ。



 その日も僕は相棒と一緒に塊を運んでいた。
 相棒は僕と同時期に入社した男で、茶髪で軽薄でへらへらとした人間だった。だが年齢が同じということもありすぐに仲良くなれた。彼は小柄なわりに力持ちなので、重い塊を運ぶのにずいぶんと助けられたりもした。
 僕たちは塊を運び、星型にし、そしてまた運ぶという行為を何度も繰り返しながら小声で話をしていた。本当はそれはやってはいけないことなのだけれど、誰も注意しないし、みんなそうやっているので僕たちも平気で話をしているのだ。そもそも僕たちは真面目に働いているし、話をしていても仕事の効率が悪くなるわけではないのでそんな規則はいらないと思うのだけれど、それでも上の人間、つまり会社の経営陣はそうは思っていないらしい。彼らは非常にモラルを重視していて、話しながら仕事をすることは能率の低下に直結すると思っているのだ。それは現場で働いたことのない背広組らしい考えだと、僕ら作業員は思っていた。
 とりあえずその日も僕らは仕事を真面目にこなしながら小声で会話をしていた。
「それでさ」と塊を運びながら相棒が聞いてきた。「彼女との関係はどうだい?」
「おおむね良好だよ」と僕は答えた。
「そうか」と彼はつまらなそうに言った。彼は僕が彼女と別れることを望んでいるのではなく、ただおもしろそうな出来事を探しているのだった。
 そう、僕には付き合って五年半ほどになる恋人がいる。彼女とは高校のときからの付き合いで、彼女もこのホシ屋に就職することを望んでいたのだけれど、この仕事は腕力がいるため、あまり女性を採用しないのだ。そのせいで彼女は落ちて、僕だけが受かった。そのときそのことについて彼女はひどく悔しがっていた思い出がある。彼女は僕と一緒に働けなくなったことよりも、ホシ屋に就職できなかったことを悔しがっていた。何故だかは分からないけれど、彼女にとってホシというのはなにかを感じさせてくれる存在らしい。彼女はいつも夜空に浮かぶ星空を見るのが好きだった。
 僕と相棒は二人で運んでいる塊を、プレス機械の台の上に載せた。相棒が機械のスイッチを押す。スイッチを押すのはいつも相棒の役目で、僕は金型が落ちてきて塊が星型になっていくのを見ているだけだった。
 金型が塊の上に落ちる。大きな音が響いた。なぜ僕らがホシを造っているかというと、そこにはたいした理由はないと思う。ただホシというのは地球から何光年と離れた惑星の輝きだといわれているが、それは嘘である。夜空にホシが煌めいているのは、それは僕らが造ったホシが煌いているのである。いくつも煌めいているホシはすべて僕らが造っているのだ。そもそも何光年と離れている惑星の輝きなんてのは肉眼で見えるものではないのだから。それと同じようにタイヨウやツキも造られていて、タイヨウを造っているタイヨウ屋、ツキを造っているツキ屋、などもいる。つまり空に浮かんでいる、もしくはそう見えるものはすべて造られているのだ。僕ら専門職の人間によって。
 機械のクレーンによって金型が上がる。塊は台の上できれいな星型になっていた。あとはこれに鍍金処理をすれば完璧なホシになる。僕と相棒は星型になった塊をまた二人で持ち上げ、運び、鍍金処理をする部署に繋がっているベルトコンベアーに載せた。星型が運ばれていく。それを見届けてから塊が運ばれてくるもうひとつのベルトコンベアーにまで戻り、塊を二人で持ち上げた。僕ら作業員は、ベルトコンベアーに載ってきた塊を運ぶ、プレス機械を使って星型にする、星型になった塊をベルトコンベアーまで運ぶ、という一連の作業を繰り返し順番でしている。ここで必要なのは器用さが要求される技術ではなく、ただの腕力と体力、それと単純作業に耐えうる飽きっぽくない性格だけだ。僕はその三つをそれなりに兼ね備えていたので、この仕事をつらいと思ったことは一度もなかった。
 持ち上げた塊をまたプレス機械まで運ぶ。そのとき入り口から一人の男が姿を見せた。四十歳くらいで背広を着ていて、見たことのない顔の男だった。だがこの工場内で背広を着ているのは大抵、上の人間、つまりすぐとなりにある本社の人間である。僕の頭の中に疑問が生まれた。なぜ本社の人間が現場に来るのか。彼らは僕らが製造、加工したホシを空に打ち上げるのがおもな仕事で、この現場にくるのは真面目に仕事をしているかどうか、視察しに来るときだけである。だがいまそこにいる男からは視察的な行動は見受けられない。どちかというと、その男は僕らの仕事を見に来た、というよりは、なにかを探しにきた、という感じがある。また頭の中に疑問が生まれた。この男はなにを探しにきたのか。まさか行方不明になったペットというわけではないだろう。本社の人間が現場に来るからには相当な理由があるはずである。それこそホシにかかわるような重大な理由が。
 男は現場をきょろきょろと見回し、それから僕ら作業員の視線に気付いた。僕ら作業員も仕事の手を止めて、その男のほうを見ていたのだ。男がバツの悪そうな顔をして現場から出て行く。僕は相棒のほうを見た。すると相棒も僕のほうを見ていて、それから首をかしげた。それは僕の、なにかあったのかな、という問いに対して、分からない、と返答しているかのような動作だった。僕はさらにまわりの作業員たちの顔を見回したが、だれもかれも一向に相棒と同じ顔、つまり分からないといった感じの顔をしている。ようするに僕ら作業員はなにも知りえないけど、それでもなにかが起きている、もしくは起こった、ということは唯一の知りえている事実だった。



 ホシ屋の勤務時間は午前八時から午後五時まで。つまり普通の会社と同じである。だが僕らに残業はなかった。ホシというのは錆びやすく、錆びたらもう二度と使い物にならなくなるため、造りすぎると本社の倉庫にストックされている古いホシから錆びてきて使えなくなるのだ。だから僕らに残業がなかった。残業をしてまで多く造っても意味がないし、多く造っても結局は錆びて使い物にならなくなるのだから。
 その日も僕ら作業員は午後五時になったので仕事を終えて、更衣室で作業着から私服に着替えていた。
 僕は脱いだ作業着をハンガーにかけて、ジーンズをはき、白色のシャツを着た。さらにその上から黒色のセーターを着込んだとき、すでに着替え終えていた相棒が声を掛けてきた。それは飲みに行かないかという飲み会への誘いだった。
「わるい」と僕は返答した。「これからデートなんだ」
「彼女と?」と相棒が聞いてくる。
 僕はうなずいた。「駅で待ち合わせなんだ」
「そうか」と相棒が言った。「なら仕方ないな。で、待ち合わせの時間は?」
「六時」と僕は答えた。「あと五十分もあるから、余裕で間に合うよ」
 相棒は自分の腕時計の文字盤を見て「そうだな」とうなずいた。
 実際その通りだった。この会社から駅までは歩いて十分ほどでつく。会社の入り口付近にある自動販売機でホットのブラック・コーヒーを買って一服してもなんら問題のないほど時間に余裕があった。
 着替えを終えた作業員たちが更衣室から出て行く。そして僕らも出ようとしたとき、出たはずの作業員たちが戻ってきた。なにか忘れ物でもしたのかと思ったがそうではないらしい。彼らがすべて更衣室に戻り終えたとき、入り口に四十過ぎの男が一人、現われたからだ。
 彼は警察の制服を着ていて、警察の帽子をかぶっていて、腰のベルトには拳銃も吊るしていた。間違いなく警官である。なぜ警官が更衣室に入ってくるのか。僕はそれを疑問に感じたが、それはすぐに解消された。その警官がその理由を説明してくれたからである。
 警官の話はおおむねこんなものだった。
 きょうの午後二時ごろに本社の倉庫からホシがひとつ盗まれた。倉庫にストックしてあるホシには通し番号が刻印されていて、盗まれたのはJ−100964。先週の火曜日に納品されたものである。それが何者かに盗まれた。犯人はおそらく内部の人間、本社か子会社の社員で、我々はその犯人を捜しているので、事情聴取をさせてほしい。というのが、警官の話だった。
 僕らは拒否しようとしたがそれをすると疑われることになるので素直にうなずいた。僕はデートの待ち合わせ時間が気になったが、事情聴取はすぐ終わると警官が言っていたのでまあいいだろうと思った。実際、事情聴取はすぐに終わった。だが僕らは解放されなかった。警察が現場を、この場合は事件現場、つまり倉庫を調べ、さらに会社の敷地内にいる警備員の話を聞いた結果、犯人はまだ社内にいるというのが分かったらしいからである。この会社に入るにはふたつある入り口を通らなければならず、そのふたつともに警備員が配備されていて二十四時間体制で出入りする人間を見張っている。その警備員の話では盗まれたとされる時間、怪しい人間は誰一人として会社の中には入ってこなかったというのだ。そのおかげで僕らは二度目の事情聴取をされることになった。この時点ですでに時計の針は五時五十分をさしている。僕はデートのことを警官に話した。すると中年のその警官は同情の色を顔に浮かべ、すまないね、と言った。つまり解放することはできないということだった。
 僕はため息を吐いた。とてもとても長いため息を吐いた。



 結局、解放されたのは午後九時になったときだった。僕はすぐに会社を出て、走って待ち合わせ場所、駅に向かった。だが待ち合わせ場所に彼女はいなかった。当然だろうと思う。なんせ約束の時間からは三時間も過ぎているのだから。
 僕はすぐ近くにあるベンチに腰を下ろし、ジーンズのポケットから取り出した携帯電話で、彼女の携帯電話の番号をプッシュした。コール。コール。コール……。無機質なコール音がいつまでも続く。もしかしたら彼女は携帯電話の近くにはいないのかもしれない。それとも僕からの電話に出たくないのか。とりあえず僕は電話を切らずにずっと耳にあててコール音を聞いていた。すると二分ほどたってから、もしもし、と不機嫌な声が聞こえてきた。すこし声にエコーがかかっていた。僕も、もしもし、と言った。それから待ち合わせに三時間も遅れた理由を話した。会社からホシが盗まれたこと。そのせいで警官から事情聴取をされていたこと。本当はそのことは警官から口止めされていたけど、それでも僕は話していた。
 すべて話し合えたあと、沈黙があった。その沈黙にはさまざまな思いがあるように思えたが、それがどんなものなのかは見当もつかなかった。
「もしもし?」と僕は声を掛けた。
 携帯電話越しにため息が聞こえてくる。それは怒りを飲み込み、そして大きくすべてを吐き出すかのようなため息の音だった。
『ホシが盗まれたことなら知ってる』と彼女の声が聞こえてきた。『ニュースでやってたから』
「もうニュースでやってるんだ」
『うん。夕刊にも書いてあった』という声のあと、またため息が聞こえた。『それなら、まあ、仕方ないか。遅れたことは許してあげる』
「ありがとう」と僕は安堵の声で礼を言った。
『そのかわり』と声が聞こえてくる。『きょうの埋め合わせはしてもらうからね』
「分かってるよ。いつ?」
 そうね、とほんのすこしの時間を置いたあと彼女は言った。僕は、分かった、と答えた。彼女の声からやっと不機嫌さが消える。僕はホッとした。それから携帯電話越しに聞いている彼女の声にエコーがかかっていることを言った。すると彼女は、ああ、とうなずいたあと答えてきた。
『いま、お風呂に入ってるの』
「それならまたあとから掛け直そうか?」
『いいわ、このままで。それよりさ、ホシが盗まれたことなんだけど』
 そのまま彼女は勢いよく自分の考え、つまりホシを盗んだ方法とその犯人の推理を話し始めた。彼女は売れていないミステリー作家で、どのくらい売れていないかというと、小説家になって三年ほどたつがまだ一冊しか本を出していなかった。そのくらい売れていない作家だった。彼女の書くミステリーは大胆というより無謀で、個性的すぎるほどに奇抜で、なにより現実的には無理がある話ばかりだった。それはミステリーというよりファンタジーに近いもので、それほどまでに突拍子のないストーリーだった。だが僕はそんな彼女の描く突拍子もないストーリーが好きだった。
 携帯電話を耳にあてながら彼女の話を聞く。つと見上げると夜空に無数のホシが輝いていた。僕らが造っているホシだ。その無数に輝くホシの中にひとつだけ、輝きが薄いものがある。あれは鍍金がはげてきて輝きが無くなりかけているホシだ。ホシというものは一度でも鍍金がはげるともう二度と使えなくなるため、あの輝きが薄いホシはもう終わりだろう。空から降ろされて、もう二度と打ち上げられることなく、廃棄処分されるのだ。そして新しいホシが打ち上げられる。
 僕は耳にあてた携帯電話を肩で押さえて、自由になった両手でジーンズのポケットからタバコの箱とライターを取り出し、箱から一本を引き抜いて口にくわえ、ライターで火をつけた。大きく吸って吐き出す。紫煙が夜の闇の中に溶けていった。タバコの箱とライターをジーンズのポケットにしまい、肩で押さえていた携帯電話を右手で持ちかえる。そのときホシを盗んだ犯人の推理をしていた彼女がいきなり『いまからウチに来ない?』と聞いてきた。話題の切り替えの速さと突拍子さ、いままで話していて話題からそれとはまったく関係ない話に切り替えられるその突拍子さと速さは彼女の才能のひとつだろうと僕は思っていた。
「いいの?」と僕は聞き返した。
『うん』と電話越しにうなずきが聞こえてくる。
「わかった」と僕は言った。
『晩御飯、用意して待ってるから、なにがいい?』
「なんでもいいよ」と僕は答えた。
『わかった』と彼女が言った。
 それから、それじゃあ、うん、と会話をして電話を切った。僕はベンチから立ち上がった。見上げた夜空には相変わらずホシが輝いていて、その中のひとつが完全に消えかかっていた。そんな夜だった。



 次の日。僕は彼女の家のベットの上で眼を覚ました。結局、泊まりになってしまった。だがそれもいいだろう。そんな日があってもいい。
 その日の朝は僕の希望通り、彼女が朝食としてハードボイルド・エッグとブラック・コーヒーを用意してくれていた。ハードボイルド・エッグはソフトボイルドになっていて、ブラック・コーヒーにはミルクが入っていたがまあいいだろう。僕らは談笑しながら朝食をとった。きょうもこれから会社なの、と彼女が聞いてきたので、うん、と僕は答えた。それから、きみの小説の進行具合はどう、と聞き返した。まあまあ、と彼女は答えた。半分くらいまでは進んでるから、再来月くらいには完成すると思う。でもこれが本になっても、きっと売れないんでしょうけどね。そんなことないよ、と僕は首をふった。そうね、と彼女が言った。もしかしたらどこかの物好きが買ってくれるかもしれないしね。それからブラック・コーヒーに口をつけた。僕もそうした。ミルクが入っているせいかブラックの苦味が薄くなっていたが、それでも香りはよかった。
 僕は朝食を食べ終え、彼女に見送られながら会社に行った。
 更衣室では昨日の事件、つまりホシ盗難事件のことで持ちきりだった。なぜそんなに盛り上がっているのか分からなかったので作業着に着替えていた相棒に聞くと、どうやら犯人が捕まったらしい。きょうの朝のニュースでやってたぜ、見なかったのかよ、と彼は言ってきたので、テレビのないところにいたんだ、と僕は答えた。そう、彼女の部屋にはテレビがないのだ。
「それで」と僕は聞いた。「犯人は誰だったんだ?」
「鍍金部長」と彼は答えた。
 鍍金部長、とは言葉通り星型になった塊を鍍金する部署の部長のことで、それなりに偉い立場にいる人間だった。
「ふうん」と僕は言った。
「なんでもさ、恋人にやる予定だったらしいぜ。婚約指輪代わりにさ」
「ふうん」と僕はまた言った。「あんな大きなもの、貰うほうは困ると思うけどな」
 だよなあ、と彼はうなずいて同意してくれた。
 鍍金処理が終わったホシは塊のころにくらべ小さく軽く、つまり軽量になっているわけだが、それでも二十キロから三十キロはある。そんなものを婚約指輪代わりに貰ってはたして嬉しいのだろうかと僕は思った。しかもそのホシは盗難したものなのだ。おそらく彼は輝くホシをプレゼントして自分の人生を輝かせようとしたのだろう。だがそれは失敗に終わり、輝かしい人生は一瞬にして暗く狭いものになった。ホシはすごく貴重なもので、それを盗むと最低でも禁錮三年に処されるのだ。
「お前はすんなよ」と相棒が言った。「彼女にホシのプレゼントなんてさ」
「しないよ」と僕は首をふった。彼女はホシが好きだが、それでもそれをプレゼントされても喜ばないだろうし、なにより盗品を贈ったらすぐに警察に突き出されるだろう。彼女はすごく正義感が強いのだ。
 僕は作業着に着替え始めた。きょうの朝礼は長くなるだろうなあ、と相棒が言ってきたので、そうだね、と僕は返した。それから着替え終わって作業着のズボンのポケットにタバコの箱とライターをねじ込んだ。相棒と一緒に更衣室から出る。そのときふと昨日の夜に見た夜空が思い出された。あの無数に輝くホシの中でひとつだけ消えかけているホシ……。
 あれは空から降ろされて星屑として廃棄処分される。星屑。それは僕らの、人間の人生に似ていると思った。青春が持続しているうちは輝いて、年老いてくると輝きが薄れ、そしてやがて完全に消え失せる。ホシの活動時間は短い。半年ほどで輝きが消えかかってくる。では僕らはどうだろうか。僕らの人生は、一番輝いているときの青春は、いったいどれほど持つのだろうか。いつまで輝いていられるのだろうか。
 いや、と僕は思い直した。いや違う、と。
 僕らは輝く時間を知っている。その期間の短さも。だからこそ、だからこそ青春のあいだは、その輝くあいだだけはより輝こうとしているのだ。星屑のような人生だからこそ、輝いているときに無茶をして、恋をして、仕事をして、冒険をして、好きなことをして、消えるその瞬間に満足だったと笑って消えれるように、僕らはより輝こうとしているのだ。星屑になるそのときまで。
 僕と相棒は仕事場で整列しながら社長の朝礼を聞いていた。やはり社長の朝礼は長くなった。だが僕は欠伸を噛み殺すのに必死でその話の半分も聞いていなかった。たぶんほかの作業員も同じだろう。そのくらいつまらなく無駄でなんの価値にもならない話だった。
 やがて朝礼が終わり、社長が現場からいなくなった。僕らは仕事を始めた。僕は相変わらず相棒と一緒に塊を運び、星型にし、それをまた運び、そんな作業を繰り返している。そして仕事が終われば彼女と昨日のデートの埋め合わせをして、そしておそらくきょうも泊まりになるだろう。そんなふうに僕の人生は過ぎていって、やがて星屑のように消えてなくなる。だがそれもいいだろうと思った。何気無い日常の中にこそ本当の幸せがあり、変わらない毎日の中で一生懸命に生きているからこそ輝くのだ。僕らはループしているかのような代わり映えしない毎日の中で、それでもそのなかで輝いて生きている。やがてくる消え失せるその瞬間、星屑になるそのときまで僕らは相変わらずの人生をおくり、そして輝く青春の中で笑いあって手をふってバイバイをして、あのときは良かったなと、最高に輝いていたと回想しながら消えていくのだろう。あの夜空に輝く素晴らしいホシのように。


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